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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第五章 魔女と神様(マリア)

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4.神の家

 目を覚ますと柔らかい布団に寝かされていた。木の天井に木の柱、あちらの国とは色々勝手が違うようだ。


 とても静かな足音が近づいて来て、部屋の前で止まった。


「マリア様、お加減はいかがでしょうか。」


 知らない女の声だ。


「・・・悪くない。」


 そう答えながら私は身を起こした。寝起きでややぼんやりしているが、気分は悪くなかった。


「シバ様よりよろしければ昼食を共にしないかとの伝言を預かっております。如何いたしましょう。」


「食べる。」


 女は短く返事をすると顔も見せずにどこかへ行ってしまった。どうやら今は昼のようだ。知らない場所なのにずいぶん無防備に寝てしまったものだ。


 欠伸をしながら部屋の外に出た。廊下は長く薄暗く、沢山の部屋があるようだった。どこに行けというのやら。


 廊下で戸惑っていると一つの扉が開いてパルが出てきた。


「師匠、何してんの?」


 なんとなくムカつくのは何だろう。昨日会ったばかりだがこいつを見ていると”小賢しい”という言葉がよぎる。


「・・・寝てただけだ。飯は?」


「隣の部屋だって。」


 そう言ってパルがまた違う部屋の扉を開けた。床に敷物が敷いてあり、どうやら床に座って食べるらしい。席は三つあった。目についたところに座って胡坐をかくと、パルが呆れたように言った。


「師匠、ここ多分わりと偉い人の家だよ? 胡坐はやめたら?」


「じゃあ椅子もないのにどうやって座るんだ?」


「知らないけど、足は閉じなよ。」


 パルの言葉は無視して部屋の中を眺める。やはりどこもかしこも木でできていた。火をつけるとよく燃えそうだ。だがどこを見ても歪みの一つもなく奇麗に整っていた。


「お待たせしました。」


 その言葉と同時に扉が開いてシバが入ってきた。奇麗な姿勢で足音一つさせずに歩くさまはこの家に似ていた。シバの後ろから女が入ってきて足のついた盆のようなものを三人の前に置いて退室した。見たことのない料理だが美味しそうだ。


「お口に合うといいのですが。」


 シバはそう言って笑うと食事を食べ始めた。私とパルもそれに続く。食べたことのない味付けだったがそれなりに美味しかった。食事中は誰も喋らなかった。私は食べながらここに来た理由を思い出そうとしたが思い出せなかった。ルビーの男が殺されないようにするんだっけ? 別に私はどうでもいいんだけど・・・なんでこんな所までわざわざ来たんだろう。


 食べ終わるとパルが足が痛いと言い出した。膝下に全体重をかけるような座り方をしていたんだから当たり前だ。シバは足を崩せばいいと笑った。


 入ってきた扉を反対の扉を開けると、薄曇りの庭が見えた。どうやら昨日の夜案内された外に面した木の廊下と繋がっているらしい。よくわからない構造の家だ。


「しかし見事な桜ですね。」


 パルが感心したように言った。


「ええ、自慢の桜です。女神を呼び寄せてくれました。」


 シバがそう言って私を見て微笑んだ。視界の隅でパルが片眉を上げた。やっぱりムカつく坊主だ。


「パル、私たちって結局何しに来たんだっけ。」


「・・・ユウマの暗殺を阻止するためだったような?」


「なんでそんなどうでもいい事の為にわざわざ来たんだろ。」


「ルビーが煩かったからですよ。あいつしつこいから。」


 なるほど。そう言えばそうだった。私はシバに向き合って言った。


「シバはなんでユウマを殺そうとしてるの?」


「ユウマはいずれこの国の民を沢山殺しますから。たった一人の命で沢山の命が救われるなら、それは仕方ない事でしょう? 殺される前に殺さないと。」


 シバは優しく微笑んで言った。だけどそれは悪魔の理屈だ。やはりこの男は半分は悪魔らしい。


「なんで未来のことがわかるんだい? 今のところユウマはただの子どもだったけど。」


「私は神ですので。わかりますよ。」


 シバは微笑みを崩さずそう言った。こっちはシバが何を言ってるのかさっぱりわからんが、とにかく本人は分かってることになっているらしい。未来を予知するの魔法なんて聞いたことがないが、そもそも天使と悪魔が融合している未知の存在が実在する以上、ないとは言い切れない。


「そっか。北の国と揉めるとドーナー領がまた戦場になるなぁ・・・」


 パルが急に顔を顰めて言った。知り合いでもいるんだろうか。戦いは国境辺りで始まるだろうから、確かにドーナー領が無関係でいられるとは思えない。


「ええ、戦いを事前に阻止するためにユウマには死んでもらわないといけません。」


「だったら僕はシバにつこうかな・・・別に僕はユウマはどうでもいいし。」


 パルが伸ばした足を所在なげにブラブラさせながら言った。この家は土足禁止なので落ち着かないらしい。私は昔地面にゴザを敷いて生活していたのでむしろ気に入った。慣れるとすぐ横になれて便利だし。


