第1話
思ったより空いてしまいました。プロローグよりは見やすくなった?かもしれません。
「無双がしたい。」
この夢に取り付かれたのはいつのことだっただろうか?何年も前だった気もするし、最近だった気もする。きっかけは小学5年生の時だった、その頃から太っていた俺は小学生からしたら絶好のいじめのターゲットだっただろう。学校に行っては「豚」と罵られ、殴られ、蹴られ、毎日泥だらけになって帰ってきていた。そんなある日、唯一仲の良かった友達の兄がライトノベルを貸してくれた最初は文字ばかりの難しい本だと敬遠したがそんな気持ちはすぐに消え去った。それは無双の剣士が己れの体と鍛え上げた剣技でどんな強大な敵おも倒しどんな困難な状況でも諦めず戦い最後には勝利する話だった。今思えば単純な物語、たいして売れてもいなかった凡庸な話。だが憧れた。この剣士のように強くありたいと、自分の手で困っている人を助けたいと。そして異世界で無双したいと。
「けど……あれはないだろう。」
あれとはさっきの「神」と名乗る謎の存在との一連のやり取りだ。長年の夢がかなうかもしれないからと言って不審者相手に二つ返事で同行するなど一般人からしたら正気の沙汰ではない、今時小学生でももうちょっと警戒心がある。
「それに………どこだよ。ここ。」
確か自分はさっきまで農道にいたはずだ。なのに気づいたら荒野に立っていた。草木は一本たりとも生えておらず、ただただ青い空と死の大地が地平線まで続いている、気温も高い。そして周りには大小様々な大きさのロボット?パワードスーツ?みたいな何かの残骸が大量に転がっている。細身のもの、子供のようなもの、明らかに人間の大きさではないようなものまで本当に様々だ。
「何だこれ?…パワード……スーツ?」
パワードスーツ別名強化外骨格。昨今ゲームやアニメ、映画などで見る機会が増えた人の行動をサポートし普通では出せないような力や動きを実現させる機械。一時期SFもののラノベにはまっていた海斗にとってはおそらく一番目の前の物にしっくりくるであろう言葉。おもむろに近くに仰向けに転がっていた細身のタイプのパワードスーツに近づく。そして近づくと解ることがある、そいつの胸部にはバレーボール程の大きさの穴が開いていた。
「でかいな…どう考えてもこれ致命傷だろ。」
動いていた頃なら白銀に輝いていたであろうその流線型の美しいボディは今では右腕と左足まるで切断されたように欠損し右後頭部は陥没、そして胸部中央には大穴、ダメ押しと言わんばかりに切断された手足の先と大穴の周りには赤黒い染みがべったりとついている。この残骸の状況は装着者はどう甘く見積もってももう生きてはいないだろうということを海斗にこれでもかと見せつけていた。
「?…何だこれ?」
それは直径2センチ程の赤い輪だった。白銀の体躯に黒のラインが延びているその機体にとってその左鎖骨のところについている。その異物は未知の物体をいじくりまわすのを躊躇わせないくらいには海斗の好奇心を刺激した。
「何か引っ掛けるのか?…それとも捻るのか?」
おもむろに人差し指をひっかけ、いじくりまわしてみる。するとどうやらこの赤い輪は引っ張るものだということに気付く海斗、そして躊躇なくその赤い輪を引っ張った。後から思い返してみれば途轍もなく軽率な行動だがこの時の海斗はリスクより目の前の残骸に対する情報を優先した。
プシュー
そんな気の抜ける音と共にとある音声が流れた
「外部からの強制パージ信号を確認。付近のものは機体から距離をとれ。繰り返す、外部からの強制パージ
信号を確認。付近のものは機体から距離をとれ。」
女性の声があたりに響くとともに残骸の正面部分の装甲が浮かび上がり左右にスライドして装着者の体を露わにした。
「ッ!?・・・ウッ」
そこにあったものを見た瞬間海斗は嘔吐した。
それは腐乱死体だった。このうだるような暑さのせいかところどころ白骨化し男女の区別もはっきりとはわからない一番ひどかったのは頭部だ。強い衝撃を受けたのだろう、まるで壁に投げつけられたトマトのように潰れていた。そのせいでほとんど人相もわからない。
