7 安倍仲麿
原文
天の原 ふりさけ見れば春日なる
三笠の山に出でし月かも
現代語訳
大空をはるかに見渡すと、美しい月が出ているが、
あれは昔故郷の春日にある三笠の山に出ていた月と同じ月なのだなあ。
あなたの声に背中を押されて、都会に出てから、もう何年経ったでしょうか。
あなたと別れたのは、ちょうど今日のような夜でした。
今夜も私は1人で、空を見上げます。
あなたと一緒に、何度となく見上げた夜空には、今夜も月が昇っています。
とても美しい、真ん丸な満月です。
私に都会に出ることを勧めてくれたのも、あなたでしたね。
夢を追うことを諦めて、田舎で人生を過ごすか否かで悩んでいた私に、あなたはそっと寄り添ってくれました。
そして、私の迷う心を、あなたは動かしてくれました。
夢を叶えてからでも、遅くは無いよと。
そのときのあなたの気持ち、とっても嬉しかったです。
私のために送別会を開いてくれて、友達も呼んで、みんなで応援してくれたこと。
全てあなたが居なければ、経験できなかったことでしょう。
あなたには、感謝してもしきれません。
ちょうどあなたが私の背中を押してくれた時も。
私のために送別会を開いてくれた時も。
今日のような満月が、空には昇っていたことを覚えています。
いつも私に優しい言葉をかけてくれるあなたは、柔らかな光を降らせる満月のようです。
都会の空では、ネオンや街灯に押されてしまいます。
目立たない日や雲に隠れて見えない日も、あります。
あなたは今もあの月と同じように、私を応援してくれますね。
月を見ると、いつもあなたを思い出しては、故郷に帰りたくなります。
でも、まだまだ夢を叶えたわけではありません。
夢を叶えるまでは、帰りません。
あなたにも会いたいですが、私が夢を叶えるまでの間、もう少しだけ待っていてください。
あなたが私に会いたいと思うように、私もあなたに会いたいのです。
天の原 ふりさけ見れば春日なる
三笠の山に出でし月かも
私は今夜も、あなたを思いながら、月を見上げます。
夢を叶えたら、あなたに伝えたいことがあります。
……月が、きれいですね、と。