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1章 6話『冒険者ギルドと豚の餌』

 ベレニスがかけた魔術の効果によるスキル〈隠密行動〉のおかげで城は簡単に抜け出せた。だが無一文で、王都に放り出された状況は絶望的だった。

 ベント・ロッシュ本来の体を取り戻す事は不可能だ。それにハーレムの皆に守って貰いながら、田舎で生活する夢はエーリカのせいで先送りになった。


「あの恩知らずの浮気女め……」


 あいつのせいで僕はミリアとフレイアに恐くて声をかける事が出来なかった。でもあの2人なら今頃は王座のベントが偽物と気付き自分を探している。


「声をかけれていれば、2人に見つけて貰うまで極貧生活を送る必要もなかったのに」


 取り敢えず食べ物が必要だ、空腹だった昨日から更に何も食べていない。もうマゼルとかいう犯罪者には騙されない、自力でなんとかしないとダメだ。


「ステータス、オープン」


―――――――――――――――――――――

 リース・サドウィン 16才

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:1

 H P:10/10

 M P:0/0

 腕 力:10

 防御力:10

 魔 力:0

 抵抗力:10

 敏 捷:10


 スキル:なし

―――――――――――――――――――――


 相変わらず最低なステータスで、スキルも魔術もない。俊敏だけは人並みにあるのだけが救いだ。だが、よく見ると僕は見落としをしてた事に気付く。


「レベル1だ、つまり伸び代があるって事か」


 あのリースとかいう男は弱者の気持ちがどうとか言っていた。だがレベル1から全く上げてないなんて、ただの努力してない怠け者なだけじゃないか。

 とりあえず魔物を倒して経験値を得よう。このHPでは戦闘は死の危険が伴うが、僕は勇者として魔王を倒した経験もある。この体でも戦える筈だ。


「とはいえ下級魔物じゃないと、もし一撃でも食らえば死んでしまう。あとは武器の調達が必要だ」


 腕力10ではダガーくらいしか重くて持てないが、素手で殴るなんていうのは論外だ。問題はどこでダガーを調達するかだが、買う金は持ってない。

 とはいえ盗みなんてしたら今度こそ縛り首になる。そこで魔王討伐の旅をしていた時に、冒険者ギルドが武器の貸し出しをしていたのを思い出した。


「ゴミみたいな武器ばかりだったけど、下級魔物を狩るにはあのくらいで十分だね」


 それに冒険ギルドに登録しておけば魔物を倒した時に金が入る。どうやら、空腹とステータスが低すぎるという問題はいっぺんにに解決しそうだ。


「確かこの向こうに王都の冒険ギルドがあったな」


 そうしてしばらく歩きらギルドの紋章が入った看板がぶら下がる建物を見つける。そこには武装した他の冒険者も出入りしていて、盛況のようだ。

 石造りの立派な建物の中には確か酒場も併設していて、治安が悪いからあまり好きじゃなかったが仕方ない。僕は冒険ギルドに入ると受付に向かう。


「なんだあの貧相でボロボロのガキは?」


「おい坊主! スラムのお家に帰れよ!」


 ミリアやフレイアのような魔王討伐パーティーと戦えば1対100人でも勝てない連中だらけ。誰かを捌け口にしないと惨めで精神が持たないんだ。


「おい何、無視してるんだよ」


「ああもう、うるさいな! 雑魚共は黙ってろ!」


 そう言うと連中は一瞬ポカンとするが、すぐに顔を歪めて大笑いし出した。ここに居た連中の顔は覚えた、あの2人と合流したら痛めつけてやる。

 下品な声で囃し立てる声を無視し、受付嬢に話かけると彼女も僕を見て笑っていた。やっぱりここは群れてないと戦えない連中の低俗な溜り場だ。


「悪かったね、ゴミの集会によそ者が入ってきて」


「ふふっ、ど、どういったご要件ですかぁ……」


「ギルドの登録と、ダガーを貸して欲しい」


 必死で笑いを堪えている受付嬢は、カウンターから魔術で作られたカードと錆びがかったダガーを取り出した。このカードは旅をしてた時に作った。


「カードに情報を登録するんだよね」


「よ、よくご存知で……ぷっ」