「何なんだよこれ・・・」
死体から少し離れたところに座り込み自分の軽率さを呪う海斗。
「・・・(何なんだよこれ・・・誰か説明してくれよ)」
誰か、誰か、誰か、残念なことに海斗の頭の中には自分以外の誰かに頼ろうとする考えしかなかった。
そしてただ逃避する。周りの状況から、そして自分の選択から。
するとそんな海斗の思いを察したのか一枚の紙切れが目の前に落ちてきた。
「?……何だこれ?…メモ用紙?」
それは10×10センチ程のメモ用紙だった
「なんでこんなところにメモ用紙が?……何か書いてあるし」
そのメモ用紙の片面には文字が書かれていた
「えーと…[そっちでの調子はどうかな?海斗くん。そろそろ君の肉体が再構築されている頃だろうからこの手紙を送るよ。さて、本題だが君の脳内にそちらの世界の主要言語をインストールしておいた。これで問題なくその世界の住民とも会話できるし、読み書きだって大丈夫なはずだ。次に君の〈不死〉の能力の詳細についてだ。リスクについてはさっき説明したので省略する。覚えてもらいたいのは3つ、1つ目は復活する際は絶命した場所で復活するということ、そして2つ目、絶命した際の体の欠損度合いで復活までにかかる時間が前後すること、目安としては毒殺などで体には一切の欠損が見られない場合は1分程度。四肢の一部又は頭部が完全になくなっている場合は1時間程度。全身が完全に消滅してしまった場合は24時間程度だと思っていてほしい。最後に3つ目、体を再生しているときも君には意識がある。この3つのことを頭において存分に異世界生活を満喫してくれたまえ。では、またいつか会える日を楽しみにしているよ。 神より
PS.そこから南東の方角に10kmほど進めば人に会えるだろう。コンパスもついでに渡しておくよ。私はやさしいからね。]……これか」
最後までメモを読んだとき、足元にいつの間にかコンパスが転がっていたことに気づく。
「………さっきまでなかったはずなんだけどな。」
この時点であの「神」という謎の存在について深く考えることを無駄だと悟った海斗はコンパスを拾い上げそれに導かれるまま南東の方角に向かって歩き出した。
歩き始めて何時間たっただろうか。
行けども行けども景色は変わらずただただ荒野が広がっている。
「……本当に人に会えるんだろうな」
メモの通りにコンパスを信じて進んできた海斗だったがさっきから一向に人の気配がしない状況に不安を覚え始めていた。
「方角はあってるはずだし…結構距離も歩いたはずなんだけど」
メモを渡してきた神に対して不信感を募らせていると海斗の後頭部に何か固いものが当たる感覚があった、直後声が聞こえてくる。
「動くな…動けば撃つ。」
それは女の声だった。落ち着きのあるハスキーボイスで聞いているだけで落ち着けるようなそんな声。
「良かった…人がッ!」
海斗は嬉しかった。いきなり訳も分からないところに放り出された上に何時間も人の存在に触れてなかったのだ、だからであろうかその存在が発した言葉の意味を深く考えず振り返ったのは。そこにいたのは先ほどのとは違いタンカラーのパワードスーツだった。
ターンッ
「え?…ッ!!」
何かの破裂するような乾いた音。そしてその数舜の後に海斗に襲い掛かる激しく焼けるような痛み。
「アアアアアアアアアッ!!」
絶叫。これまで経験したことがないような痛みに海斗は崩れ落ちた。そして痛みの元を見てみると足の甲に直径1センチほどの穴が開いておりそこからとめどなく血があふれ出している。
「動くなと言っただろう。…質問に答えろ」
「いてえっ!いてえよぉ!!」
倒れこみそいつを見上げる形になった海斗。そいつはアサルトライフルらしきものを構えてこちらを見下ろしていた。
「……もう一度言う。私の質問に答えろ。」
「足っ!俺の足がああっ!」
