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結成!

「やぁ、司令官室とはここで良かったかな?」


ノックされた扉に向かって入室を促すと、この時代にしては珍しくスーツ姿の紳士がにこやかに入室してくる。

一見すると、何処かの役人が監査のために入室してきたようだった。

司令官を見れば同じ気持ちだったらしく、ギョッとした表情で手元の経歴書を握りしめる。


最初に入室してきた紳士の後に続くように、若い男女、精悍な顔つきだが何処かニヤけた顔の男、そして少しトウのいった中年の男が入室してくる。

中年の男が私を見たとき、少し鼻の下を伸ばしているのを見て、“あぁ、募集の新兵か”と思い出す。

そう、この男のように、こちらが油断していれば何をされるかわからない目。

これこそ、明日を夢見ぬ傭兵の顔だ。


“あぁ、そう言えば考古学の教授が入隊志望者にいたな”と、すんでで思い出し、咳払いを1つ。

その咳払いに我に返ったのか、司令官も慌てたように咳払いをすると姿勢を正す。


「おぉ、待っていたぞ。君達が今回入隊志望と言うことで集まったメンバーかな?」


「ウム、ここにいるメンバーとは輸送船の中で知り合ってね。

聞けば皆同じ傭兵団の入隊志望だというから、皆で一緒にここまで来たわけだ。

あぁ、自己紹介がまだだったね、私はオロジスト。

ハリソン・アーク・オロジストだ。

ところで、君がこの傭兵団の司令官かね?」


「は、ハリソン君。

き、君ね、私はこう見えてここの大隊の指揮官なのだよ?

大学教授だったのはわかるが、も、もう少しこう、敬意とか、ホラ、そういうのあるだろう?」


「あー、オッサンがこの部隊の一番偉い人なんスかぁ~?」


作業着にジャケットを羽織った姿の女の子が、近くのソファーにドカリと座る。


ハハ、我が大隊の司令官殿の威厳の無さは、秒で見抜かれたようだ。


「ほぅ、この壺はそれなりに年代物だなぁ。」


中年男は喧騒には興味が無いとばかりに、周囲の調度品を値踏みしている。

何処かの軍隊で経験を積んでいるのか、若い男と精悍な男は休めの体勢のまま、無表情にその場から動かない。

我が司令官殿と教授、小娘のやり取りには参加しない方針のようだ。

それでも、若い男はやはりまだ若いからか、チラとこちらに助けを求めるような視線を送ってくる。


私はため息をつくと、静かに立ち上がる。


「総員!気を付けぇ!」


即座に、若い男と精悍な男は姿勢を正す。

意外なことに、中年の男も、“おっと、いけねぇいけねぇ”と呟きながら列に加わり姿勢を正す。

“フム、そうであったな”と、教授も列に加わり姿勢を正す。

残りは小娘だが、応接テーブルの上の茶菓子に手を伸ばしながら、嘲笑に似た笑顔を向けてくる。


「それ、アタシもやんなきゃダメ?」


私は眼鏡の位置を直しながら、静かに見下ろす。


「おいお調子者(ルーニー)、それではつまらんぞ。

やるなら、もっと面白いシーンの演出を心がけろ。」


“チェッ”と呟きながら少女も列に加わり、姿勢を正す。


私は背筋を伸ばし、司令官を遮るように彼等の前に立つ。


「よく来てくれた!

我等は諸君等の応募を歓迎する!

諸君等は自身のAHMも持っており、“最も採用に近い兵士”ではある。

だが、我々の仕事は常に命がけで、時に仲間に命を預ける事もある。

隊の和を乱す者、上からの命令に従えない者、他者に協力できぬ者は採用出来ない。

また、今回新兵は募集していない。

そこで、今から20分後にシミュレーターによる模擬戦を行う。

各員、パイロットスーツを着用の上、格納庫前のシミュレータールームに集合!

以上、解散!

走れ!」


「「「アイ・アイ・マム!!」」」


全員が回れ右をし、順所よく扉を出ると小走りに走る音が遠ざかっていく。


「司令官、もう少しビシッと言って下さらないと、隊の指揮に関わります。」


ばつの悪そうに頬をかく司令官に、私は眼鏡の位置を直しながら諭す。


デスクの端末の電源を落とすと、私も格納庫近くにあるシミュレータールームへと向かう。

司令官も、思い出したかのように私の後に続く。

やれやれ、先が思いやられる。



シミュレータールームに到着すると、今回募集の兵士達がパイロットスーツ姿で整列している。


私は改めて隊員名簿をめくり、一人一人確認していく。


「ハリソン・アーク・オロジスト!

バリサン・テックスキー!

貴殿達のAHMは、我々傭兵団の登録に無い機体である。

その為、今回用に用意した標準AHMデータで試験を行う。

ファイズ・ミストランド!

ラルフ・ローランド!

スマート・エコ!

3名のAHMは改造が加えられてあるため、同じくデータで再現が出来ないと技術班から連絡が来ている。

その為、同機体の標準装備型データで試験を行うものとする。

各員、質問はあるか?」


「……あの~、アタシ、“リントヴルム”以外は動かした経験無いんだけど?」


バリサンが手を上げて、申し訳なさそうにこちらを見る。


「へっへっ、お嬢ちゃん、AHMなんてのはクラスに違いが無けりゃ、操縦感覚なんて大して変わらんよ。

それよりも、各国家で採用している操縦方式の違いの方が、パイロットには致命的だろうさ。」


「何それ! オッサン、それkwsk(詳しく)!!」


「お勉強会は後にしろ、お調子者(ルーニー)

今スマートが言ったとおりだが、その辺りは安心して貰いたい。

各員の機体の操縦方式に合わせて、シートは調整されている。

ただ……ラルフ・ローランド!。」


私はチラリとラルフを見る。

本人は動揺する事無く、短く返事をするとまっすぐ前を見ている。


「貴殿のAHM、“エクスキューショナー”はシロニア製だと思うが、何故コクピット回りが“旧ロズノワル共和国仕様”なのか、教えて貰えるか?

あの機体は、言うなれば帝国式と同じフレキシブルユニット式を採用していた筈だが?」


私の問いに、ラルフは一瞬だけ返答に詰まった様に見えた。

だが、彼が答える前に、ハリソンが口を挟む。


「副官殿、それは違う。

“エクスキューショナー”はシロニア連邦に製造工場が残っているが、アレの出自は旧文明産だ。

確か新光暦1750年代にファーストロットが製造されており、それ以降に各国家、と言うよりは当時の辺境工場でライセンス生産されているモノだ。

その為、基本生産ラインは旧文明の操縦席を再現しており、シロニア連邦は一度生産した後で、フレキシブルユニット式のコクピットに改造しているはずだ。」


私が問いたかったのはそう言うことでは無い。

だが、この博識な教授の言葉により、その機会は失われた。


「オーケー教授、講義はまたの機会に致しましょう。

それでは各員、シェイカーに乗り込め。

これより模擬戦闘を開始する。」


問題児ばかりの、前途多難な部隊になる予感がする。

その時の私の感想だ。

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