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彼等の事情①

【ハリソン教授の都合】



「は?ジョージ兄さんが?」


部屋の中、私のデスクの前で渋面を作る男から告げられた言葉で、私は固まる。

どうしていいか分からずに窓の外を見れば、グラウンドでは複数人の若い男女が、ラクロスで汗を流している。


青春の一時。

この時間から先は、厳しい社会の荒波に揉まれていくことになる。

学び舎というモラトリアム。

それは決して、悪い事では無いだろう。

彼等に過去の遺失物がどれだけ価値のあるモノかをいつも教えているが、感銘を受ける生徒は少ない。

むしろ、それを見つけるまでの冒険譚を喜ぶほどだ。

彼等にも、もう少し浪漫を持っていて貰いたいものだ。


「ハリソン様、で、どうなされますので?」


その声で、現実に引き戻される。

我がオロジスト家の長男であるジョージが、AHM訓練中の事故により身体機能に重大な損傷を受けた。

その為、急遽兄弟姉妹にAHMの乗り手という家督を継がせなければならなくなったのだ。

もしも継ぎ手がいなければAHMと領地は没収、一族郎党全て、路頭に迷うこととなる。

私もこうして考古学の教授などやっていられなくなる。

それだけは避けなければならない。


……モラトリアムなのは、私も同じ事か。


「しかし、ウチにはまだスティーブン兄貴がいるだろう?

兄貴はなんて言っているんだ?」


「ジョージ様の件を受けて、当然我々もスティーブン様にお話を伺ってきております。

……スティーブン様は、相続を放棄されました。

元々ルーカス家に婿入りしているので、家督は継げないと言うのが理由です。

その為、私共もこうしてハリソン様を伺わせて頂いた、と。

それとも、弟君のショーン坊ちゃんか、妹御のオードリー様に家督を継がせますか?」


解っていたことだが、最後の抵抗も呆気なく折られる。

少し前、スティーブン兄貴に連絡したとき、“商売が儲かって楽しい”と言っていた。

アイツはアイツで、今の生活が気に入っているらしい。

……私も、もう少し、ショーンが成人したなら、何処かの弱小貴族に適当に婿入りするつもりだった。

考古学は素晴らしい。

かつての文明の香りを嗅ぐと、たまらなく生きていると感じるほどだ。


だが、それもここまでか。

タイミングの悪さに、思わず失笑する。


「いや、それならば仕方ないさ。

流石に責任をショーンになすり付けることは出来ないよ。

……わかった、私がオロジスト家を引き継ぐよ。」


渋面の男は、漸くホッとした顔になると、手続き書類をデスクに開く。


「ありがとうございます。

それでは、こちらの契約書にサインを。

サインが終わりましたら、ハリソン様は正式にオロジスト家当主、ハリソン・アーク・オロジスト様となります。

今後は王国の騎士として、オロジスト家所有のAHM、“インディアナ”を……。」


「待ってくれ。

確か王国遺跡法の38条に“遺失技術の探索に関して”の項目があったよな。」


土壇場で思い付く、起死回生の策。

私が大学教授になったのは、失われた科学技術、それの発掘と調査がしたいからだ。

まだ見ぬ古代の遺跡が私を呼んでいるのだ。

こんな所で、責任と義務でがんじがらめになってたまるか。


「え、えぇ、ですがあれは前大戦、旧時代に成立した、古臭い法律ではございまして……。」


「古かろうと、存在しているならそれは今も有効な王国法だ。

アレに則り、私は労役を王国軍に属さぬ形で提供する。」


王国遺跡法。

遺跡発掘を生業としている私には馴染みの深い法律。

基本は国際遺跡法を準拠する形で作られたその法律の38条とは、“資格を持ち、承認を受ければ国家の枠組みを超えて遺跡探索を許可する”と言うような内容だ。


ここから類推解釈され、国家に属さない、例えば傭兵等になり遺跡探索をする事が許されているのだ。

この場合、毎年成果物を王国に納めなければならないが、そんな事は私の知ったことでは無い。

私は(・・)遺跡の(・・・)研究が(・・・)出来れば良い(・・・・・・)のだ。

所持云々は、誰かが考えれば良い。


冷や汗をかく王国の使者を尻目に、私はこの後の計画を頭で練り始める。


「フフ、フフフ、あ~っはっはっは!!」


完璧だ。

まずは適当な傭兵団を探そう。

どうせなら王国星図M4からM9エリアくらいに至る場所で募集をかけているような傭兵団が良い。

あそこは旧ロズノワル共和国の工業惑星群があったはずなのに、まだ遺跡は何一つ見つかっていない。


常々行きたいと考えていたのだ。

そうと決まれば行動だ。

目の前の使者が差し出す書類を一瞬で把握し、サインをする。

いかがわしい項目はケチをつけ、そして王国遺跡法を持ち出すことも忘れない。

これで私はAHMは受け取るが、家督はジョージ兄さんのままだ。

後は適当な傭兵団だが、軍部にもそれなりに知己はいる。

端末で彼を飲みに誘うと、すぐさまコートと帽子を掴み、私は大学を後にするのだった。




「あれ、ハリソン教授の講義って無くなったの?」


「あぁ、またいつもの冒険に行ったんじゃない?」


大学の生徒達は、教授のいつもの悪い癖が出たな、と口々に噂し合い、そして空いた講義の時間を思い思いに楽しむのだった。

正直、文章の長さは一定じゃ無いです。


多分この方が一番長いかも (未定)。


ハリソン・アーク・オロジスト

オロジスト家三男

外見年齢30歳程度

考古学教授(かつての先鋭文明専門)

出身は旧ロズノワル共和国(現王国領)

オロジスト家伝来AHM“インディアナ”

50tクラス力天使(ヴァーチャー)級AHM、“グリフォン”が原型

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