「そうですね・・・そうしてもらえると無用な戦いをせずにすみます。」


 シバは微笑みを絶やさない。これでシバとパルvsルビーの戦いになれば、私がルビー側につかないとルビーの負けだろう。別にどうでもいいけど。


「・・・まあ、戦いが始まりそうになったらまた来ますね。ごきげんよう。」


 パルは立ち上がると優雅に礼をして部屋を出て行った。そして玄関辺りで気配が消えた。瞬間移動でどこかへ行ったのだろう。


「そちらの国には一瞬でどこかへ行ける技術があるのですか?」


 シバが不思議そうに言った。


「魔法だよ。あんたもできるだろう?」


「魔法で移動・・・私にはできませんね。何故でしょう。」


 シバは首を傾げた。確かにシバぐらい魔力が強い悪魔なら普通はできる筈だ。天使の部分が邪魔しているんだろうか。確か天使は瞬間移動ができなかった気がする。


「残念だね。瞬間移動ができれば直接ユウマの所に行って殺せたのに。」


「ええ、残念です。私が直接一人で移動するのは難しいですからね・・・」


「何が難しいの?」


「私が一人で行こうとしても皆さん心配して付いて来てしまうのですよ。そうなると戦いになり大勢の人が死にます。そうならないように少人数にお願いしているのですが・・・なかなか難しいようですね。」


 ため息をつくシバがそこはかとなくムカつくのは何故だろうな。


「・・・まあいいや。私は暇だからしばらくここにいるよ。桜も奇麗だし。」


「もちろんです。いつまでも居てくださいね。」


 私は昼から酒を所望したがシバは文句を言わなかった。神も酒好きなのかと思い勧めてみたが、用事があると言ってどこかへ出掛けてしまった。


 縁側とか言う木の外廊下に寝そべり、酒を飲みながら桜を見上げる。なかなかに悪くない風景だった。時折強い風が吹くとはらはらと花が散るところも良い。


 何時間も桜を眺めていると、使用人らしき女が時々新しい酒や摘まみを持ってきてくれた。後ろからはジロジロと見ているくせに、私と視線が合いそうになると頑なに目を伏せる女が面白くて話しかけてみた。


「シバにあいつとは話すなって言われてんの?」


「・・・まさか。あの方はその様な事は仰いません。」


「あんたはあの男のなんなの? 愛人?」


 挑発するとやっと女と目があった。40歳ぐらいに見えるが妙に色っぽい女だった。


「そんな事冗談でもやめてくださいまし。あの方は神様ですよ。」


 あー、なるほど。信者か。


「昔、神を名乗って女を囲うクズを見たことがあるよ。それ以来私は神ってやつが嫌いなんだ。」


 ニヤニヤしながら言えば、女は分かり易く目を吊り上げた。


「あの方はそんな人ではありません! 少年の様に純粋な方です。」


「少年の様にねぇ・・・図体と態度はでかい癖に心だけはまだ少年だって言い張る男は反吐が出るけどねぇ。」


「シバ様はまだ13歳ですし、お体はともかくとてもお優しい方です!」


「13!? 身長180センチぐらいあった気がしたけど・・・」


 女はあからさまにしまったと言う顔をして口を押えた。そして無言のまま立ち上がり戻ってくることはなかった。


 シバが13歳というのが本当なら、成長が異常に早いという事なんだろう。天使や悪魔だからと言って成長が早いというのは聞いたことがないが・・・やはりシバはちょっと特別なのかもしれない。確かに明るい所で見ると少し違和感があった。見た目は成人男性なのに子どもが背伸びしたままごとをしているようなそんな違和感が。


 考え事をしながら酒を飲んでいるといつの間にか眠ってしまっていた。シバに声をかけられて目を覚ますと夕方だった。あの使用人の女はもう私の面倒を見てくれないらしい。


「マリアは風邪を引きますか?」


 シバが私の横に座って言った。子どもだと思って見てみればなるほど子どもっぽいかもしれない。


「悪魔は病気にならないよ。天使だってそうだろう?」


「そうなんですね・・・私は神だから特別なのかと思ってました。」


 思わずシバを見ると、シバは邪気のない顔でにこにこと笑っていた。


「これまで他の悪魔とか天使に会ったことないの?」


「悪魔の魔力を持つ方なら何人かありますよ。いずれも犯罪を犯してしまった方々でしたが・・・」


 シバが少し悲しそうに首を振る。芝居がかった仕草だ。ひょっとするとこの男が言う”結婚”とはお手々繋いで一緒に眠るだけのことを指すのかもしれない。


「・・・まあいいや。腹減った。昼食べてないから多めに食べたい。」


 そう言うとシバは嬉しそうにすぐ用意すると言って立ち上がった。私はぼんやりと桜を眺めながらこの先何をすべきかを考えた。



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