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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第七章 ヒロインは旅立ちたい(ミカ)

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4.魔法でできること

 ルビーがお風呂に入っている間、私は小説を読んで過ごした。昔の実話だという王家のラブストーリーは、いくつもの困難を乗り越え無事結ばれて終わった。羨ましい。ひょっとしたらこの王子と結ばれた平民の女の子も異世界転生者じゃないだろうか。


 そんな事を考えているとルビーがお風呂から上がってきた。黒い光沢のあるワンピースがとてもよく似合っている。


「久しぶりだったから長湯しちゃった。やっぱりお風呂っていいねぇ。」


 そう言いながら勝手に水差しから水を飲んでいる。やはり遠慮というものは知らないらしい、元猫だから仕方ないか。


「・・・これから夕飯だけどルビーどうする? っていうかどうしよっか。ルビーがあのルビーだってみんなどうやったら信じてくれるのかな・・・」


「別にいいよ。ちょっと用事思い出したし。」


 ルビーはそう言って小さなベランダへ出た。夕方の風に髪をなびかせて気持ちよさそうに目を細めている様はやっぱり猫だ。


「ご飯いらないの?」


「いらないし。私のことは別に気にしなくていい。ミカは駆け落ちのことだけ考えて。あんまり時間ないよ?」


 物騒な言葉に顔を顰めてしまう。戦いねぇ・・・今までは暗殺だったけど堂々と王城内で剣をふるう人間が出てくるんだろうか。会いたくないなぁ。


 腕組みをして考えているといつの間にかルビーの姿が消えていた。まさか下に落ちたかと思って手すりから下を見たがいなかった。まあいつもの様に魔法で移動したんだろう。一言ぐらい挨拶してってもいいのに。


 さっきのルビーと同じ場所に立って北西方向を眺める。遠くに見える山のふもと辺りにドーナー領があって、そこに恋人と一緒に住むかもしれない。つい最近まで想像もしていなかったことが起ころうとしている。怖いけどまだ少し他人事だ。でもなにか大きな流れの様なものに押されていることは感じる。前世で進学するときや就職するときなんかにも感じていた大きな流れだ。ワクワクするような、まだここに留まりたいような。


「あ、おじさまに手紙書くの忘れてた。」


 慌てて室内に戻りペンを手に取った。おじさまへは簡単に相談したいことがあるとしたため、おばさまへは近いうちにお見舞いに伺いたいと書いた。到着までの時間差を考えると同時でもいいだろう。


 ちょうど食事を持ってきてくれた私付きのメイドへドーナー家への手紙を託す。ちなみにメイドからはドーナー家当主は今王都にいるということも聞いた。タイチはちゃんと調べてくれたらしい。そしてユウマがドーナー家から戻ってこないとの嫌な情報も仕入れてしまった。


「戻ってこないって・・・お泊り会って歳でもないでしょうに。」


「もう城には戻りたくない、ドーナー領に住みたいと仰っているそうですよ。」


 メイドは少し呆れたように言った。彼女でこれなのだから他の使用人は完全に呆れているに違いない。っていうかドーナー領に住むのは私だ。勘弁してほしい。


 夕食を食べ終わると、体を簡単に拭いて寝巻に着替えてすぐベッドに入った。明日朝食を食べたらすぐにドーナー家に行こう。ユウマを王城に戻るように説得して・・・説得できなかったらどうしよう。まともな判断ができるなら、今のこの国で王になんてなりたくないに決まっている。


 この国は今一部の貴族が既得権益を握って政治を膠着させている。その腐った神輿に担がれているのが国王だ。一番目立つところに掲げられているが、実際にはほぼなんの権限も持っていない。ただの憎まれ役、鬱憤晴らしの標的だ。そんな者になりたがる人はいないだろう。


 ユウマが王にならなければ、やはり私がやらなくてはいけないのだろうか。私が王になって、よしんばタイチが一緒にいてくれたとしても・・・幸せな家族を築ける未来は見えない。最悪政治的な判断で結婚相手を勝手に決められる可能性もある。


「あー、もうっ!」


 全く寝られる気がしなくて私はベッドから身を起こした。これまで何度も考えた話だ。考える度に頭をよぎるのは、ひょっとしたらこれから政治革命を起こすために私は転生したんじゃないかという考えだ。


 民主主義、社会主義、共産主義。詳しくはないがなんとなくは習った。一番恨まれる人数が少なそうなのは民主主義だ。一時的に王の権力を絶対のものとし、貴族制度を廃止。貴族領は全て領民に分配し、税は個人から直接徴収する。領主が行っていた治安維持は国の軍隊などを派遣し国が責任を持つ。