 確か魔物を倒すとこのカードにポイントが蓄積されていって、ギルドで換金する事が出来る。簡単に溜まるから旅していた時は金銭面で重宝してた。


「それじゃあ……お名前をお願いします」


「ベント・ロッシュだ」


「ぷっ、あはははは、ははははははははははは!」


 受付嬢はとうとう堪えきれなくなったようで、腹を抱えて笑いだした。そのやり取りを見ていた周りも笑い出す。そういえばこの体の名前はリースだ。


「訂正するよ。リース……えっとサドウィンだ」


「リ、リース様ですね! わ、分かりました、その名前で……ん?貴方の情報は登録してありますよ」


「えっ?そうなの」


「リース・サドウィン様、16歳、階級はEです」


 この男は既に冒険者ギルドに登録してたのか。でも、そうなると問題が発生する。男がカードをどこに保管してるか知らないし、再発行には金がいる。


「再発行にはいくらかかるかな?」


「銀貨1枚ですかねぇ……」


「じゃあダガーだけ借りるよ」


 そう言ってダガーをカウンターから持っていくと、僕は笑い声で溢れる冒険者ギルドを後にした。この男がカードを保管してる場所を探さないとな。

 男はスラム街がどうのとか言っていたし、きっとそこに住んでいたんだろう。だが僕はスラム街の存在自体を知らなかったし、当然場所も知る訳ない。


「ねぇ、スラム街ってどこにあるの?」


「そんなのはアンタが一番知ってるんじゃないか」


 通行人に聞いてみるとそんな答えが返ってきた。本当にこの国にはクズしか居ないんだな、さっさと僕の体を奪った男に滅ぼされてしまえばいいのに。

 だがこれもミリアとフレイアが本物の僕を見つけてくれるまでの辛抱だ。彼女達が来てくれたら、こんな国はさっさと捨てて3人で田舎で暮らすんだ。


「そう……3人で暮らす……」


 エーリカの声の拒絶する声が頭に響いたが、最低な浮気女の事は忘れる事にした。そんなどうでもいい事より、まずはスラム街を探さないといけない。


「あっ、その前にステータスオープン」


―――――――――――――――――――――

武 器:なし


頭防具:なし

体防具:チュニック 防御力0

足装備:靴 防御力0


持ち物:劣化したダガー 攻撃力20

―――――――――――――――――――――


 攻撃力20って本当にゴミみたいな武器しか貸してくれないんだな。確か大臣の腕力が30だった、僕の腕力とダガーの攻撃力を足した数と全く同じ。

 斬撃という扱いになり出血ダメージを期待できる。けど僕がダガーで斬って与えるダメージは、年老いた大臣のパンチと同じ威力しかない。


「まあ、レベルを上げるまでの辛抱だ」


 そうして僕はスラム街を探して歩き始めた。歩くことで空腹の体は悲鳴を上げていたが、昼から夜になる頃にはやっとの思いでスラム街を見つけた。

 廃墟のような建物ばかりが並んでいて、辺りには瓦礫とゴミが散乱している。ハエの羽音が耳に響き、酷い悪臭が鼻を突く様から不衛生さが伺える。


「こんな所に居たら病気になりそうだ」


「ん? リースか、見ないと思ったら外にいたか」


「あ、僕と知り合いの人?」


 スラム街の入り口に居たひげ面の男が僕に話しかけてきた。一瞬、リースと呼ばれてマゼルともう1人の男を警戒したが、そうじゃなくて安心する。


「知り合いだが。今度は他人のフリか?」


「まあね。そんな事より僕の家を教えてよ」


「大丈夫か、お前? 自分の家まで覚えてないなんて、流石に変な妄想も程々にするべきだぞ」


 そういえばマゼルじゃない方も妄想がどうのとか言っていた。知り合いみんなから妄想の心配をされるとは、一体この男はどういう人間なんだろう。


「そうだね。妄想はもう止めるから家を教えて」


「なんだ今日はやけに素直じゃないか、いつもは何を言っても無視してくるのに」


 ひげ面の男はリースが言葉を返してきたのが嬉しいのか、ニコニコ笑いながら歩き始める。付いてこいということだろうか、僕は男に合わせて歩く。


「テアも心配してたぞ、お前が6日も居ないから」


「それ誰なの?」


「俺の娘で、お前の幼馴染」


「へー、そうなんだ。まあ別にどうでもいいけど」


