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サーよし!  作者: たらふく
8/307

8 新品のラバー




練習が終わった後、杉裏ら三人は卓球専門店へ行くことにした。

もちろん、ラバーとボールを買うためだ。

どのように貼り替えるのか知らない三人は、ラケットも持参していた。


「こんにちは」


杉裏が店のドアを開けた。

杉裏は二度目とあって、以前より少し気が楽だった。


「ああ、汀子ちゃんかいな。いらっしゃい」


カウンターに座っていた老女は、杉裏のことを憶えていた。

杉裏はそれが、とても嬉しく感じた。


「こんにちは・・」


そう言って、岩水と小島が続いて入った。


「おやおや、今日は友達も一緒かいな」

「はい、卓球部員です」

「へぇーそうか、それはええな」


老女はしわくちゃの顔を、またしわくちゃにして笑った。


「ほんで、今日はどうしたんや」

「ラバーとボールを買いに来ました」

「おお、そうかいな」


そこで老女は「よっこらしょ」と言って立ち上がった。

そしてラバーが置かれている棚へ移動した。


「どれがええんや?」

「えっと・・一番安いのを・・」


杉裏は小島に確認するように振り向いた。

小島は「うん」と頷いた。


「安いのってか。こんなんいうたら何やけどな、ラバーいうんは、ぞれぞれに合ったものを使うんがええんやで」

「合ったもの・・?」

「前にも言うたけどな、選手の型によって違うんや」

「ああ・・ペンとかシェイクですね」

「それもあるけど、例えばな、ペンなら攻撃型や。それも前陣速攻型、後ろに下がるラリードライブ型、これによって使うラバーも違うんやで」

「・・・」

「それと、裏ソフトだけやない。表ソフト、一枚ラバー、イボ高、アンチ・・」

「あの、すみません」


そこで小島が口を挟んだ。


「なんや」

「私らお金がないんです。だから一番安いのお願いします」

「お金がないんか・・」


老女は、仕方がないといった風に、極薄と書かれたラバーを取り出した。


「裏がええやろ」

「裏って、裏ソフトのことですね」


杉裏が答えた。


「あんたは身体が小さめやから、前陣型がええな」

「前陣型・・」

「台にぴったりくっついて、速く攻めるタイプや」

「そうですか・・」

「一枚でええんか」

「いえ・・二枚なんです」

「ほな同じもんでええな」

「はい」

「それと、ボールを1ダースください」


小島が言った。


「あんたら、お金ないんちゃうんか」

「ラバーとボールを買うお金は持ってます」

「そうか。えっと、ボール、ボール」


老女は腰をかがめながら、一番下の棚を探していた。


「あの・・私らラバーの貼り方、知らないんですけど教えてくれませんか」


老女の上から、杉裏が訊いた。


「え?なんやて」


老女は手を奥に入れながら、顔だけ杉裏に向けた。


「ああ、私がやります」

「いや、もう掴んだ」


老女は箱に入ったピン球を「わあ~汚なぁ」と言って取り出した。


「フゥ~フゥ~」


箱にの上に溜まったホコリを、老女は吹き飛ばしていた。

そして手で取り除いた。


杉裏たちは、こんなのしかないのか、といった風に、少し唖然としていた。

でも、それを口に出せないでいた。


「これは、タダや」

「えっ・・」


三人とも同時に驚いた。


「あげる、いうてんねや」

「いいんですか・・」


杉裏が遠慮気味に訊いた。


「ラバーはな、古いのやったらアカンけど、ピン球は割れてなかったらなんでもええんや」

「・・・」

「お金がない言うてる若い子から、これで金取ろうとは思わんよ」

「ありがとうございます」


杉裏たち三人は、同時に頭を下げた。


「ほんで、さっきなんか言うとったな。なんやったんや」

「ああ・・ラバーの貼り方を教えてほしいんです」

「ええよ」


そう言われた杉裏は、急いで鞄の中からラケットを取り出した。

そして老女に渡した。


「ありゃまあ・・」


老女はラケットもさることながら、ラバーの劣化ぶりにポカンと口を開けていた。


「これは年代もんやな」


そして老女は「あはは」と笑った。


「こういうのを腐ったラバーって言うんやで」

「そうですか・・」


老女は「腐ったラバー」をビリリと()がした。

老女は次に、カウンターの引き出しを開け「あったあった」と言い、接着剤のようなものを取り出した。


「これな、ラバーダインて言うんや」


老女は、チューブ状になったラバーダインの蓋をクルクルと回し、チューブを指で押すと、中から液状のものが出てきた。


「ええか、これ、接着剤や。これをラケット全体に塗るんや」


老女は杉裏たちが買うラバーのビニールをビリビリと破き、固い紙で挟まれたラバーを横に置き、紙の一部分を破って四角に折り、それを接着剤になじませるように、ラケット全体に広げていった。


「こうやってな」


杉裏たちは、老女の見事な手さばきを黙って見ていた。


「次は貼るだけ」


老女はラバーを手にした。


「ラバーって・・四角なんですね」


杉裏が言った。


「そやで。これをバランスよく貼ってから、後で切るんや」


老女はラバーを貼り終えた後、「ひっつくまで、ちょっと置いとくんや」と言い、ラケットをカウンターに置いた。

そして「練習はどうや」と老女が杉裏に訊いた。


「今は素振りだけやってます」

「ほぅ、基本中の基本やな」

「はい」

「誰かに教えて貰ろてるんか」

「いえ、この間買った入門書を参考にしてます」

「そうか」

「私ら、試合に出るんです」

「えっ!」


老女は杉裏の言葉にたまげていた。


「試合って、なんのや」

「一年生大会です」

「あはは、こらええわ。あはは」


笑われた杉裏は、返答のしようがなかった。


「私も出るんです」


杉裏の後ろで岩水が言った。


「へぇーあんたも一年生か」

「私ら、三人とも一年生です」

「そうかいな。ええんちゃうか」

「私は出ません」


小島が言った。


「なんでや」

「私は監督ですから」

「監督もいてへんのか」

「だから、私が監督なんです」

「あはは、あんたら、おもろいなあ」


そこで老女はラケットを持ち「もうええな」と言って、引き出しからハサミを出し、ラケットの形に添ってチョキチョキと切り始めた。


「ほら、出来たで」


すると新品のラバーが、赤い光を放つかのように三人には輝いて見えた。

杉裏が少し触ってみた。


「わあ~今までのと、全然ちゃう!」


岩水と小島も触れてみた。


「ほんまや。ネチネチしてる!」

「ほんまやな」


さすがの小島も、驚いていた。

これまで彼女たちが使っていたラバーは、表面がツルツルしていたのはもちろんのこと、色もだいぶ褪せていたのだ。

いわゆる「腐った」ような色をしていたのだ。


「だからか!腐ったラバーって言われてんのん」


杉裏がそう言うと「ほんまや!あはは」と岩水が笑った。


「あははは、あんたら、ほんまにおもろいわ」


更に老女も笑った。

そして「試合、頑張りや」と、優しく微笑んだ。

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