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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第四章 北の国事変(パル)

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北の国事変②

 夕食の席は誰も喋らなかった。領主もその娘もルビーも全員押し黙ったまま食事を終えた。異様な雰囲気に給仕人が怯えるほどだった。


 与えられた部屋は広く何人でも泊まれそうだったが、ルビーは入ってこなかった。おそらくあの死んだ娘のそばにいるのだろう。あいつは思い込みが激しいから。


 一人でぼんやりしていると扉がノックされた。返事をすると領主自らが僕の鞄を持って部屋に入ってきた。


「わざわざどうも。服しか入ってなかっただろう?」


 夕方僕は屋敷の使用人に町の宿屋を引き払って荷物を持ってきてくれるように頼んだ。別に荷物を調べられても困る物なんて何もない。


「名前はパル・ソドムでいいのかい?」


 領主は荷物を置くと勝手に僕の向かいへ座った。


「そうだ」


 おそらく宿の記帳を見たのだろう。自宅は王都の住所を書いた筈だ。実際家はあるんだから間違いではない。


「パル・ソドムといえば伝説のデザイナーだが、突然人前から姿を消して100年以上経つ人物だ。君はいま何歳なんだい?」


「数えてないから知らないけど、200年は生きてるかもね。」


「・・・昔、ドーナー家の人間と何かがあったってことでいいのかな?」


「ご想像にお任せする。」


 赤茶の目が探るように僕を見る。この短時間で随分色々調べたようだ。だが別に丁寧に説明してやる謂れもない。


「心配しなくても長居するつもりはないよ。・・・僕はね。ルビーは知らないけど。」


「そうしてもらえるとありがたいね。」


 領主はそう言い捨てると部屋を出て行った。彼はまだ僕が悪魔だということを信じ切れていないらしい。強情な奴だ。


 ソファーに寝転がって目を瞑ったが眠れる気はしなかった。代わりに思い浮かぶんだのは領主の娘の顔だった。名前はなんだったかな・・・そう言えば聞いてないな。オドオドしてムカつく娘だった。


 夜中過ぎに眠るのをあきらめてルビーの元へ行った。ルビーは死んだ娘のベッドに腰かけてぼんやりとしていた。


「ルビー、出掛けないか?」


「今から?」


「うん。暇だろ?」


「・・・まあ、そうね。」


 ルビーと手をつないで部屋を出た。薄暗い廊下で護衛らしき人間が警戒しているのを横目に階段を降りる。


「馬車で行くの?」


「馬でいいんじゃない?」


 そんな会話をしながら馬舎に行くと、眠っていた馬たちが暴れだした。二人乗せて長距離を走れる丈夫そうな馬・・・泡を吹かんばかりに騒いでいる馬たちの横で一頭だけ静かな大きい馬がいたのでそれを引きずり出す。馬は嫌がったが目を見て威圧すると大人しくなった。動物はわかりやすくていい。


 馬舎の外に出ると馬丁らしき人間が腰を抜かしていた。失禁したらしき匂いまでする。


「ねえ、馬に乗るなら鞍がいるわよねえ?」


 ルビーの呼びかけにも答えずただ唖然とした顔でこちらを見ている。まるで悪魔でもみたような顔だ。


「ねえ聞いてる!?」


 イライラしたルビーの声に馬丁は飛び上がった。そしてよろよろと鞍を持ってきて馬に乗せて言った。


「あの・・・この馬はシャル様が大事にされている馬で・・・」


「あっそ。借りるって言っといて。」


 恐る恐る言ったであろう馬丁の言葉を軽くいなしルビーは馬の背に飛び乗った。置いて行かれそうなので僕も慌てて後ろに飛び乗る。ルビーはさっさと馬を走らせ始めた。馬は従順にルビーのいう事を聞いている。


「この子いいこねー。さすがドーナー家の馬って言えばいいのかしら。」


「かもね。シャルって誰?」


「シャルはさっきの娘。シャルロット・ドーナーだったかな。男が苦手らしいからあんまり近寄っちゃダメだよ?」


「・・・それ僕が言う通りにする必要ある?」


「妻の言う事ぐらいたまには聞きなさいよ。」


「夫の言う事を聞いたらね。」


 軽口を叩きながら馬を走らせていると、だんだんあたりが明るくなってきた。少し休憩を取ることにして馬から降りる。近くには何もないのでルビーが馬に上を向かせて直接口へ水を流し込んでいた。相変わらず雑な女だ。


「そう言えばこの山は来たことなかったな・・・」


「私はあるけど。湖なかなか奇麗だったよ。」


 二人で山を見上げる。ここから見ると特になんの変哲もない山だ、越えられない訳がない。だが本当に超えられないのであればなにか人知を超えた力が働いているのだろう、魔法とか。


 またしばらく走って山のふもとで馬を降りた。湖への行き来の為の道があるが、念のため馬はその場に置いていく。馬を連れながら人に見つからないようにというのは無理だからだ。最悪誰かが見つけるだろうし、馬が賢ければ自力で屋敷に戻るかもしれない。


 湖は山を少し上ったところにあった。軍の人間がうろうろしているので気配を消して二人で眺めた。ルビーは山に入った時から全く喋らなくなった。かつて一緒に来た恋人のことでも思い出しているんだろう、雑なくせにセンチメンタルな女だ。


 湖から上に行く道はない。僕らは草を掻き分け倒木を越えて進むことになった。


「ああもう! 全部燃やしたい!」


 ルビーは怒りながら上っている。僕は疲れるので黙っていた。足で移動するのは疲れる。


 何年か前に目覚めた時にはすでに瞬間移動の魔法は使えなくなっていた。どうやら魔力を大量に消費する魔法が使えないようだ。それと関係あるのか、普通の人間から魔力が消えているらしい。僕が子どもの頃はみんな魔石という便利なものを使って生活していたが、今のドーナー家の屋敷には魔石が一つもなかった。きっと魔石を作れる者がいないのだろう。