 口で言うのは簡単だが、一つ一つを実現させようとすると気が遠くなる。まず貴族制度の廃止だけでも十年はかかるだろう。その間なんど命を狙われるのか、そしてそれに耐えながらあらゆる貴族や関係各所を繰り返し説得するとか・・・マジ無理。私そんなに働き者じゃない。正義と情熱に燃える若人とかじゃない。


 そして残念なことに、うちの弟も私と同じタイプだ。どうしよう。


 私は立ち上がって部屋の中を歩き回った。何度考えても同じところで行き詰る。行き詰り過ぎて駆け落ちなんて言葉に飛びついたぐらいずっと行き詰っている。


 明かりをつけるのが面倒でカーテンを開けてみたが、部屋は薄暗いままだった。ふと思いついて浴室に向かった。手探りでさきほどルビーが”補充した”という石を掴んだ。手に握った途端、それは目が眩むような光を発した。


「魔法、か・・・」


 呟きながら石を手に部屋へ戻る。眩しすぎる光に目を細めながら新しい考えが浮かぶのを感じた。でもそれは、悪い考えだ。


「こんばんわ、ミカ。」


 突然部屋の中から声をかけられても、私はもう驚かなかった。


「こんばんわ、ルビー。その服やっぱり似合うね。」


 銀髪で黒いワンピースを着た美少女が首を傾げて微笑んでいる。本当に、まるでルビーの為の服であるかのようによく似合っていた。


「ありがとう。なんか呼ばれたような気がしたんだけど、呼んだ?」


 ルビーは私の向かいのソファに座りながら言った。


「まあ・・ルビーのことは考えてた。ルビーは政治に興味ない?」


「ない」


 キッパリ言われて笑ってしまう。


「そっか。今ね、うちの家族の未来について考えてたんだ。このまま王族として生きていくのも、王族から平民になって生きていくのも、結局力がないと無理なんだよなって・・・」


「私に何とかして欲しいってこと?」


 ルビーはあくまでも軽く言う。


「・・・私の知る限り、そんな力を持ってて協力してくれそうなのはルビーだけだった。ドーナー家をはじめ協力してくれる貴族もいくつかはあるだろうけど・・・それじゃ平等主義派と戦争になっちゃう。たかだか私たち四人の家族の為に。」


「私が負けても死ぬのは私一人だもんね。」


 ルビーは冷ややかに笑った。つられて私も苦笑する。


「違うの。ルビーは負ける姿が想像できなかったの。・・・私はたぶん魔法ってものに夢を見てるんだろうね。なんでも出来るんじゃないかって・・・」


「できるよ。」


 当然のように言い切ったルビーの顔をまじまじと見つめる。どこにも(おご)った様子はなかった。


「できるよ。ミカはただそれを願えばいい。」


「・・・何の為に? ルビーは何のために王族を守るの?」


「好きだから。私はユウマが好きだから、ついでにミカとその親も守ってあげてもいい。」


 真顔の告白に戸惑う。全然好きそうじゃないんだよなぁ・・・それに失敗したらルビーも死ぬんだろうし、命がけにしては軽いっていうか・・・


「ありがとね。」


 取り合えず私はそう言って微笑んだ。気持ちは嬉しい。でも簡単にお願いしていい話ではない。


「なんでやれって言わないの? 遠慮? それともどうせ私にはできないって馬鹿にしてんの!?」


 怒鳴ってるけどルビーは怒っているというより拗ねているみたいだ。ちょっと可愛い。


「簡単に巻き込んでいい話じゃないでしょう? ルビーにはルビーの人生だってあるんだし。」


「私の、人生・・・?」


 ルビーは不可解そうな、なぜか一瞬泣きそうな顔をした。


「うん。ユウマだけが男じゃないんだし、王族に関わらなければもっと平穏な人生を送れると思うよ。ルビー可愛いし。」


「・・・私が魔女だってこと忘れてない?」


「あー、忘れてるっていうか、よくわかってない。魔女って結局なんなの?」


「帰る。」


 ルビーがそう言って突然立ち上がったので私は慌てて謝った。


「え、ごめん、言い方が悪かった。あの、馬鹿にしてるわけじゃなくて、魔法が使えるってこと以外よく知らないから。気を悪くしたならゴメンね。」


 ルビーはしばらく無言で私を見下ろした。


「・・・”かわいそうなおひめさま”っておとぎ話知ってる?」


「え?」


「読んでみて。あれにでてくる魔女、私のことだから。」


 それだけ言うとルビーは姿を消してしまった。私はただ昼の様に明るい室内を見回すことしかできなかった。




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