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転職士の野望~現代で散々転職に失敗した俺は職業固定の世界の価値観をぶち壊す~  作者: 波 七海
第1章 辺境編

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第5話 新たな決意

 就職の儀(リクルゥトゥス)が終わってから、アスターゼの態度は変わった。

 両親も目を見張る程の変化で、朝のランニングから家庭菜園の手伝い、父親による剣術の稽古、そして読書と彼の1日はあっと言う間に過ぎていく。


 音無静として生きた前世では、精神的に追い込まれて多くの人に迷惑を掛けた上、悔いのある人生となってしまった。

 この世界で同じようなことを繰り返したくはない。

 騎士(ナイト)の息子、アスターゼとして何ができるかは分からないが、決して悔いのないように生き抜いていきたかったのだ。


 音無静の父は世界的な規模を持つフライチャイズのチェーン店として店舗を任されていた。しかし、あまりの激務に父が過労で倒れたため、静が代わりを務めることになったのだ。まだ若かった静は、空手で培った精神力で、初めこそその溢れる精神力とみなぎる体力で業務をこなしていたが、じょじょに心身を消耗していくこととなる。


 本部からの理不尽な命令と冷徹な対応に悩まされ、ガチガチの業務契約に縛られて身動きも取れない。

 更に人手不足により1人で店を回さざるを得ないことが多くなり、ロイヤリティも払えない程の赤字が続いた。肉体的にも精神的にも追い込まれた静は、本部に何とか契約条件の見直しなどを求めたが、聞き入れられることは決してなかった。逆に反抗したことに不満を持たれたのか、店舗近くに同じフランチャイズの直営店を建てられると言う嫌がらせまで受けてしまったのだ。


 精根ともに疲れ果てとうとう店はつぶれてしまい、借金を負うことになった静であったが、心を奮い立たせて再就職の道を模索した。しかし、なんとか就職しようと転職活動に勤しむ彼であったが、何故か中々決まることはなかった。経歴に特に問題はなく、本人も恥の多い人生を送ってきたなどとは全く思っていなかったため、とにかく自分を信じて面接を受け続けた。落とされても落とされても転職に挑む内に静の転職に掛ける想いは誰よりも強いものとなったのである。


 落とされ続ける内に、どこかに違和感を覚えた静は、ひょんなことから、ことの裏にフランチャイズ社長の嫌がらせ、つまり就職妨害があることを知ってしまう。

 広い人脈を持つ社長が裏から手を回して妨害工作をしていたのだ。

 心神耗弱(しんしんこうじゃく)を通り過ぎて心身喪失(しんしんそうしつ)状態にまで追い込まれていた静は激昂し、発作的に社長一家を惨殺してしまう。


 確定死刑囚となった静は、刑を執行され、前世での生を終えたのであった。


 そこでこの転生である。

 静からアスターゼとなり、彼はこの世界で悔いのないように生きてやると心に誓った。また、心身喪失状態で、しかも散々自分に嫌がらせをしたとは言え人を殺してしまった身としては、この世界の人々の幸せを実現するために生きようとも考えていた。


 ――そう、自由に転職が可能な何にも縛られない国家を作るような


 アスターゼは12歳になり、幼馴染のアルテナやエルフィスと共に色々な場所を冒険してまわっていた。

 最初は自分の職業(ジョブ)を嫌がっていた二人であったが、現在では割と受け入れたのか、アルテナは聖騎士(ホーリーナイト)として、エルフィスは神官(プリースト)として村の周囲に出没する害獣の駆除なども積極的に行っていた。


 流石に魔物と戦うことは許されなかったが、獣を倒してもキャリアポイントを得ることができるため、3人は村の近くにある森に棲むラヴィラビィを中心に狩りを行うようになった。

 ちなみにラヴィラビィは鋭い牙と角を持つ兎のような獣である。

 それ程キャリアポイントを溜めることは出来なかったが、そこはアルテナもエルフィスも気にしていないようであった。


 アスターゼは、現在、転職士から鑑定士を経て騎士(ナイト)に転職して狩りや稽古を行っていた。現時点では出来ることはまだ少ないものの、並行して職能やその特性などについて出来る限り検証していく。


 転職士の能力のマスターしていたため職業熟練者(ジョブマスター)となっている。

 とは言え、転職士の職能〈転職〉で習得できる特性は【ハローワールド】のみなので神から職業を与えられた瞬間からマスターしていた訳なのだが。

 最初から【ハローワールド】を習得できていなかったら、他の職業に転職はできなかっただろうから、アスターゼとしては幸運だった訳だ。


 アルテナも職能〈聖剣技〉の一つ【神聖剣】を覚えていたし、エルフィスも職能〈神聖術〉の【ヒール】、【キュアポイズン】を覚えるに至っていた。

 ちなみに職業レベル―ー職位が上がって特性を覚えると、その職能をセットしていなくても能力を使うことが可能なので、アスターゼとしてもどんどんキャリアポイントを稼ごうと努力を惜しまなかった。


