1.魔女の完璧な計画(ルビー)
私の計画は完璧だったはずだ。
愛する男の15歳の誕生日に、私は猫から美しい少女に変身してこう言うはずだった。
「待たせてごめんね。これからは人間としてあなたと一緒にいるわ。」と。
彼は感激してきっと私の手を取りこう言っただろう。
「まさかルビーが人間だったなんて! 嬉しいよ、これからもずっと一緒だね。」
そして二人は幸せに暮らしたはずなのだ。なのに!なのに!なのに!
「にゃんで私は猫のままなのよ!!」
「・・・だまれ魔女。」
これ以上ないというほど不機嫌な顔をした男が唸るように言った。男の名前はパル、さっき百年以上の眠りから私が叩き起こした。
「貴様が馬鹿なのは貴様のせいだ。死んで詫びろ。」
「にゃんでよ! 私を人間にしてくれたら消えてあげるからさっさとやってよ!」
「そんな魔法知らん。自分で猫になったんだろ? じゃあ自分で戻れよ。」
「私だってそうしたいけど戻らにゃいんだからしょうがないでしょ! なんとかしてよ!」
「だから知らないって」
「あのー・・・」
恐る恐る声をかけてきたのはシャルルという赤髪の男の子だった。猫である私の言葉を理解してくれる子だったので都合よく連れ歩いてきたのだが、まだいたのか。
「あの、俺ちょっと失礼して親呼んできてもいいですか?」
「親?」
「はい。”ドーナー家の悪魔”が目覚めたとなると一大事ですので・・・」
「どうせもう伝令が走ってるよ。ドーナー家の子だよね? ぼやっとした顔してんな。」
悪魔が欠伸しながら勝手に返事した。少しずつ目が覚めてきたらしい。部屋の中をキョロキョロと見回している。
「っていうか今っていつ? 僕どれぐらい寝てたの?」
「そんにゃのどうでもいいから早く私を人間に戻してよ!」
「だから黙れよ魔女。あとその喋り方苛々する。」
「だったら早く戻してよ! そしたら普通に喋れるし!」
パルは不機嫌そうにしばらく喋りかける私を無言で見つめた後、私の首根っこをつかみ窓の外へ放り投げて窓を閉めた。正直いくらでも室内に戻る方法はあるが、悪魔があそこまでへそを曲げているなら今は何を言っても無駄なんだろう。
私はプリプリしながら愛する男の元へと戻った。男の名前はユウマと言ってこの国の王子だ。金の髪に青い目の可愛らしい子で今年15歳になった。
「ユウマ!」
名前を呼んでユウマに体を擦りつける。残念ながらユウマは私の言葉がわからないので、可愛い猫がニャーと言ったとしか思っていないらしい。だけど手のひらで頭を撫でられるととても嬉しい。私は条件反射的にユウマの膝に座って丸くなった。ユウマが昼間一人でいるなんて珍しく、私はすっかり嬉しくなってゴロゴロいいながらそのまま眠ってしまった。猫なので。