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1章 2話『鑑定不能の黒の指輪』

 この世界には6つの環境が大きく異なる大陸が存在しており、それぞれに人間・獣人・エルフ・ドワーフ・ドラゴン・魔物と違った種族が住んでいる。

 僕のエルシア王国は人間の大陸にあり、その広大な大地の全て統治している。この大陸にはその他に国は無くて、人間で王を名乗れるのは自分だけだ。


 少し前までは人間の大陸エルシアには無数の国があって、国と同じ数だけ王が居た。だけど王達は誰1人として勇者の僕よりも権力を持ってなかった。

 理由は単純で人間の大陸以外の5つを僕が従属させていたからだ。でも権力を個人で持つと色々面倒が多くて、いっそのこと自分が王になる事にした。


 僕の人望と5つの大陸の後ろ楯を使えば、簡単に無数の国を1つに統合する事が出来る。そうして大陸の名前をかんしたエルシア王国を建国すると、気付いたら僕は全ての大陸と種族を手中に収めていた。


 何故5つの大陸を従属させられたかと言うと、簡潔に言えば人々の英雄になったからだ。魔王討伐の旅をしている最中に暴君を倒したり、土地に根付いた様々な問題を解決したのが大きかったのだろう。


「ベント様、私の話を聞いておられますか?」


 にしても旅をしていた頃は色んな事があって、本当に退屈しなかった。魔王との直接対決だけは少しトラウマだけど、それ以外は全部が良い思い出だ。


「魔王か、それもちょっとだけ懐かしいなぁ……」


 魔王は僕を追い詰めるくらい強かった。他の敵には苦戦しなかったが、奴だけは封印しなければ――

 

「ベント様!」


「あ、ごめん。ボーっとしてた」


「そんなことでは困りますよ」


「うん、分かってるよ。話を続けて」


「ベント様。これを機会にエルフの大陸に対して、王国軍を派遣して締め付けを更に強めるべきかと」


 そう語気を荒らげるのはエルシア王国の大臣だった。大臣は昨日の女エルフが襲撃してきた際に、王である僕が自ら矢面に立った事を予想通り怒った。

 その後に捕らえた彼女が、エルフの大陸に存在する暗殺集団の可能性を示唆したのだった。その辺から話を聞いてないから細かい事は分からないけど。


「かの大陸の指導者は王国に服従の姿勢を示していますが、裏では何を考えているのか分かりません」


「別にいいよ。何もしなくて」


「ですが5つの大陸・種族の盟主国であるエルシアの国王が暗殺者に襲撃されて何もしないなど――」


「面子が立たない、でしょ? 大臣の言うことも正しいけど、でも僕は嫌いなんだよね、そういうの」


 魔物以外の種族は、僕の庇護を受けた恩義からエルシア王国にも従属する事になった。そういう自分を慕っている人々を無下に扱いたくはない。

 大臣はいつものように困った顔をするが、ここは僕の国なのだから譲るつもりは一切ない。


「……では今回の件はそのよう処理致します」


「うん、よろしく。後、今日はエーリカ達と久しぶりにピクニックに行きたいんだけど」


「申し訳ありません。予定が入っておりますので」


 一礼して王座の間を後にする大臣。にしても王様というのはすごい贅沢な暮らしは出来るけど、その代わりプライベートの時間は全然ないんだな。

 聖剣は腰に下げているけれど、勇者の防具は宝物庫で埃を被っている。退屈になった僕は「スキル鑑定」と呟き、遠ざかる大臣の背中を見た。


―――――――――――――――――――――

 ロンド・フィンエルト 58歳

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:2

 H P:310/310

 M P:10/10

 腕 力:30

 魔 力:5

 防御力:40

 抵抗力:10

 敏 捷:15


 スキル:元国王(Lv.5)

―――――――――――――――――――――


 この大臣はエルシア王国に統合される前は国王をしていたのか。それ以外の部分は一般的な老人の標準的なステータス過ぎて、あんまり面白くない。


「そこの兵士にスキル鑑定、使用」


―――――――――――――――――――――

 セドリック・ジェルモー 36歳

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:35

 H P:580/580 M P:90/90

 腕 力:120

 魔 力:10

 防御力:110

 抵抗力:50

 敏 捷:20


 スキル:集団戦闘(Lv.8)

