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1章 3話『食料調達』

 城から追放された僕はエルシアの王都の石畳の上に座っていた。空は青く晴れ渡り、街は多くの人で賑わっている。しかしこの平和をつくったのが僕だとは誰も気付かず、薄汚い格好で地面に座る姿を見て人々は侮蔑の目を向けてくる。


「ステータスオープン……」


―――――――――――――――――――――

 リース・サドウィン 16才

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:1

 H P:10/10 M P:0/0

 攻撃力:10

 魔 力:0

 防御力:10

 抵抗力:10

 敏 捷:10


 スキル:なし

―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――

武 器:なし


頭防具:なし

体防具:チュニック 防御力0

足装備:靴 防御力0


持ち物:なし

―――――――――――――――――――――


「これでどうしろって言うんだよ」


 下級魔物以下のステータス。この攻撃力じゃ剣も重くて握れず、防御力は石を投げられただけで大ダメージを受けるレベルだ。

 そもそもHPが10なので、何かと戦うという選択肢は絶対に避けなければ死んでしまう。


「だけど僕の身体は取り返さないと」


 あんな最低な奴に僕の身体を取られたままということは、世界の危機を意味する。それにエーリカ達、ハーレムの皆にも危害が及ぶかもしれない。

 頼れるのは彼女達だけだ。特にエルフの女魔術師のベレニスなら複雑な魔術をよく知っているから、僕の身体を取り戻すのに役に立つ筈だ。


「その為にはどうにかして接触する必要がある」


 兵士の馬鹿共はどれだけ僕がベント・ロッシュだと説明しても妄想と決めつけて信じなかった。だが一緒に魔王討伐の旅をして、深い関係になった彼女達なら僕が本物だと分かってくれる。