 こうして3人はすくすくと成長していったのである。


 そんな中、村にネイマール商会と言う大店が店舗を出す話が持ち上がり、あれよあれよと言う間に村に似つかわしくない大きな店舗が建てられた。

 このスタリカ村支店は、大きな商会の店だけあって安価な品物を提供することができ、村の他の店の業績を圧迫していった。

 更に支店長のドンレルはかなり、あくどい性格をしていた。

 巧みな話術で村の老人を騙し、高価な物を売りつけていたのだ。

 アスターゼが習得した鑑定士の特性【鑑定】を使用した結果、彼らが買ったものは悉く偽物や粗悪品だったのだ。

 鑑定結果を教えてもドンレルに直接、品物を売りつけられた者はその結果を頑として受け入れない。


 完全に信じ込んでいるのだ。


 流石にその場にいなかった家族たちは、品物は価値の低い物だと分かったらしく騙された者の説得を試みていた。

 鑑定するまでもなく低品質だと分かる程、見た目からして出来が悪かった品物は多かったのである。


 アスターゼは騙された人々を粘り強く説得したが、彼の職業が転職士と言う理解できない職能を持つものである上、鑑定士でもないことから大人たちは彼の言い分を聞かなかった。


 耐性がないと職業の能力やスキルには抵抗(レジスト)できない。


 それなりに大きなスタリカ村はワインと言う特産があり、蓄財している者が結構存在していた。

 このままではドンレルに財産を根こそぎ奪われてしまうことにもなりかねない。


 それを危惧したアスターゼはスタリカ村の子供たちで組織していた『アルテナ騎士団』を招集した。

 名前の通り聖騎士(ホーリーナイト)アルテナを団長に結成した十人からなる騎士団だ。

 アルテナには抗議されたが、アスターゼが参謀に就任すると言うことで妥協してもらった。


 団員の胸には青の輝石(エクジェンス)のネックレスが光り輝いている。

 これはどこにでもある鉱石で一塊の石を砕いた物を意識を共有したい者同士で持つことで特殊な効果をもたらすのだ。

 これを持って念じれば、他のメンバーに知らせが行く仕組みになっている。

 青の輝石(エクジェンス)は、一種の精神同調をもたらす鉱石で、詳細は未解明だそうだ。

 アスターゼは団員各自の身に危険が及んだ場合に使用するよう言い聞かせていた。


「皆に集まってもらったのは他でもない……」


 アスターゼの言葉から会議は始まった。

 すぐさま、アルテナの間延びした声が響く。


「何があったの~?」


「参謀! 早く早く!」


 忙しない団員たちを手の平を前に突き出して制すると、アスターゼはゆっくりと説明を始めた。


「ネイマール商会のことだよ。支店長のドンレルが大人を騙して粗悪品を売りつけている」


「そあくひん?」


「ああ、偽物とか質の悪い物ってことだよ」


「悪者ってことだねーわかるよー」


 団員は皆8歳から12歳までまちまちである。

 幼い子供たちは、まだまだ未成熟でいちいち騒がしい。


「このまま放っておけば、皆の家からお金が無くなって生活が苦しくなる」


「父ちゃんが言ってた! 今年の冬は厳しくなるって!」


「ドンレルは悪者だ。悪人はどうする?」


「はいッ!」


「良し。カノッサ!」


「アルテナ騎士団規則その壱! 悪は成敗すべし!」


「その通りだ。よってドンレルは成敗する」


 成敗と言ってもアスターゼに殺すつもりなどない。

 この世界の司法制度はまだまだ未成熟なようで、教会が神の名の下に断罪したり、絶対の権力を持つ施政者が独断と偏見で裁いたりすることが多いらしい。アスターゼは自分たちのやることも一種の私刑だと自覚しながらも、この歪んだ世界を正すために力を尽くすことにしたのだ。


「証拠はある。俺が鑑定した結果、売りつけられたのは全て低ランクの無価値な物だった」


 ドンレルの職業(ジョブ)詐話師(さわし)であった。

 アスターゼがこっそりと鑑定したところ、得られた情報はこのような物であった。


名前:ドンレル

種族:人間族(ヒューマ)

性別:男性

年齢:46歳

職業:詐話師(さわし)

職能1:(だま)

職能2:-

加護:運気上昇Lv2

耐性:威圧Lv4

職位:(だま)すLv6


 鑑定士の職能〈鑑定〉の【鑑定】ではこの程度しか情報が分からないようだ。

 習得している特性やその効果などは分からないし、もしかしたら他にも見えない情報があるも知れない。

 〈鑑定〉には他に【看破】、【全能の眼】があるが、キャリアポイントの関係で習得はできていない。


「それでどう成敗するんだ?」


 エルフィスの言葉にアスターゼは、真剣な顔で皆に告げた。


「試してみたいことがあるんだ」

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