 ここに住んでいる連中と関係を築く必要なんてどこにもない。冒険者ギルドのカードを入手したら、こんな病気になりそうな所には2度と来ない。

 そんな事を考えながらスラム街の悪路を歩いていると、男はここの住人達からよく挨拶されていた。どうやら慕われている見たいだが本当に下らない。


「そうやって傷の舐め合いしてて楽しい?」


「人と仲良くするのは大切な事だぞ。人間は助け合わないと生きていけないからな」


「そんな事、子供でも知ってるよ」


 なんでこんな奴に上から目線で、物を言われないといけないんだ。まあ家を教えてくれるようだから下手に出てやるが、本来なら怒鳴りつけていた。


「まあ2度と会わないし、どうでもいいか……」


「リース! ほら着いたぞ、あそこがお前の家だ。今度は忘れたりするんじゃないぞ」


「わかったよ、さようならオジサン」


 そこは汚ならしい布で作られた小さなテントだった。僕はその中に入っていくと、数少ないゴミの所持品の底から冒険者ギルドのカードを見つけた。


「あったぞ。けど、もう夜だよな」


 本当なら昼の内に魔物を倒した金で宿屋にでも泊まるつもりだった。だがカードを作れなかったせい夜になった。今から郊外に出るのは危険過ぎる。

 なにせHPが10しかない。夜盗にでも遭遇したら、その時点で死んでしまう。となると今日はこの汚いテントで朝まで過ごさないといけないのか。


「それに腹も減ったな……」


「なんだリース、腹が減っているのか!」


 大きな声にビックリして後ろを振り返るとひげ面の男が、テントを外から覗いていた。なんだコイツは、さようならって言ったのにまだ居たのか。


「なに、何か僕に用事があるの?」


「そんな不機嫌そうな顔をするな、飯を食べてないんなら俺の家に来るといい。腹一杯食わしてやる」


「いいよ、行かないから」


 飯を食わせると言われて着いていった結果、牢屋にぶち込まれて縛り首を宣告されたのはつい昨日。どうせコイツも僕を利用しようとしてるんだ。


「いや、待ってやっぱり行くよ」


 そう思ったがやっぱり食べ物の想像をすると空腹には耐えられなかった。今度は絶対に騙されない、男が少しでも不審な動きを見せたらすぐ逃げよう。


「この国にはクズしかいないからな……」


「ん? どしたリース、何か言ったか?」


「なんでもない、早く行こうオジサン」


「現金な奴だな。あと俺の名前はニルスだぞ」


 本当に馴れ馴れしい奴だな。だが本当に食事をくれたなら、名前くらいは覚えてもいい。そんな事を考えながら歩いていると数分で目的地に着いた。

 そこは石造りで二階建ての小屋だった、今にも倒壊しそうで入るのに躊躇する。だが男が何の気なしに扉を開けて入っていくと、僕もその後に続く。


「ちょっと待っててくれ、今出すから」


 そう言って男が何かを取り出している最中、僕は小屋の中を見回してみる。外と変わらないくらい汚い室内には腐った椅子とテーブルが置いてあった。

 あとは腐った棚とカビだらけのベッド、二階に続く梯子がある。こんな所に住んでいるなんて正気とは思えないが、家主がいいなら僕には関係ない。


「ほら、リース。今日ユルのじいさんが分けてくれたんだ、遠慮しないで食べてくれ」


「まあ、感謝してあげるよ」


 誰だか知らないが、このオジサンのお陰で取り敢えず食事問題は改善された。そうしてテーブルに目を向けると、酸っぱい臭いに吐き気がしてくる。


「いや、やっぱり要らない」


 テーブルの上に置かれたのは豚の餌にもならない残飯だ。いくら腹が減っているとはいえ、こんな物を口に入れるくらいなら餓死した方がまだマシだ。


「悪いけど、用事が出来たから帰るね」


「ん? あ、そうか」


 釈然としない表情の男だったが、僕は勇者ベント・ロッシュなんだ。こんな最低な体になったけど、魂まで家畜以下の畜生になったつもりはない。


「それじゃあ今度こそ、さようなら」


 早くミリアとフレイアに見つけて貰いたい。なんで世界を救った勇者で王様だった僕が、スラム街でこんな惨めな思いをしないといけないんだ。

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