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とある傭兵団にて

「遅い!」


その部屋で、1人の男が怒りをあらわにしていた。


だが、次の瞬間には、その男は大分薄くなった頭に手をやり、この怒りで何本か抜け落ちていないかを、近くにいる秘書にバレない様にそっと確認する。


デスクで端末に部隊の運用費用の入力をしていた秘書は、眼鏡の位置を調整するフリをしながらソレを盗み見ると、また端末に視線を戻す。


「ニーナ君、新任の彼等はいつ来るんだね?

指定した時刻はもう5分も過ぎているのだよ!!」


ニーナと呼ばれた秘書は、仕方なしに顔を上げると眼鏡の位置を調整する。


「司令官、彼等の乗る便が遅れているとお伝えしたはずです。

予定時刻から30分ほど遅れが見込まれ……、ホラ、到着したようですよ。」


冷ややかな視線を自分に向ける秘書に気押されながら窓の外に目を向ければ、航宙艦から切り離された輸送船が、滑走路に着陸し始めていた。


あそこからここに来るまで、確かに後2~30分はかかるだろう事は、司令官の男も理解する。


ニーナはチラリと腕時計に目を落とし、自分の目算は間違っていなかったと心の中でガッツポーズ。

しかし、表情は変えずに冷ややかなまま、再度司令官に目を向ける。


「司令官、貴方はこの傭兵団の長なのですから、もう少し落ち着いて、席に座って待っていたら如何ですか?」


その頭と同じように薄い人徳が、すぐにバレますよ?とは言わないでおく。


この人も昔は凄かったのだが、とニーナは司令官を改めて見る。

今や軍服がいつ弾け飛んでもおかしくない突き出た腹に、酸欠で死んでしまうのでは無いかと心配になるほど軍服の襟で締め付けられた太い首、極めつけはその頭と、かつての栄光は何処にも見えない中年オヤジがそこにいた。


この傭兵団、“白禿鷲ホワイト・ヴァルチャーズ機甲大隊”も、今や“白禿豚”団と噂されているほどだ。


(次の就職先も考えておこうかしら?)

そんな事を思いながら端末に目を落とし、再び業務に戻る。


白禿鷲ホワイト・ヴァルチャーズ機甲大隊は、もう50年以上も各地を転戦してきた、それなりに歴史ある傭兵大隊だ。

任務達成率も60%以上と、それなりの戦果もある。

いや、あった。


最近になって結成された“黒犬民間傭兵社(ブラックドッグPMC)”という傭兵部隊はまだ達成率100%だと聞くが、どうせ長く続けていればその達成率も落ちていく。

100年以上歴史がある傭兵部隊などは平均任務達成率は60%前後。

最強と名高いマッドピエロ重機兵団ですら、その任務達成率は55%だ。


そう、業界の評判は決して悪くは無い。

だが、つい最近請け負った依頼、シロニア連邦国境戦に置いて、我々は敗走。

依頼未達成によりシロニア連邦から解約され、ボロボロのまま、ここダウィフェッド王国と何とか契約が取れたのだ。

直近での評判はガタ落ち、そして失ったAHMとパイロットを補充するべく、依頼に向かう前に壊滅した第3中隊の再編を急いでいる所だ。


そして今はその、肝心の補充人員を待っていたところだった。


「じ、自前のAHMを持っているって言うから採用を決めたけど、ほ、本当に大丈夫なんだろうね?」


ハゲが先程から経歴書を見つつ、何度も確認をしてくる。

最初のうちは返事をしていたが、あまりにもしつこいので最早無視していた。


この時代、貴族でも無いのに自前のAHMを持っていることの方が不自然だ。

どうせ、厄介事を山ほど抱えた奴等なのだろう。


だが、そんな事に目をつぶらなければならない程度には、我々はボロボロなのだ。


白禿鷲ホワイト・ヴァルチャーズ機甲大隊は、最近では珍しい5機一個小隊の編制を取っている。

4機一個小隊と比べると1人の負担が低くなり、練度の低い部隊員でも即戦力になるため、採用ハードルが下がる。

だがそれは、損耗したときに人的補充の労力が他よりもかかる、と言うことでもある。

今まで引き受けていた仕事は、どちらかというと物量で何とか達成していたにすぎない。

そのツケが、今回の国境戦に置いて露呈した形だ。


まさか国境沿いに、帝国軍の精鋭部隊がいるとは思わなかった。

少数の精鋭部隊に、こちらの戦線を突破された挙げ句に防衛拠点を潰されてしまっていた。

あれは敵ながらに見事としか言えない進軍だった。

あの時、真っ先に我が軍を突き抜けたのが、帝国で“戦槍(グングニル)”の二つ名を持つヴォータン小隊だと、後で知ったことだ。

あんな精鋭がいるなら、もっと依頼料をふんだくるべきだった。


(まぁ、考えていても仕方ないか。

ともあれ、マッドピエロの所の“皆殺しの灰被り姫(キリング・シンデレラ)”みたいなイカれた奴じゃなければ、誰でも良いわね。)


今回の採用でAHMの補充費用が多少は浮く。

部隊費はまだ真っ赤っかにならないで済む。

後は配属される新人だが、これは多少なりともまともな人格であればいいか、と、ニーナは扉を叩く音を聞きながらボンヤリ考えていた。

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