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サーよし!  作者: たらふく
31/307

31 嫉妬




杉裏たち八人は、悦子や朝倉の、超一流のプレーに刺激を受けたことや、「目標は全国大会出場だ」と簡単に口にしていたが、けっして甘くはないことを再認識し、練習にもより一層、力が入る日々を送っていた。

その努力が実り、ペンマンはフォア打ち、ショート、ツッツキ、カットマンは、フォアカット、バックカット、ツッツキがようやく出来るようになっていた。

そして、今日で夏休みが終わろうとしていた。


「きみたちは、本当に努力して頑張った。この短期間でここまで成長するとは、思ってなかったよ」


日置はこの日の練習を終えたあと、みんなにそう言った。

八人は、汗だくになりながら黙って聞いていた。


「でもいいかい。よく聞いてね」


八人は何を言われるのかと、息をのんだ。


「本当の勝負はここから。明日からは、これまでより、もっと厳しい練習になるから、覚悟してね」


八人の表情は、明らかに動揺していた。

これまでも、十分苦しかった。

それがもっと苦しくなるのか、と。

けれども彼女たちは、けっして下を向かなかった。

技術的にも上達したが、精神的にも少し成長しているのだ。


「それと、素振り100回は、もうやらなくていいから」

「どうしてですか・・」


小島が訊いた。


「素振りはもう定着した。余程のことがない限り崩れることは無い。それより一球でも多くボールを打つことが大事なの」

「はいっ!」


八人全員が声を揃えて返事をした。


「素振りに費やしていた時間を、サーブ練習に使うからね」

「はいっ!」

「じゃ、今日はここまで。解散」

「ありがとうございました!」


八人が頭を下げたところで「ああ、そうそう」と日置が何かを言い忘れた。


「部室のことなんだけど」


彼女たちには未だに部室がなかった。

今は夏休みなので、学校のジャージを着て登校していた。

けれども汗をかくので、どうしても着替えが必要であり、彼女たちは小屋で着替えていたのだ。


「校長に交渉したんだけどね、今はどの部室もいっぱいでね。それで結局、ここの横に小さな物置を設置してくれることになったんだけど、それいでいいかな」


八人は、物置て・・と、正直驚いていた。


「物置っていっても、着替えは出来る大きさらしいよ」

「それでいいです」


小島が言った。


「他の子たちは?」

「私もそれでいいです」

「私も賛成です」


と、結局、全員が賛成した。


「わかった。校長に報告しとくね」


日置はそう言って、一足先に小屋を出て行った。


「物置て・・」


日置がいなくなってすぐに、外間が言った。


「まあ、しゃあない。無いよりましや」


小島がそう言った。


「そうそう~贅沢言うたらあかんよ~」


蒲内がそう言うと「明日から・・どんな練習なんやろな・・」と杉裏が呟いた。


「今より厳しい言うてはったな・・」


岩水もそう呟いた。


「そんなことより、はよ着替えて帰るで」


小島が言うと、みんなは汗だくのTシャツを着替えだした。



―――そしてこの後、為所と浅野は、久しぶりに卓球センターへ向かっていた。



川上や梶原に相手してもらうためではない。

以前の自分と、今の自分とでは、二人のプレーがどのように映るのか確かめたかったのだ。

もし、川上と梶原が、以前よりさほどではないと映ったとすれば、それは自分が成長している証になると考えたからである。


やがて為所と浅野は卓球センターへ入った。


「こんにちは」


為所と浅野は、受付の男性に自分たちから挨拶をした。


「おお、あんたらかいな。久しぶりやな」

「はい」

「今日はジャージを着てるということは、やるんか」

「いえ、また見学です」


為所は笑って言った。


「あはは、変わった子らやな。まあええ、ゆっくり見て行き」

「ありがとうございます」


そして為所は中を覗いた。


「しぃちゃん、先輩いてる?」


そう言って浅野も覗いた。


「いや、今日はいてへんわ」

「ありゃ、せっかく来たのに残念やな」

「あの」


そこで為所は受付の男性に声をかけた。


「なんや」

「中井田高校の川上さんと梶原さん、今日は来てないんですか」

「ああ、あの子らやったら、もう引退したで」

「えっ!引退?」

「インターハイ予選が済んだ後、近畿大会が終わってから、しばらくして引退したんや」

「なんで引退したんですか」

「もう三年やで、あの子ら」

「そうですけど・・」

「インターハイで三年は引退や」

「そうなんですか・・知らんかった・・」

「それでもまあ、あの子らは卓球は辞めへんやろから、また来ると思うで」

「そうですか・・」


