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サーよし!  作者: たらふく
9/307

9 ポッコーン




キーンコーン カーンコーン


終業のベルが鳴った。


「なあ、帰り、どっか行く?」

「お好みでも食べに行こか」


杉裏の横で、クラスメイトが楽しそうに話をしていた。

今日は土曜日、女子高生たちにとって土曜の午後というのは、特別な時間だった。


「私は彼氏とデートやねん~」


別の女子がそう言った。


「いやあ~エッチやなあ~」

「なによ~ええやんか」


杉裏はこの後、練習へ向かう予定だ。

杉裏は羨ましいと思いつつも、先日買ったラバーで打てることが楽しみだった。


「杉裏さん」


松本が声をかけた。


「なに?」

「私ら、この後、練習試合へ行くからね、今日は体育館使わないよ」

「え、そうなんや」

「だから、ボールが飛んでくることもないから、安心して練習できるね」


松本は優しく笑った。


「どこ行くの?」

「小谷田高校よ」

「えっ、そうなんや」


杉裏は校名を聞いて、少し驚いた。


「うん」

「小谷田ってバレーも強いん?」

「強いよ」

「そうなんや」

「なんで?」

「いや、卓球もめちゃくちゃ強いねん」

「へぇー」

「大阪でベスト4やねん」

「へぇ~そら強いね」

「松本さん、頑張ってな」

「ありがとう。でも私はまだ試合には出られへんのよ」

「あっ・・一年やからか」

「そうやね」

「出たいと思わんの?」

「そら出たいけどね、見るのも練習のうちよ」


松本は、少しも気落ちなどしていなかった。

むしろ、練習試合とはいえ、強豪校である小谷田のプレーを目の前で見られることに、嬉しさを感じているようだった。


「見るのも練習か・・」

「良いプレーを見て、盗むんよ」

「なるほど・・」

「あっ、私、もう行かなあかんわ。ほなね」


松本は手を振って教室を出て行った。

そこに入れ替わるようにして、岩水が杉裏を迎えに来た。


「杉ちゃん~」

「ああ、美紀」

「食堂行こか」

「そやね」


二人はその足で学食へ向かった。


「なんかさ、今日はバレー部いてへんらしいで」


歩きながら杉裏が言った。


「なんで?」

「練習試合に行くって」

「へぇー」

「松本さん、試合に出られへんのに、なんか嬉しそうでな」

「そうなんや」

「プレーを見るのも練習やって」

「ふーん」

「偉いなあ・・」

「まあ、ようわからんけど、私らは見るより、やる、やで」

「あはは、確かに」


杉裏と岩水は、食事を済ませた後、体育館へ向かった。


「わあ~なんかシーンとしてるな」


体育館へ入った杉裏は、呆然としていた。


「ほんまや。静かやな」

「さっ、着替えて台を出そか」


いつものように、張られたネットの中に台を準備したものの、二人はどこか違和感を覚えていた。


「あのさ、これ、真ん中へ移動させへん?」


杉裏が言った。


「ええっ、真ん中って、あそこに?」


岩水は中央を指して言った。


「ええやん。今日は、うちらだけなんやし」

「そらそうやけど・・」

「ほらほら、移動させるで」


そして二人は台を体育館の中央へ移動させた。


ポツーン・・


この表現が最も適切だろう。

まさにポツンと置かれた台は、いつもより小さく思えた。


「なんか・・変やない?」


岩水が言った。


「うーん・・そうやけど、広いところで出来るなんて、今日しかないで」

「まあ・・そうやな」


「あれ・・」


そこに小島が入ってきた。


「監督!どうですか!」


杉裏は台を移動させたことを言った。


「なにやってんねん」


小島は半笑いだった。


「今日、ここは全部卓球部のものです!バレー部は練習試合に行っております!」

「あはは、ええんちゃうか」

「監督のお許しが出たってことで、早速練習するであります!」


そして杉裏と岩水は、基礎である素振りを始めた。


「えっとな、それ十五分やったら、次は打ってみ」


小島は床に座って、ノートを見て言った。


「はいっ!」


杉裏は勢いよく返事をしたが、岩水は「なに見てるん」と訊いた。


「練習メニュー、考えたんや」

「へぇー」


岩水は素振りを止め、小島の横へ座った。


「おい、サボんな」

「メニューってどんなん?」

「ええから、素振り」

「はいはい~」


岩水は仕方がない、といった風に立ち上がり、元の位置に戻った。


シュッ、シュッ


何日かかけて素振りだけをやって来た二人は、そこそこ板についてきた。

けれども、それはあくまでも、素人の素振りだということに、気がついてなかった。


やがて十五分が経ち「ほな、打ってみ」と小島が命令した。


「よっしゃ~!」


杉裏と岩水は新しいピン球を手にした。


「あっ・・なんかついたで」


杉裏が手を見て言った。


「ほんまや、しろなってる」


新しいピン球には、白い粉のような物が付着しているのだ。

使っていくうちに、自然と取れるのだが、それを知らない二人は不思議に思っていた。


「あのお婆さんが言うてたやん。なんでもええって」


小島が言った。


「あ、そやな」

「ほな、気にせんと行こか」


そして二人は台に着いた。


「行くで~」


杉裏がサーブと思って出したのは、サーブではなかった。

サーブというのは、自分のコートにワンバウンドさせて送らなければならない。

杉裏が出したのは、相手のコートに直接入れただけのものだった。


ポッコーン


岩水が打ち返した。

ポッコーンという音でもわかるように、真っすぐ打ったわけではなく、ラケットの角度は上を向き、山なりに送り返しただけなのだ。

返球されたボールを、杉裏も同じようにポッコーンと打ち返していた。


「ミスしたらあかんで~」


杉裏は呑気にそう言った。


「あんたこそや~」


岩水がそれに答えた。


この時点で彼女たちは、一切気がついてなかった。

そう、素振りのフォームのことなど全く忘れていたのだ。

これでは素振りの意味がない。

といっても、彼女たちの場合は素人の素振りなので、ある意味、忘れた方がよかったとも言える。


いずれにせよ、前途多難なことには違いなかったのである。

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