4 山部赤人
原文
田子の浦に うち出でて見れば白妙の
富士の高嶺に 雪は降りつつ
現代語訳
田子の浦に出て眺めると真っ白な
富士の高根に今しきりに雪が続いている。
あなたの勧めで、お休みを取って、良かった。
そんなことを思いながら、私は海辺を歩いていました。
寒い冬でも、静岡の冬は少しだけ温かく感じられます。
有給を取ってなんとなく遠出しましたが、ここに来て正解でした。
田子の浦と呼ばれたこの海岸は、人も少なくて、1人になるにはちょうどいい場所です。
「風は、ちょっと冷たいですね」
アルバイトを休んで、遠出するのは夏休み以来です。
去年はアルバイトばかりしていましたから、心が躍ります。
海からくる風から逃れるように、私は海に背を向けました。
その直後でした。
「わっ……!」
私の目は、あるものにくぎ付けになってしまいました。
真っ青な空の下に見える、雪を抱いて真っ白になった山。
間違いなく、富士山でした。
あの時の富士山は、あなたにも、是非見てほしい富士山でした。
何度も見たことがある、富士山。
もちろん冬の富士山も、私は何度も見ています。
でも、それは写真やテレビといった映像の中の富士山。
直接自分の目で見たことは、ほどんどありません。
真っ白に染まった富士山は、神秘的でした。
そして遠くからでは見えにくいですが、少しだけ雲がかかっています。
あの雲は、これからまた、富士山に雪を降らせるのでしょう。
「田子の浦に うち出でて見れば白妙の
富士の高嶺に 雪は降りつつ」
アルバイト先で知り合った、あなたから教わった短歌。
どうしたわけか、それが私の口から流れるように出てきました。
きっと、この歌を詠んだ人も、同じ気持ちだったのかもしれません。
だって、白い富士山は、とっても美しかったんです。
またいつか、アルバイトを休んで富士山を見に行きたいです。
1時間の時給よりも、価値がありそうですから。
その時は……是非、あなたと一緒に行きたいです……。