為所はとても残念そうにしていた。


「しぃちゃん、どうする?帰る?」

「そやなあ・・みんな知らん人ばっかりやしな」


為所は中を覗きながら呟いた。


「なあ、あの人誰やろ」


為所たちから離れたベンチで休憩を取っていた、若い女性が連れの女性にそう言った。


「いや~、めっちゃかっこええやん」


二人は中を覗きながらそう言った。


「見たことないな・・」

「なあ、打ってもらわへん?」

「ええ~・・打ってくれるかな」

「今度、いつ会えるかわからんで」

「そやけど、練習してはるやん」

「それにしても、上手いな・・」

「かっこええわ・・」


そこで為所は、誰がいるのだろうと彼女たちの視線を追った。


「え・・嘘やん・・」


為所は誰かを見つけた。


「どしたん?」


浅野も再び中を覗いた。

すると一番端の台で、日置が練習していたのだ。


「いやっ、先生やん!」と浅野が思わず大きな声を出した。

「内匠頭・・」


為所は小さな声で囁いた。


「なに・・?」

「あの女の人ら、先生を狙ってるで・・」

「ああ・・」


浅野は女性二人に目を向けた。

すると女性たちは、まだ日置に熱視線を送っていた。


「内匠頭・・どうする・・?」

「どうするって・・」

「このままやと、先生、取られるで」

「え?」

「先を越される、言うてんねや」

「なに言うてんのよ」

「私らが先生に教えてもらうんや」

「えぇ~・・でも、先生、練習してはるやん」

「あかん。あんな女らに取られてたまるか」

「まあ・・そやな」


そして為所と浅野がその場を動こうとした時だった。

タッチの差で女性たちが先に中へ入り、日置のところまで走って行った。


「げ・・」

「やられてしもたな・・」


為所と浅野は、そこで足が止まった。


「あの~!私たちと打ってくれませんか」と、女性二人が日置に声をかけていた。


そこで日置は、ラリーを止めて振り向いた。


「ごめん、悪いけど練習中なんだ」


日置は申し訳なさそうに断っていた。


「慎吾、ちょっとくらい打ってやれば?」


日置の練習相手の男性が言った。


「うーん」


日置は困っていた。


「ちょ・・ちょ・・ちょっと、先生、なにやってんねん。断れよ」


為所がそう言った。


「んー、じゃ、十分だけね」

「やった~!ありがとうございます!」


「ええっ、やるんかい!」


為所は思わず突っ込んでいた。

そして女性たちはジャージを脱ぎ、Tシャツと短パンなにり、一人の女性が台に着いた。


「お願いします」と女性が頭を下げた。

「お願いします」と日置も頭を下げた。


すると、信じられない光景が為所たちの目の前で繰り広げられた。

軽くフォア打ちを始めたものの、日置のボールを女性はなんなく打ち返していたのだ。


「げ・・」


為所と浅野は、呆然とその様子を見ていた。


日置の相手をしていた男性は「へぇー」と感心したように言った。

やるじゃないか、といった風だ。

しばらくラリーが続いたあと、日置が「上手だね」と言った。

すると女性は「そんなことないです~」と甘い声を出していた。


「きみ、学生さん?」


日置が訊いた。


「はい、私ら、山戸辺高校なんです」と女性が答えた。

「へぇー」


日置は当然、山戸辺が強豪校だと知っていたが、気に掛けるそぶりを見せなかった。


「私、山戸辺の二年生で島乃倉っていいます!」

「私も同じく山戸辺の二年生で、鶴見っていいます!」


そう、この女性たちは一年生大会の時、小島とやり合った二人だった。


「高校生なんだね」


日置が言った。


「はい!」

「慎吾、ダブルスやらない?」


後ろで男性がそう言った。


「やりたいです~!」


島乃倉と鶴見は、俄然、乗り気になっていた。


「じゃ、ちょっとだけね」


日置がそう言うと、「先生、あり得へんわっ」と為所は怒った。


「なんか腹立つな」


浅野もそう言った。


二人が見ているとも知らず、日置はダブルスを始めた。

その実、日置は、いずれ対戦するであろう二人の実力のほどを、確かめてみようと思ったのだ。


島乃倉と鶴見の動きは、昨日今日組んだペアではないことが、日置にはすぐにわかった。

日置がボールを送るコースも、フォア、バックはもちろんのこと、ネット際、ミドルと絶妙に返球し、彼女たちの弱点を探ろうとした。

結局、島乃倉たちは、手も足も出なかった。


「ありがとうございました!」


島乃倉たちは丁寧に頭を下げて、自分たちが使っていたコートに戻った。

そして日置と男性は、再び練習を始めた。


為所と浅野は、日置を取られた気になりはしたが、なぜ日置がここで練習しているのかが気になっていた。

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