―――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――


武 器:兵士の剣 攻撃力160


頭防具:兵士の兜 防御力50

体防具:兵士の防具 防御力120

足装備:兵士の軍靴 防御力20


持ち物:ナイフ 攻撃力45

―――――――――――――――――――――


 まあまあ強いけど攻撃力は280で、防御力は300どちらも装備品込みでだ。防具なしで防御力8000の僕にはやはり護衛は必要ないと思える。


「はぁ……だからどうしたって話だ」


 他人のステータスを確認していても何も楽しくない。早く夜になってエーリカ達と会えないかな、そんな事を考えていると王座の間の重い扉が開く。

 どうやら仕事のようだ。顔を上げると、兵士に見張られながら薄汚い身なりの男が進んでくる。


 ボサボサな肩まで伸びた黒い髪に、鬱々とした目の下にはクマがあった。栄養が足りてないのか小柄な体はガリガリで、見ているだけで可哀想になる。


「スキル鑑定、使用」


―――――――――――――――――――――

 リース・サドウィン 15歳

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:1

 H P:10/10 M P:0/0

 腕 力:10

 魔 力:0

 防御力:10

 抵抗力:10

 敏 捷:10


 スキル:なし

―――――――――――――――――――――


 何気なくさっきの遊びの延長でステータスを鑑定してみると、僕はその貧弱さに目を丸くする。HPを含めたほとんどが、たったの10しかなかった。

 可哀想な男は王座の前に膝をついて、深々と頭を下げる。彼には色々と同情させられるけど、僕に出来るのはこうやって話を聞いてあげる事だけだ。


「話してもいいよ」


「私は王都のスラム街に住むリースと申します。この度は謁見をお許し頂き感謝の限りでございます」


「スラム街?」


 そんな物がこの王都にあるとは初耳だった。僕が王になったお陰で貧困の問題は解決されてると思っていたが、彼の他にもまだ可哀想な人が居るのか。


「まあいいか、それで何の用?」


「私達の住むスラム街では食べ物も困って、毎日のように餓死者が出ている始末です。どうか――」


「うん、なら金貨をあげるから持って帰るといい」


「いいえ、それでは根本的な解決にはなりません」


「じゃあ、定期的に金貨を渡すように言っておく」


 僕が大臣に言って、定期的に金を渡させればスラムの食糧事情も改善する。これでいいだろう、そう思って男の顔を見ると明らかに不満そうだった。

 もっと金が欲しいのだろうか。僕が侮蔑の眼差しを向けると、男は睨み返してきた。


「王は今まで餓えて苦しみ、そして死んだ者に対して何か思う事はありますか?」


「残念だと思う。けれどこっちは金を払うと言っているし、問題は解決するんだから文句はない筈だ」


「それだけですか、まだ何かお言葉は――」


「だから残念だと言ってるじゃないか」


「そうですか、思った通りです。やっぱり貴方には弱者の気持ちなんて分からないのですね」


 流石に言葉が過ぎると見て兵士は駆け寄ると、男を床にねじ伏せる。僕もこの人と話すのは、時間の無駄だと思った所だったので都合が良かった。

 可哀想だから多少の無礼には目をつむったけど、何か文句があるなら別にいい。スラムに金は払わないし、自分の力でどうにかすればいいんだ。


「貴方は餓えるどころか、何も不自由をしたことがない。だから弱者……いや人の気持ちすら、考えるのが困難なのでしょう」


 だが男は腕を押さえられながらも、視線だけは必死に僕の方を向けてまだ喋り続けた。あまりに適当な事ばかりを並べ立てるので腹が立ってくる。


「人の気持ちが分からない? 分かるに決まっているだろう。僕は沢山の人を救ってきたんだ」


「やっぱり分かっていない。その救った人々から、貴方がなんと呼ばれているか知っていますか?」


「分かった。君はステータスが異様に低いから僕に対して劣等感を感じてる。だから世界を救った勇者をそんな口汚く罵れるんだろう?」


「肥大化した自尊心の化け物ですね、貴方は」


「もういいや、そいつは城の外に放り出せ」


 なんなんだ、コイツは。本来なら不敬罪で牢屋にぶち込む所だが、僕の城が汚れるから追い出そう。

 そんな事を考えながら兵士に引きずられていく男を見ていると、彼は喚きながら拘束されてない手首をなんとか動かして、人差し指を僕に向ける。


「ボクの目で直に見て確信した。この人はステータスに驕った子供で、王にまるでふさわしくない! 本当は使いたくなかったけど、弱者の為だ……」 


 悪寒を感じて指先を見ると、そこには汚い身なりには似つかわしくない黒い指輪がはめられていた。何故今までその存在に気付かなかったのだろうか。


「そうだ、ボクが王になった方がいい!」


「スキル鑑定、あの黒い指輪!」


 僕は咄嗟にスキル〈鑑定〉を使用すると、おびただしい量の文字が頭の中に浮かんでくる。


 <鑑定不能><鑑定不能><鑑定不能>

 <鑑定不能><鑑定不能><鑑定不能>


 そんな表示は初めて見た。次の瞬間、男の黒い指輪は砕ける。気付けば僕は兵士に腕を拘束され、床についた尻を引きずられていた。

 頭を上げると王座に座っている茶色の髪に碧眼の男、つまり自分の姿が目に映る。


「おい、離せ! 僕はベント・ロッシュだぞ!」


「もう黙っていろ、このガキ」


 僕の部下の兵士に怒鳴られる。間違いない、あの男と体が入れ替わっている。だが抵抗しても押さえられた腕はピクリとも動かなかった。あの10が並んだステータス画面を思いだし、顔が青ざめる。


 僕は最強のステータスを失っていた。

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