1.魔女マリア
私が人間だった頃をもう思い出せない。それぐらい私は長く生きている。
悪魔とは激しい恨みや憎しみを魔力に変換できる者がなる生き物だ。悪魔の魔力は石となって体内に宿る。そしてその石の魔力を使い切った時悪魔は死ぬ。悪魔が死んだら体は崩れ去り石しか残らない。人は残った石を悪魔の石と呼んだ。
かつては人間も魔力を持っているのが普通だった。だからちょっとしたきっかけで悪魔になる人間も大勢いた。特に女は悪魔になりやすかった。
ある日どこかの貴族が、女を拷問すると奇麗な石を残して消えるのを発見した。地獄のような時代が幕を開けた。
何人もの罪のない女が、男が、殺された。悪魔を燃やすと悪魔の石が手に入る、そう言って燃やされた。悪魔だから燃やすのだと、これは悪魔への罰なのだと。
私は人より多く憎み、恨み、妬み、いつしか大魔女と言われるようになった。沢山の人を殺される前に殺した。そして誰もいなくなった。ただ死んでいった悪魔が残した石だけが私の周りにあった。魔力を帯びた石は美しい。殺してでも奪いたいという気持ちがわかってしまうほど美しい。
私はその中でもとびきり大きい黒い石を自分の体の中に入れた。他人の悪魔の石を体内に入れると、その石が持つ魔力を使うことができる。逆を言えばその魔力を使い果たすまでは死ねない。別に私は長生きがしたい訳ではなかった。ただその石を置いていくことができなかっただけだ。黒い石の持ち主は背の高い男だった。私と一緒に金と権力に抗い続けた男だった。
私は残りの悪魔の石を土に埋めて旅に出た。死にたいと思ったが、私の中の膨大な魔力がそれを許さなかった。私は彼を愛していたんだろうか、死んでも一緒にいたくて彼の石を体内に納めたんだろうか。
一人ふらふらとさ迷っていると、私を女神と呼ぶ男に出会った。私を熱烈に褒め称え、愛してると繰り返した。私も嬉しくなってその男と暮らすことにした。だけど男は数十年で死んでしまった。夫が死んでも涙一つこぼさない私を、人は魔女と呼んだ。いつまで経っても死ぬ気配のない私を、強い魔力でとんでもない魔法を使う私を、人は魔女と呼んだ。魔女と呼んで恐れ、敬い、嫌悪した。
体内の黒い石がどんどん小さくなり、私は自分の死期を悟った。死ぬ間際に小さな魔女と出会ったのは少し楽しかった。若い魔女はうるさくて図々しくて勝手だった。輝く銀髪と赤い目はかつての自分の姿を見ているようだった。これだけ美しければ好きにもなるだろう。かつての夫の気持ちを知ったようで愉快だった。
強い魔力を持つ悪魔は、残した石を元にまた生まれる。体は死んでもまた生まれてきてしまう。きっと生まれ変わりに必要な魔力がなくなるまで続くのだろう。もはや罰だ。
そうしてまた私は生まれた。目的はない。魔力も大して減ってないのでまた数百年生きるだろう。数少ない友人は世界から去っていた。かわりに知らない悪魔と天使がいるようだった。かつて私を師匠と呼んだ小娘がまた会いに来た。なぜか猫になってたし、相変わらず無礼で馬鹿だった。
全部暇つぶしだ。そう自分の言い訳しながら私は北の国にきた。長すぎる人生への、細やかな抵抗と暇つぶし。この世のどこにも、私の居場所なんてないのだから。