撃たれる。そして自分の体から血があふれ出すという状況に完全に錯乱してしまった海斗は叫び続ける。
「血ぃ!血がぁぁ」
「……うるさいっ!」
我慢の限界だったのだろうか。そのパワードスーツはグリップを握っていた右手はハンドガードに、ハンドガードを握っていた左手をストックの根元に持ち替え海斗に馬乗りになる。そして次の瞬間、ストックで海斗の顎を打ち抜いた。
「アガッ!・・・・・・(なんでこんなことに・・・)」
顎に衝撃を受け昏倒する海斗。そして海斗が意識を手放したのを見て首筋に人差し指を当てるパワードスーツ。
「……よし、脈はある。さて、あとは止血か。〈ウェポンズ・ヒート〉。」
パワードスーツの人差し指が赤く発熱しだす。そしてその指を海斗の足の甲、つまり傷口にねじ込もうとしたその時。
「ちょっと待ってくださ~~い!」
目の前から焦った少女のような声が聞こえてきたかと思いきやそこは何もない虚空。次の瞬間大気がゆがんだかと思えばそこから現れたのは同じくタンカラーのパワードスーツ。
「?…どうしたカタリナ?何か問題があるのか?」
「問題大アリですよ隊長~!どうして隊長はそうやってすぐ傷口を焼こうとするんですか。」
「……だってそのほうが早いじゃないか」
隊長と言われたパワードスーツは弁明するが、どうやら旗色はよくないらしい。
「焼いた後の処置が大変なんです!衛生兵として見過ごせません!」
「……わかったよ。…処置はお前に任せる。」
「そうしてもらえると助かります。」
隊長に傷口を焼くこと以外の処置を認めさせたそのカタリナと呼ばれたパワードスーツは背面部分にある四角いバックパックから何やら透明なジェルの入った容器をとり出しそれを海斗の傷口に塗っていく。
「……よし…隊長、処置完了いたしました。」
「わかった…とりあえずこいつをどうするかだな」
そう言うとおもむろに右耳あたりを抑え、隊長機は通信を始めた。
「オーガ6よりコマンドポスト、対象を発見。」
「オーガ6、こちらコマンドポスト、対象の詳細を報告せよ。」
「オーガ6よりコマンドポスト対象は人種の若い男性。脱走兵や先月の生き残りではないもよう。持ち物はコンパス1つと訳の分からないことが書かれたメモ用紙のみ。なお捕縛しようとした際に抵抗したので昏倒させたので現在意識不明。」
「こちらコマンドポスト。オーガ6、了解した。直ちに対象を当基地に移送せよ。また移送後は別命あるまで待機。」
「こちらオーガ6。了解。通信終わり。……聞いていたな。そいつを早く基地まで運ぶぞ。」
指揮所との連絡を終えた隊長機はカタリナに海斗を基地に運ぶように促す。
「わかりました。隊長……でもどうやって運ぶんです?」
その疑問ももっともだろう。何せ海斗の体重は100キロを超えている。そのうえ身長も185センチときている。体だけを見ればかなり大柄な部類なのだろうが、それでもいじめられていたのは海斗の気質によるところが大きいのだろう。
「どうやってって…そんなの担いで走るに決まってるだろ。」
だがその大柄な海斗を担ぐと言い張る隊長機。その言葉を聞いてカタリナはわかりやすく肩を落とす。
「……担ぐのはいいですけど……飛びません?」
「馬鹿野郎。そんなことしたらスラスターの排熱でこいつが焼き豚になっちまうだろ。それに途中で落としてもかなわんからな。」
そういうと隊長機は軽々と海斗を肩に担ぐ。
「……今更ですけど、隊長の筋力っておかしいですよね」
「お前たちとは鍛え方が違うからな…ほらそろそろ行くぞ。ついてこい。」
そういうと海斗を担いだ隊長機は走り出した。
「……了解。」
自分の隊長(女性)が100キロを超えるであろう男を担いで全力疾走するという光景。そこに我らが隊長に彼氏ができない理由の一端を垣間見たカタリナは呆れながらも隊長の後を追う。
パワードスーツに関してはヘ〇ローシリーズのミョ〇ニル〇ーマーやUL〇RAM〇Nの〇LTR〇MAN〇UITを足して2で割ったものを想像してもらえれば大体そんな感じであってます。