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1章 1話『王座の間の襲撃者』

 女エルフの緑色の短い髪が揺れる。それと同時に、鋭利なナイフが風よりも速く僕に襲いかかる。


「死ね! 愚王ベント・ロッシュ!」


 王座の間に響き渡る勝利を確信した叫び声。しかし次の瞬間にはその刃は粉々に砕け散っていた。

 確かに彼女の攻撃は素早かったが、僕の俊敏ステータスは彼女の物を遥かに凌駕している。そして手の中にある聖剣の刃はただの鉄など易々と砕ける。


「鑑定スキル使用、対象はそこのエルフ」


 聖剣を構え、武器を失って尚も戦意を失わない女エルフのステータスを確認する。


―――――――――――――――――――――

 リンド・バルト 21歳

 種 族:エルフ 性 別:女


 レベル:30

 H P:321/450

 M P:180/180

 腕 力:175

 魔 力:90

 防御力:70

 抵抗力:90

 敏 捷:30


 スキル:隠密行動(Lv.10)

―――――――――――――――――――――


「なるほどね、暗殺者らしいステータスだ」


「ハッタリを! 人間を鑑定できる訳がない」


―――――――――――――――――――――

武 器:なし


頭防具:なし

体防具:暗殺者の防具 防御力40

足装備:エルフのブーツ 防御力20


持ち物:薬草×2 ナイフ(猛毒付与)攻撃力100

―――――――――――――――――――――


「そうかなリンド・バルト、取り敢えず隠してるナイフを捨てて大人しく投降した方がいいよ」


「くっ……!」


 女エルフの言う通り〈鑑定〉はどれだけスキルレベルを上げても人を鑑定する事はできない。だが僕の固有スキル〈勇者〉によって、〈鑑定〉を含む全てのスキル能力が通常より強化されている。

 そう僕は勇者だ。その事を改めて実感したのか彼女は唇を噛み締め、こちらを睨み付けていた。


「貴様さえ……貴様さえいなければ!」


「何を言ってるんだ? 君達エルフの大陸を魔物の軍勢から守ったのは僕じゃないか」


「黙れッ!」


 激昂し襲いかかる女エルフ、その攻撃は僕には見えなかった。恐らくは暗殺者の技か何か。だが彼女の攻撃力は装備品の分を加算しても275。

 普通の人間なら一撃で重傷、急所を狙われれば即死だ。だが僕は勇者なので、防具を身につけてない素の防御力でも余裕で耐えられる。


「恐らくダメージは10くらいだろうな」


 さっきは相手の攻撃力が分からなかったから聖剣で受けたが、今はその必要さえなかった。不可視の斬撃が首筋に走る。だが刃は首の皮を薄く裂いただけで、けい動脈には全く届いていない。

 僕が姿を捉えた女エルフに聖剣を一振りすると、彼女は大理石の床を転がっていった。


「ベント様、ご無事ですか!」


「うん」


 僕が相手にするから控えていて欲しい、と命令した護衛の兵士達が駆け寄ってくる。彼らは棒立ちで一部始終を見ていたのだが、それで良かった。

 もし兵士達が女エルフを相手にしていたら、確実に怪我人が出ていた。誰も傷付けずに事態を収集するには僕が戦った方がいい。

 

「そもそも、護衛なんていらないんだけどな」


―――――――――――――――――――――

 ベント・ロッシュ 17歳

 種 族:人間 性 別:男


 レベル:250

 H P:34988/35000

 M P:2000/2000

 腕 力:9000

 魔 力:10000

 防御力:8000

 抵抗力:9000

 敏 捷:100


 スキル:記載不能

―――――――――――――――――――――


 自分のステータスを確認して改めてそう思う。だが魔王を倒す為に旅をしていた昔とは違い、今の僕は6つの大陸を統べる王様だ。

 体面というものがあると大臣に何度も説得されて、渋々自分の周囲に護衛を置く事にした。


「でも今回の件でまたお説教か」


 ふぅと息を吐き、王座に座る。兵士達は〈みね打ち〉スキルでHPを1にした女エルフを拘束している。彼女は極めて高いレベルの〈隠密行動〉スキルを持ち、王城に侵入してきた。

 僕の〈気配探知〉に引っ掛からなければ、誰も気付かなかったくらいの一流暗殺者だ。


「そんな奴に狙われるような事なんかしたかな」


 僕は大陸で悪人や魔物の軍勢を倒し、魔大陸では他の人間を殺戮しようとしていた魔王を封印した。

 考えられるのは逆恨みだけだった。なんてぼんやりしていると、体調が悪い事に気が付いた。


「そういえば、あの女エルフと戦ってから……」


 女エルフの所持品の中にあった(猛毒付与)とついたナイフの存在を思い出す。普段ならばスキル〈解毒〉の効果で無効化される筈なのだが、よっぽど強力な毒を使ったのかスキルが機能していない。

 困った事に僕は攻撃魔術は得意だけど、回復系魔術の類いは一切使えない。そこにタイミング良く現れたのは魔王討伐の旅を共にしたエーリカだった。


「ベント様! お怪我はございませんか!?」


 彼女は襲撃の事後処理をしている兵士の間を縫って、小走りでこっちに駆け寄ってくる。その黒い髪を揺らす姿は、思わず見とれてしまう程に美しい。

 だがそんな魅力的な姿を、兵士は決して見ないようにしている。彼女に向けられる男達の視線が不愉快で、王として「見るな」と命じておいたからだ。


「エーリカ。解毒魔術を頼めるか?」


「はい、勿論です!」


 勇者としての旅を始めて間もない頃、エーリカを含む子供達が奴隷として売られているところに出くわした。その元締めを倒して皆を解放した時、彼女には行く宛がなかった。

 僕が引き取り回復系魔術を教えると、彼女は才能を開花させ、ヒーラーとして欠かせない存在になった。


「本当は自分で回復出来ればいいんだけどね」


「そしたら私の存在意義がなっちゃいます!」


「そんな事はないよ、たとえ回復魔術が使えなくてもエーリカの事は愛してるから」


 そう言うと彼女は顔を赤らめならからも解毒魔術をかけてくれる。魔王を封印した後、エーリカは僕のハーレムの一員としてこの城で暮らしている。

 めんどくさい事はあるけど、こうして王様として彼女達と生活するのは結構楽しかったりする。


「じゃあ4人の女の子の中で誰が1番ですか?」


 エーリカがそう問うと猫の尻尾と耳が生えた獣人のミリアと、長い耳が特徴的なエルフのベレニス、竜の翼と角・尾を持つフレイアの姿が頭に浮かぶ。

 でも全員がとても素敵な女性で、そこに優劣を決めるなんて出来ない。それにもし僕が1番を決めたら、仲の良いハーレムに亀裂が走るかも知れない。


「みんな平等に愛しているよ」


「そこは嘘でも私って言ってくださいよ!」


「じゃあ、エーリカかな」


「もう! じゃあ、は余計ですよ」


 僕が笑うとエーリカも釣られて笑う。最初は笑顔すら見せてくれなかった彼女とこんな関係になるとは、勇者の僕でも予測出来なかった。

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