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サーよし!  作者: たらふく
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39/307

39 先を見越して




その後、日置はとにかく凡ミスをしないよう、丁寧に返球していた。

そして、ショートで返せばいいところを、わざわざ回り込んで打ち、相手がミスしないようにボールを送って返球させ、を繰り返していた。

つまり、日置はフットワークを己に課し、この後の準決勝、決勝のことを考えていたのだ。

ササクレの後藤も、当然、日置のボールは打ちやすく、意外なほどラリーが続いた。


そのことを知らないササクレのメンバーは、「なんや兄ちゃん、大したことあれへんがな。後藤はん、行けるで!」などと言っていた。

日置は動きまくっていたので、既に汗がしたたり落ちていた。


ハアハア・・こりゃ・・きついな。


長くラリーが続いたとしても、結局、最後は後藤がミスをする。

よって、カウントは20-2で日置がリードしていた。

ちなみに、後藤の2点はエッジボールによるものだった。


エッジボールとは、台の端にあたり、バウンドがイレギュラーするものだ。

野球で例えると、打球がベースにあたり、ポーンと跳ね上がって野手が後逸してしまう、というあれと同じだ。

エッジボールは、さすがの日置でも返せない。


点差が開いているにもかかわらず、ササクレは「行け~!」と、まるで競った試合かのように盛り上がっていた。

後藤の目は、けっして諦めていなかった。

日置の返球にどこまでも食らいつき、打ちまくっていた。

結局最後も後藤がミスをし、1セット目が終わった。


「くっそ~、あんだけ打っとるのに、兄ちゃん、なかなかミスせんなあ~」


後藤がササクレのメンバーのところまで行き、そう言った。


「あの若いのん、なかなかの策士やで」


佐々暮が言った。


「なんでや」

「ラリーを続けて、後藤はんを疲れさす魂胆やったんや」

「なるほど」


後藤は、肉体労働者である。

それは今も現役だ。

ちょっとやそっとじゃ、疲れることなどない。

鍛え方が違うのだ。


「見てみぃ。兄ちゃん、ハアハア言うとるがな」


佐々暮は、日置を見て言った。

そして「見事に返り討ちや」と続けた。


「そやけど、点取らな、なんもなれへんで」


ササクレの中野が言った。


「そこや。点を取るにはどうしたらええかや」

「必殺サーブも、効かんしなあ」

「まあええ。とにかく左右に揺さぶってとことん疲れさせるんや」

「よっしゃ、任しとき」


―――一方、たまたまおっさんの方では。


「日置くん、エンジンかかったか」


相沢が訊いた。


「はい、なんとか」


日置はタオルで汗を拭いていた。


「相沢さん、エンジンて、なんですか」


吉野が訊いた。


「見てたらわかるで」


相沢は、訳知り顔でニヤッとした。


「日置くん、これ飲み」


補欠の箱崎が水筒を出した。


「あ、すみません。いただきます」


日置は水筒を受け取り、お茶を流し込んだ。


「しかし、よう動くなあ。大したもんや」

「ありがとうございました」


日置はそれだけを言って、箱崎に水筒を返した。


やがて日置は向こう側のコートへ行き、後藤はたまたまおっさん側の方へ来た。

コートチェンジだ。


そして2セット目が始まった。


サーブは日置からだ。

日置はバッククロスから、フォアの斜め回転のサーブを出した。

斜め回転とは、下回転と横回転が混ざったものだ。

レシーブ側は、角度を上手く合せない限り、ネットミスかオーバーミス、またはチャンスボールが返ってしまうのだ。


後藤は角度が合わず、高い返球になってしまった。

けれども後藤は、1セット目の日置の返球ならば、打ち返せると高を括っていた。

ところが日置は、容赦なくパシーン!と矢のようなスマッシュをフォアクロスの深いところへ打った。

後藤は一歩も動けず、呆然と日置を見ていた。


兄ちゃん・・別人か・・?


