スカッとサイダー
僕はスカッとサイダーを飲むと、駅のホームで倒れていた。ここはどこだ?
酔ったよつうな気分だ。立てはしたのでヨロヨロと歩き、状況を確認する。柱に西馬込駅と書いてある。祖母の葬式か何かで使ったことがあるような…僕にとって、ほぼ馴染みのない駅だ。
だいたい、僕がスカッとサイダーを飲んだのは昼過ぎのことだった。
今はかなり薄暗い。
時刻表を確認すると、夜の11時半だった。家まではそれなりの距離があるので、終電が近いかもしれない。
と思ってたら、カラスが線路に降り立ち、鼠らしきものをついばんでいった。まだ鼠が出てくるには時間が早いと思うのだが、何となく不吉だ。
僕の帰る家はこんな感じだ。
・母親はスーパーのパート。シフトはそこまで入れてないので、ほぼ専業主婦だ。
・父親はスタジオミュージシャン。
・姉は家出中。
・亀がいる。
・11時32分現在、亀の上に亀がおんぶされている。
・11時33分、両親が取っ組み合いの喧嘩をして、亀の水槽に母は頭から突っ込んだ。
下の亀は、水槽が置いてあった棚の上から放り出された。2回転半程して、床に叩きつけられる。裏側で着地したので、しばらく起き上がれなかった。
上の亀は、棚の裏に落ちた。奈落の底。そこには、暗闇と埃の海が待ちかまえていた。
12時41分、両親は双方とも家を出た。怒りに任せて。
家には2匹の亀が取り残されていられる。1匹は裏返って起き上がれない。1匹は奈落の底だ。救出出来るのは僕しかいない。
電話がかかってきた。路線検索をしてスマホを開いていたので、そのまま電話に出た。
「もしも…」「亀だ。」「…はい?」「私は亀だ。」
きっと聞き間違えだが、はっきりと聞こえたので聞き返した。「私は亀だ?」「そうだ。」「私は亀だ?」「何度聞き返すんだ!私はお前の家に飼われている亀だ!」
は?
電話は切った。とにかく家に帰れと言われたが、行く宛もないので不本意ながらそうする。
家に帰ると亀が転がっていた。
亀を水槽に戻した。棚の裏から声が聞こえた気がしたので、見てみたら子ガメがいたのでそいつも戻した。
「亀ですか?」当然ながら、答えは帰ってこない。
いつもと違い、家には誰もいなかったが、これはこれで気が楽だと思い、その日はカップラーメンを食べて寝た。
翌朝。ふと窓の外を見ると、様々な食品が落ちていた。うちの2階から投げ出されたようだ。
1階に降りてキッチンを確認する。ストックしてあったはずのレトルト食品が、ない。
置き手紙があった。
出る。
何がだ。でもきっと家出だ。
しょうがない、泣けなしのお金でカップラーメンだ。
「私を食え。」
亀の声だ。亀が喋るのはもう慣れた。でも、捌き方とか知らないし。
「捌き方くらい教えてやる。」
いや、やだよ。食べたくないよ。
「良いから食え。これからは一人で生活していかないとかもなのだぞ。食えるものは調理して、食え。なりふり構ってなぞいられない。」
亀が朝の食卓に並んだ。犬などの獣でないだけマシかと思ったら、結構グロかった。何より悲しかった。普段なんとも思ってなかったが、いつもそばにいた存在だ。
ありがとう、亀さん。美味しかったよ。