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第4話 てんしょくし

 結局、アスターゼの結果はひとまず保留と言うことになり、残りの子供たちの儀式が執り行われた。

 ちなみにエルフィスの職業(ジョブ)神官(プリースト)で、彼はその結果に滂沱(ぼうだ)の涙を流して嘆き悲しんだのは言うまでもないだろう。


 集まった全員の儀式が終了した後、アスターゼとその父親だけが残るように申し渡された。父親のヴィックスも困惑しているようで、まだ幼い自分の息子に形容し難い視線を送っている。場所は大広間で、急遽テーブルと椅子が運び込まれて聞き取りの場がセッティングされた。司教(ビショップ)神官(プリースト)一人、そして鑑定士の男がアスターゼとヴィックスの向かい側に座っている。


 手元には鑑定結果が記載された紙が置かれている。


名前:アスターゼ・サーベラス

種族:人間族(ヒューマ)

性別:男性

年齢:6歳

職業:転職士

職能1:転職

職能2:-

加護:不撓不屈(ふとうふくつ)Lv10

耐性:精神耐性Lv5

職位:転職Lv10


「それで、『てんしょくし』と言う職業に心当たりはありますかな?」


 転職士のアクセントが全然違っている。

 本当にこの言葉を理解していないのだろう。


「心当たりも何も……ご専門はそちらでしょう。鑑定士殿が分からないのに私たちに分かるはずがありませんよ」


「それはごもっともでありますな……」


 困った顔をして答えるヴィックスの反応に、ちらりと鑑定士の方を見る司教。

 それを感じ取った鑑定士もどうにもお手上げと言ったリアクションをとる。


「そんな目で見ないで頂きたい。鑑定結果の情報は先程述べた通りです。その他のことは何も記されておりませんでしたので」


「となると、本人に能力を使ってみてもらうしかないのでは?」


 壮年の神官(プリースト)の男は最も手っ取り早いであろう方法を提案する。

 アスターゼもまぁそれしかないだろうなと感じていた。


「しかし、就職後にすぐ能力を上手く扱える子供はほとんどいないしのう」


「職業訓練ですか」


 司教(ビショップ)の言葉に神官(プリースト)はため息交じりに言った。


「うむ。経験を積んでその能力を習得してからでないと行使することはできぬ」


 その辺りはアスターゼも理解していた。

 『職業大全』と父親のヴィックスの説明から、能力の獲得には対価としてキャリアポイントを消費する必要があると言うことを。

 このポイントは別に能力を使わなくても魔物と戦ったり、習得した術を使ったりすれば獲得できるものだ。


「それで、能力の習得にはどれだけのキャリアポイントが必要なのだね?」


 そう聞いてくる司教にアスターゼは、自分の状態を確認する。

 状態確認しようと意識すると、脳内に鮮明に情報が浮かび上がった。

 就職の儀(リクルゥトゥス)の前まではそんなことはなかったので、この儀式によってこの能力が与えられたのは間違いないようだ。

 アスターゼは、キャリアポイントの数値を確認すると特に隠すことなく質問に答えた。


「五○○○ポイントですね」


『ごッ!?』


 この場にいるアスターゼを除く全員が驚きの声を上げる。

 どうやら五○○○と言うキャリアポイントはかなり多い部類のようだ。

 少し盛り過ぎたかとアスターゼは反省する。

 本当のところは一五○○ポイントである。


「そ、そうなると能力を使用できるようになるまでどれだけかかるか……」


「戦闘は可能な職業(ジョブ)なのかね?」


「一応、装備できる武器には剣、短剣、ナイフなどがあるようです。戦闘も可能かと思われます」


 彼らが考えていることは、転職士のまま戦闘などを行ってキャリアポイントを地道にコツコツと獲得していくと言うものだ。しかし、五○○○ポイントともなると、その特性である【ハローワールド】の習得に何年かかるか分からない。


「しかし、最初から幾つか能力や魔術を習得している場合もあるのでしょう? アス、どうなんだ?」


「習得できてないよ、父さん」


 ヴィックスの質問にアスターゼが即答する。

 残念そうな表情をするヴィックスと司教たちの言動をアスターゼはよくよく観察していた。特に鑑定士の男の様子が気になっていたのだが、彼は鑑定士と言いながら完全にアスターゼの情報を引き出せていないらしい。


 実はアスターゼは他者の職業(ジョブ)を変更することができる能力【ハローワールド】を既に習得していたのだ。これはアスターゼの予想に過ぎないが、恐らく職能のレベルが上がって職位(しょくい)が10になると習得できる能力のようだ。もちろんキャリアポイントも必要なのだろう。


 嘘をついたのは、もちろん王国の実験体になりたくなかったからに他ならない。

 初めて発見された職業であれば、国家は必ずそれを調べようとするだろう。

 そしてそれが有用な職業であり、能力でなるならば、囲い込まれて自由もなく使い潰されるに違いない。

 この短時間でアスターゼは、身の危険を正確にはじき出していた。

 更に言えば、この能力は迂闊に使用すると世界のバランスを崩すものだとも考えていた。


 その後もしばらく話し合いが続いたが、実りのある内容にはならなかった。

 結局、ドレッドネイト王国の職業管理省に報告し、中央の指示を仰ぐこととなった。


 つまり様子見である。


 ようやく話し合いが終わり、ヴィックスと共に外へ出ると、そこにはアルテナとエルフィス、そしてその両親が待っていた。


「アスッ! どうだったの?」


 アルテナが肩口まである髪を揺らしながら駆け寄って来る。


「何も分からなかったよ。鑑定士でも何でも分かる訳じゃないんだな」


「アス、俺は今猛烈に落ち込んでいるぜ……」


 先頭に立って派手に魔物を討伐したいと言っていたエルフィスは、神官(プリースト)と言う無慈悲な職業を与えた神を恨んでいることだろう。

 その表情は暗い。


 親たちは親たちで何やら話し始めた。

 その様子からして話が長くなりそうな感じだ。


「大丈夫だよ。そのうち俺がエルの職業を変えてやる」


「えッ!? そんなことができるのか?」


「いいな~! あたしも変えて欲しい……」


 エルフィスは僅かに希望が見えてパッと明るい表情になる。

 アルテナはそれを聞いて羨ましそうだ。


「ああ、ちょっと色々試してみてからだけどな。後、この話は内緒な?」


 その言葉に2人はコクコクと何度も頷いた。


 アスターゼがこの世界に転生してから、まだ6年しか経っていない。

 まだまだ把握していないルールや法則、価値観などがあるはずなのだ。

 

「転職か……。皮肉なもんだな」


 何の因果か、前世で散々苦労した転職に関わる職業を神から授かったのだ。

 前世の借りを返す時だとアスターゼは、静かに燃えるのであった。


「職業が固定の世界……俺の使命はここで縛られた人たちをその呪縛から解放してやることなのかも知れない……」


 その呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。

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