 一番簡単な方法はハーレムの誰かが城門から出てくるのを、城の前に張り付いて待っている作戦だ。


「あれ?アイツ、リースじゃない?」


「本当だ、リースじゃねぇか! おいリース!」


「ん?僕に話しかけているの?」


 ガラの悪い二人組が話しかけてくる。そういえばこの身体の持ち主の名前はリース・サドウィンだ。

 僕は二人組のステータスを鑑定しようとして思い止まる。本来なら〈鑑定〉は人間には使えないし、そもそもリースはスキルを1つも持っていない。


「なんだ君たちは?」


「なんだ、とは随分偉そうになったなリース」


「相変わらず、誇大妄想してるのかな」


 この人間の男はどうやらリースの知り合いらしい。ステータスが分からない以上、強さはハッキリしないが貧相な装備から見て城の兵士より強いということは確実にない。

 にしても、彼らが手に持っている骨付き肉からはいい匂いがしてくる。


「あっ、もしかしてリースお腹減ってる?」


「なんならC級冒険者の俺達がおごってやろうか」


 C級は冒険者の階級で下から二番目じゃないか。そんなので威張っているのは滑稽でしかないが、そんな彼らにすがりたい程この体は空腹らしい。


「じゃあ貰ってもいいかな?」


「そんな偉そうな態度じゃダメだな!」


「そうだ。ほら地面に頭を擦り付けて見せてよ」


 言うに事欠いて勇者であり王様の僕に頭を下げろと命令するとは。腹は減っているが衆人環視の中で、そんな惨めな事をするなら餓死した方がいい。


「じゃあいらない。そうだ、君たちの名前教えて」


「マゼルだよ、そんな事も忘れたのか」


「記憶が混濁するくらいお腹が減ってるみたいだ」


 マゼルか。もう1人の名前は聞けなかったが、元の姿に戻った時に「C級冒険者でマゼルの相方」で調べさせれば簡単に分かるだろう。

 コイツらはベント・ロッシュだと知らないとはいえ、僕を侮辱し過ぎた。縛り首はやり過ぎだけど、それ相応の罰を与えてやらないといけない。


「マゼルさんね、じゃあもう消えてくれる?」


「あ、いい事、思い付いた!ちょっと耳貸して」


「ん?なんだ?」


 消えてくれと言ってるのが聞こえないのか、マゼルじゃない方がなにやらマゼルに耳打ちしている。それが終わると楽しげに笑い僕の方を見た。


「頭は下げなくていいからお願い聞いてよ」


「そしたら飯を腹一杯おごってやるよ」


 マゼルは見せびらかすように持っている骨付き肉をかじった。胡散臭いがスキル〈腹持ち〉がないこの体は、食べないと今後の行動に支障が出てくる。


「分かった、何をすればいいの」


「それじゃあちょっと着いてきてくれ」


 そうして地面から立ちあがると僕はマゼル達の後ろを着いて王都を歩く。薄暗く細い路地を通りながら、ずっと彼らはニヤニヤと小声で会話してた。


「ほらリース、着いたよ」


 たどり着いたのはどこかの民家だった。ここで何をしろと言うのか、マゼルともう1人の顔を見るとやはり彼らは嘲笑を浮かべている。


「笑ってないで、何すればいいか教えて」


「この家から銀の燭台を盗んでこいよ」


「そこの窓から簡単に入れるからね」


 ガラが悪いとは思っていたが、コイツらは犯罪者だったのか。まあ良い、元の体に戻った時にこの2人は牢に入れて家の持ち主には賠償金を払おう。


「はぁ……やれば食べ物をくれるんだよね」


「もちろん、ほら早く行ってきなよ」


 マゼルじゃない方に促され、民家の窓に取り付けられた木戸を開く。無用心にも鍵はかかっておらず、周りにも目撃者となるような人影はない。

 僕は板張りの室内に侵入すると、彼らが言っていた銀色の燭台を探す。だがパッと見た限りでは見つからず、もしかしたらと二回に続く階段を見た。


「ど、泥棒っ!泥棒がいるぞ!」


 体がビクリと震える。その階段から降りてきたのは年老いた男だった。彼は大声で叫ぶと、「大丈夫ですか!」とあの2人がドアから入ってくる。

 考える暇もなく、防御力10の体はマゼルじゃない方のタックルで床に押し倒された。


「おお、助かった。家の物が盗られる所だった」


「お前達、騙したのか!?」


「悪いな、冒険者ギルドのポイントになってね」


 そう半笑いの声が小さく耳打ちすると、それっきり男達は笑う事を止めて誠実な人間を演じ始める。

 騒ぎを聞き付けた衛兵が駆けつけると、僕は老人の家から引きずり出される。そこには野次馬達が僕を罪人として軽蔑の眼差しを向けていた。


「違う、僕はやってない! 騙されたんだ」


「家に不法侵入してるのにそれは苦しいな」


「違う! こいつらにハメられたんだ!」


 マゼルじゃない方が引き渡すと、衛兵は僕を殴り付ける。そして大人しくなったのを見ると、体に盗んだ物を隠してないか確かめ始めた。


「違う……アイツらがやったら飯をくれるって」


「言い訳も大概にしろ」


 もう一度殴ろうとする素振りを見せると、僕は喋るのを止める。一発殴られたダメージで既に致命傷、次に攻撃を受けるとHPは0になってしまう。

 衛兵が僕の腕を縄で縛り付ける間、何も知らない野次馬達は好き勝手に僕を罵っている。


「いかにも泥棒らしい身なりをしてるな」


「罪を人に擦り付けようとするとは流石、泥棒だ」


 誰がお前達を魔王から救ってやったと思ってるんだ。そうやって豊かな暮らしを送れているのは誰のお陰だ?全部、僕が施してやったのに。

 だが僕が殺意を込めて睨み付けても誰も凄まない。それどころか面白い物を見ているようだった。


「お前は縛り首決定だな」


 牢屋への護送中、衛兵は脅すように言った。僕は無実だし、仮に罪を犯したとしても罰が重すぎる。

 そう思ったが、思い返せば僕が些細な窃盗でも犯人は縛り首する法律を去年くらいに制定していた。

 罪を重くすれば窃盗犯がエルシア王国から居なくなると、思い付きで決めた法律。


「なんなんだよ、これは夢だよね……?」


 体を奪われて縛り首になる事が決まった。これがたった1日の中で起こったのだ。今日まで勇者で王様だった、そんな僕には悪夢としか思えなかった。

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