2.ここが創作された世界である根拠その二
ここが創作された世界である根拠その二:彼氏がイケメン過ぎる
まず私は面食いではない。顔がいい男は女に甘やかされて当然という態度を取る奴が多いので苦手だ。可愛い女子が我儘なら性格悪いですむが、イケメンが我儘だと甘やかさないといけないという圧を感じる。私の被害妄想かもしれないが、とにかくイケメンとは関わらないに限る。
だが私の彼氏はイケメンだ。たぶん客観的に見てもイケメンだと思う。それこそ乙女ゲームの攻略対象であってもおかしくないぐらいイケメンでツンデレだ。
彼、タイチは最初私のことが好きではなかった。本人は言葉を濁していたが、どうも私のにじみ出る陰気オーラが苦手だったっぽい。だから私は一生懸命彼を口説いた。男の口説き方なんて知らないからとにかく物を上げてみたり我儘を言ってみたりした。黒歴史だ。甘酸っぱいというより封印したい過去だ。でも最後にタイチが笑ってくれたのでそれで良しとする。
そんな素敵な彼氏だがもう10日も顔を見ていない。どうやら引きこもりの母の警備に回ったらしい。母が怯えるので家族でも近づくのは止められているため私はなかなか彼に会えない。一目だけでも会いたいという乙女心を抱えて私はずっと悶々としている。異世界転生とか言いだすほどに。
でもそろそろ限界だ。これ以上一人で考えていると全てが妄想だった気がしてくる。この世界でも空には太陽と月が昇るが、それは向こうが動いてるせいで大地は動かないとされている。自転とか公転とかそれでも地球は回っているとかない。そもそも地球なんて私の妄想かもしれない。
私は自分の正気を保つため、城を歩いてタイチを探すことにした。私も王族なので基本的に城の中はどこへでも行ける。母の部屋付近は難しいが、タイチはそれ以外の場所にいることもある筈だ。
私はとにかく城の中をグルグルと歩き回った。だが半日ほど歩いてもタイチの姿を見ることは出来ず、最終的に一緒についてきていたメイドと近衛が音を上げた。
「訓練場に、行ってみられてはいかがでしょうか。」
年配の近衛が呆れたように言った。この男は私がタイチを好きなことを知っている。あまり大っぴらにするとタイチまで暗殺対象になりそうでなるべく隠してはいるが、知っている人は知っている。恥ずかしいけど仕方ない。
「訓練場?」
「・・・ご案内します。」
近衛はそう言うと先に立って歩き始めた。弟が剣などの訓練をしているのは知っているが、私は戦闘訓練を全くしたことがないので当然場所も知らなかった。
知らない道を通り外をしばらく歩くと遠くから剣戟の音が聞こえてきた。馬小屋の匂いもする。城にこんな場所があるだなんて知らなかった。
「ほら、そこに。見えますか?」
近衛が指さす方向に剣を打ち合っている二人組がいた。片方の黒髪で背の高いのがタイチだ。私は目が悪いので顔ははっきり見えないが、輪郭だけでわかってしまう。
乙女のように両手を胸の前で組んだポーズをしていることに気が付き、私は慌てて手を下した。でもよく考えたら私は今18歳でまだ乙女と言ってもいい年齢だ。たとえ精神年齢がアラフォーだとしても。
しばらく見ているとタイチが急にこちらを振り返った。そしてそのまま剣を人に預けてこちらに走ってくる。あまりのカッコよさに眩暈がした。ニコニコと、まるで私に会えて嬉しいみたいに笑うとか、奇跡! 私は今まさに奇跡を目撃している!
「どうされたんですか? 姫様。」
近くで見るほんのりと汗をかいたタイチは本当にカッコよかった。だけど姫様と呼ばれたことで少しだけ我に返った。彼は少し前まで専属で護衛していた対象に挨拶しに来たにすぎないのだ。
「少し、通りかかって。」
後ろで近衛の妙な咳払いが聞こえたが無視する。気にしたら負けだ。
「そうですか。」
タイチはまるで何もかもわかってるというような顔で笑った。カッコいい。そして恥ずかしい。俯いてもじもじしているとタイチが言った。
「・・・姫様の為にちゃんと訓練してますよ。」
その言葉に慌てて顔を上げたが、タイチは走って訓練場の方に戻っていく所だった。まだ全然顔見てない! ちょっと戻ってぇぇぇと心の中で叫んだが、口に出せる筈もなかった。
いつもはかけている眼鏡をしてなかったのは壊れると危ないから? 私の為に訓練してるっていうのは、私との将来を真面目に考えてくれてるから? っていうかなんでそんなにカッコいいの? 私のこと好きなのってほんと? なんで近くまで来てくれたのに2mも距離を取ったの?
黙って背中を見送っていた私に近衛が帰りを促した。
「・・・ありがとう。」
半分不貞腐れながら言うと、近衛とメイドは微笑ましそうに笑った。本当の18歳なら微笑ましいで終わったのだろうが、なんせ中身が倍の年齢なので笑えない。
私がこの世界を作り物だと思う最大の理由、それはあんな素敵な人が私なんかを好きになるはずがないからだ。やはりここは平凡な王女であるヒロイン(私)が、ヒロインパワーを使って彼を射止めたに違いない。異論は認める。