日置は「よし」と小さな声で言った。

そして2球目も、同じサーブを出した。

後藤はなんとか返球したが、またチャンスボールになってしまった。

後藤は慌ててフォアへ動いた。

けれども日置は、それを反対側のバッククロスへ流し打ちをした。

後藤は、そこで足が止まってしまった。


「後藤はん!球をよう見て!」


ササクレの徳永が叫んだ。


日置は3球目も同じサーブを出した。

後藤は慌てて返したが、またチャンスボールになってしまった。

日置はそれを、ミドルに打った。

ミドルとは、台の真ん中のことだ。

ボールは、後藤の体にあたるだけだった。


くそ・・手も足も出ん・・


後藤は動いてもいないのに、額から汗がしたたり落ちた。

日置は4球目のサーブは、下回転を出した。

しかもフォームはさっきと同じなのだ。

日置はボールを擦る時、相手に見破られないよう絶妙に下回転をかけた。

これも上級者の高等テクニックだ。


「ネットミスするで」


相沢がポツリと呟いた。

すると相沢の予想通り、後藤はネットに引っかけた。


「え・・相沢さん、なんでわかるんですか」


吉野が訊いた。


「なんで言われても、わかるもんはわかるんや」

「へぇ~」


そして日置は同じフォームから横回転を出した。


「今度はオーバーミスや」


相沢が言うと、後藤はオーバーミスをした。


「えぇ~~、相沢さん、回転が見えてるんですか」

「回転は見えへん。ラケットの角度や」

「僕にはわかりませんわ~」


この流れで試合は進み、カウントは既に20-4だった。

後藤の4点は、エッジボールが2点と、日置のスマッシュミスの2点だ。

そして最後の1点は、日置が満身を込めて振りぬいたスーパードライブボールが決まった瞬間だった。

日置が放った、たった1球の「本気」のボールに、ササクレのメンバーも「おお~」と声が出た。


「ああ~!やられてしもた」


後藤はバンザイをして、降参した。


日置と後藤は「ありがとうございました」と互いに頭を下げた。

日置がみんなの元へ戻ろうとすると、「兄ちゃん」と後藤が駆け寄ってきた。


「はい」

「あんた、強いなあ」

「ありがとうございます」


日置はそこで、また一礼した。


「せやけど、ちょっとは手を抜いてぇな」

「後藤さん」

「なんや」

「試合は戦争なんでしょ」

「かっ。こりゃまた一本取られてしもたがな」

「僕は、本気で向かって来る相手に、手を抜いたりしません」

「そらそうや。兄ちゃんの言う通りや」

「後藤さんの気迫、素晴らしかったです」

「またまた~、じょうず言うてからに」

「あのサーブ、なかなか取れるものではありませんよ」


日置は必殺サーブのことを言った。


「そやねん。あれな、みんな取られへんのや」

「そう思います」

「兄ちゃん、おおきにな。ええ経験させてもろたわ」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「ダブルスは、こっちのもんやで!」


後藤はそう言って笑いながら、ササクレへ戻った。


「日置くん、ご苦労さん」


チームへ戻った日置に、相沢が肩を叩いて労をねぎらった。


「いやあ~すごかったですわ!」


吉野は日置の強さに、改めて感激していた。

他の者も、お茶を飲めだの、おにぎりを食べだの、日置はチームメイトに温かく迎えられていた。


そして二番手の三木は、簡単に倒され、ダブルスは圧勝。

四番手の吉野は、セットオールまで持ち込んだが、惜しくも負けた。

ラストの相沢は、日置にも引けを取らないほどの圧勝を収め、3-2で、たまたまおっさんが二回戦へコマを進めた。


「わしら、勝ったん初めてやで」


ロビーへ行く途中、相沢が日置に言った。


「そうですか」

「やっぱり勝つってええもんやな」

「そうですね」

「準決勝と決勝では、日置くんの本気を見せてもらうで」

「僕は、ずっと本気ですよ」

「嘘いえ。あんなもんやあれへん」

「ほんとですよ」


日置は、またニッコリと微笑んだ。

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