9 小野小町
原文
花の色は 移りにけりないたづらに
わが身世にふるながめせし間に
現代語訳
美しい桜の花の色香は、すっかり色あせてしまったことであるよ。
むなしく春の長雨が降っていた間に。
――私の容色はすっかり衰えてしまったなあ。
むなしく私が男女の間のことにかかずらわって過ごし、いたずらに物思いにふけっていた間に。
あら、今夜も来てくれたんですか?
あなたも、物好きな人ですね。
すっかり季節もめぐって、また桜の季節になりましたね。
桜の花って、綺麗ですけど、すぐに散ってしまう儚い花ですよね。
……まるで、私みたい。
えっ、何?
そんなことを云ったら、現代の小野小町の名が泣くって?
……あなたはまだ、そう呼んでくれるんですね。
学生の頃は、現代の小野小町と呼ばれて人気者だった私も、今ではそう呼ばれることは無くなりました。
昔と違って、あの頃の私はもうどこにもいません。
私の姿が変わってしまうと、みんな私のことを現代の小野小町とは呼ばなくなっていきました。
久しぶりにそう呼んでくれたのは、あなただけです。
あの頃は言い寄ってくる人も多かったのですが、今では全くいません。
色恋事に興味が無かったとはいえ、今から後悔しても遅いですね。
あれだけみんなが、雨のように私の美しさを褒め称えてくれたのに、すっかり私は色あせてしまいました。
もう一度だけ、誰かから言い寄られてみたいです。
花の色は 移りにけりないたづらに
わが身世にふるながめせし間に
えっ?
今からでも大丈夫?
今でも私は小野小町だからって?
……ありがとうございます。
私はもう散ってしまった桜だと思っていましたが、そうではないんですね。
それでしたら、もう一度だけ自分磨きをしてみますね。
きっといつか……あなただけの、小野小町になれる日が来ると、信じて……。