「パル」


 ぼんやりしながら上っていると、ルビーに声をかけられ僕は頷いた。どうやらここが頂上のようだ。薄い膜のような魔法が地面から空まで広がっている。横は山の頂上に沿ってどこまでも広がっているようだ。果てが見えない。


「破れないほどの魔法じゃなさそうだけど・・・問題は破ると何が起こるかだよな。」


「破ってから考えたら?」


「誰が何の目的で張ったんだと思う?」


「魔法防御でしょ。」


 予想外の返事にルビーを見ると、ルビーは当たり前みたいな顔をしていた。防御というには圧が強い魔法なんだけど。


「あっちとこっちのどっちから張ったと思う?」


「あっち。なんかこっちを押さえつけたいみたいな圧を感じる。恨みこもってるよね。」


 僕は正直そこまではわからない。だからルビーのいう事を信じることにした。


「恨みだけでこれだけ強力な魔法を使うなら、これはこのままにしておいた方がいいかもね。」


「そうね。私も今はいいや。」


「僕も止めとくよ。もっと暇になったらやろう。」


 二人の意見が一致したので僕らは元来た道を戻ることにした。帰りはルビーが魔法で力任せに道を作っていたので楽だった。


「誰の仕業だと思う?」


 僕の問いかけにルビーは首を傾げた。


「どうだろ・・・私たちの知ってる範囲でアレができるのって師匠かミツさんかアダールさんぐらいだよね。でも三人とも今この世界にいないじゃない?」


「いないね」


「だから知らない魔女なのかなって・・・私たちが寝てる間に新しい魔女が生まれたのかもね。」


 新しい魔女か・・・魔法を使える人間が生まれなくなった時代ではちょっと考えにくい気もするが、ありえない話ではない。この国と北の国では状況が違うかもしれないし。


 そんな事を考えていると、落ち葉で滑る場所を避けてルビーが僕の胸に飛び込んできた。 


「危ないだろっ」


「妻を抱きとめるのはいつだって夫の役目よ?」


 ルビーが僕にしな垂れかかって言う。馬鹿な奴だ。仕方なくルビーの手を引きながら山を下りた。湖は陽の光を受けてキラキラと光っていた。こういう水が見える場所の近くに家を建てて住むのもいいなと思った。ルビーは嫌がるかもしれないけど。


 山を下りると馬は乗り捨てた場所でちゃんと待っていた。僕らに懐いているとは思えないがどういうことなんだろう。ルビーは無邪気に良い子だと喜んでいる。


「あ、鐙がついてる。」


 ドーナー家を出た時にはなかった鐙が馬につけられていた。つまり誰かが追ってきたということだ。だが辺りを見渡してもそれらしい人物はいなかった。


「パル? 行こうよ?」


「・・・まあいいか。」


 ルビーに続いて馬の背に飛び乗ると、鞍もいつの間にか二人用のものに変わっていた。これで服が傷むのを少しでも防げるといいんだけど。体は治癒魔法をかけられるが、破れた服を縫う魔法を僕は知らない。


 しばらく二人で走っていると後ろから凄い速さで馬車が追いかけてきた。あまりのスピードに馬を止めて待ってみると、馬車から降りてきたのはシャルだった。無茶なスピードをだしたせいか足元がよろよろしている。


「待って・・・ください・・・その馬は・・・」


 全部を言い終わる前にシャルがその場にしゃがみ込んだ。仕方なく馬を降りて手を貸してやる。


「何してんの? キミ。」


 シャルは僕の手を取ったが立ち上がる元気はないらしく、地面に座り込んだまま動かない。僕の左手に乗せた小さくて白い手を見る。柔らかくて苦労していない手だ。貴族のお嬢さんとして大切に育てられたんだろう。


 しばらく待ったがシャルは動かないので、仕方なく体を抱き上げて立たせた。シャルは真っ赤になって後ろによろけたのでまた地面に倒れそうになり、慌てて抱き寄せる。なんんなんだコイツ。


「妻の前で浮気ですかー?」


 ルビーは馬に乗ったまま囃し立てた。うるさい。


「ご、ごめんなさいっ。あの、あれは私の馬なんで、私が乗ります。あの、お客様は馬車に乗ってください!」


 僕の腕の中でシャルが言った。僕に話しかけているはずだが全く目が合わない。確認の為に目を合わそうとすると、大げさに仰け反ってまた後ろに倒れそうになった。マジでなんなんだコイツ。


「ハイそこまでー。妻の目の前で浮気する奴は火あぶりにしますよー。」


 馬から降りてきたルビーが僕とシャルを引き離した。


「貴様が言うとシャレにならんな。」


「シャレじゃないので。」


 ルビーは少し怒っているらしい。真顔でシャルを馬の方に押しやると、僕の手を引っ張って無言で馬車に乗り込んだ。ま、別にいいけど。


 ルビーが馬車のドアを閉めると馬車は勝手に動き出した。窓から後方を見るとシャルが馬によじ登っているのが見えた。台もないのによく登れるもんだ。


「・・・気になるの?」


 ルビーがそっぽを向きながら僕に言った。


「今さら浮気だなんだと言われると思ってなかったよ。どうしたの?」


「あの子は・・・ダメでしょ。」


 ルビーが窓の外を見ながら言った。


「・・・何がダメなのかわからないな。」


 僕がそう言うとルビーはこちらを見ることなく黙った。そうして二人とも黙ったまま、馬車はドーナー家の屋敷に戻った。


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