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サーよし!  作者: たらふく
21/307

21 外間たちの復帰




―――次の日、一年七組の教室では。


「なあ、知ってるか?」


外間が、井ノ下と蒲内に訊いた。


「なにをよ」

「そとちゃん、なにぃ~」

「日置先生な、卓球部のコーチになったらしいで・・」


日置の噂は、早くも一年生の間で広まっていた。


「マジか!」


井ノ下が叫ぶと、クラスの生徒が三人を見た。


「えぇ~!杉ちゃんたち、羨ましいわあ~」


杉裏たちが昨日、どれほど過酷な練習をしたのかも知らず、蒲内は呑気に言った。


「なんか、ずるいと思わん?」


外間は、自分勝手なことを平気で言った。


「日置先生って、卓球、知ってるんや・・」


井ノ下が言った。


「私らかて、元卓球部やん。戻って教えてもらう権利はあると思うねん」

「そとちゃん、甘いわ。あいつがいてるねんで」


井ノ下は小島のことを言った。


「そんなん関係ないやん。卓球部は誰でも入れるやん」

「せやけど、私ら辞めたんやで。あいつが許すはずないで」

「それは小島が勝手なだけやん。私は戻るで」

「私も戻るぅ~」


蒲内はニコニコしながら言った。


「日置先生を独占するやなんて、ずるい!」


外間は机をバーンと叩いた。


「なあなあ、何の話?」


そこにクラスメイト数人が、外間たちの傍へやって来た。


「日置先生が、卓球部のコーチになったらしいけど、知ってる?」

「ああ、知ってる、知ってる」


一人がそう言った。


「その話やねん」

「それやったら、もう私ら卓球部に入ること決めてるで、な?」


その生徒は仲間の生徒に、顔を向けて確認した。

すると仲間たちは、「そやで」と言った。


「えっ!」

「驚くことないやん」

「これは、呑気に構えてられへんわ。やっぱり私らも戻ろ」


外間は、井ノ下と蒲内に念を押した。



―――「美紀、腕はどうや」



昼休み、食事を摂った後、杉裏と岩水はベランダにいた。


「めっちゃだるい・・」

「私もやねん・・」

「腰も痛いしな・・」

「うん・・そやな」


杉裏と岩水は、早くも根を上げそうになっていた。


「今日も素振りかな・・」

「500回・・」


杉裏がそう呟くと、「杉ちゃん、続ける自信ある?」と岩水が訊いた。


「自信か・・。美紀はどうなん?」

「うーん・・」

「私はやっぱり、強くなりたいって気持ちはあるねん」

「・・・」

「竹林さんみたいになりたいねん」

「まあ、私かて、このまま辞めるいうんは違うと思てるねん」

「そやんな・・」


「あんたら」


そこに小島がやって来た。


「彩華・・」


杉裏は元気のない声で言った。


「なに、しょうもない顔してんねや」

「彩華、腕はどうなん?」

「痛いに決まっとる」

「うん・・」

「なんや、あんたら辞めるとでもいうんか」

「そんなことないけど・・」

「あのな、言うとくけど、私らは初心者や。何の苦労もなく強くなれると思たら大間違いやで」

「そんなん・・わかってるよ・・」

「私もな、さすがに昨日はびっくりした。想像以上やった。せやけど、これを乗り越えんとボール、打たしてくれへんで」

「うん・・」

「それって卓球ちゃうやん」

「彩華は耐えれるん・・?」


岩水が訊いた。


「あんだけ頼んでコーチになってもろたんや。僕の練習は厳しいとも言うてはった。耐えるしかないやろ」

「そやな・・」

「頑張れば頑張ったぶんだけ、前に進めるんや。少なくとも後ろへ下がることはないで」

「うん、彩華の言う通りやな」


杉裏は幾分か、小島の言葉に力を貰った気がした。


「そやな。前に進むんや」


それは岩水も同じだった。


それでもまだ始まったばかり。

いや、まだ何も始まってはいないのだ。

今後の練習が、より一層過酷であることは、三人にとって想像に難くなかったのである。



―――そして放課後。



杉裏たちが体育館へ入ると、ネット際に多数の生徒が押し寄せていた。

バレー部員も、迷惑そうに練習の準備をしていた。


「え・・あれ、なんなん?」


杉裏は驚いて言った。


「ふんっ。日置先生目当てやろ」


小島は吐き捨てるように言った。


「まさか、卓球部に入るとか?」


岩水が言った。


「行くで」


小島がそう言い、三人は足早にネットに近づいた。

すると日置を囲み「私らも卓球部に入りたいぃ~」と生徒たちが迫っていた。


「うん、いいよ」


日置はあっさりと言った。

それを聞いた杉裏たちは、耳を疑った。

それもそのはず、この生徒たちは卓球そっちのけで、日置と一緒にいたいだけだ。

日置は言ったはずだ。

やる気がなければコーチは受けないと。

それが、あっさりと「うん、いいよ」と受け入れたのだ。


「じゃ、一人ずつこの中に入って」


日置はネットの中へ入るように促した。


「私から~!」

「あかん~私や~!」


生徒たちは先を争って中へ入ろうとした。


「待って待って。じゃ、きみから」


日置は先頭に立っていた生徒に言った。

そして「これを持ってね」とラケットを渡していた。


「なにをすればいいんですか」


不思議に思った生徒は、そう訊いた。


「これで素振り500回やってね。それが出来たら入部を認めるよ」

「え・・」


言われた生徒は呆然としていた。


そして「素振り500回・・」とあちこちで声が挙がった。


「そやかて、私、素振り知らないんですもん」


生徒が言った。


「知らないなら不合格。はい、次」


日置は生徒からラケットを取り、次の生徒に渡した。


「どうしたの?」


優しく微笑む日置に、次の生徒は固まっていた。


「私は・・ええです・・」

「そっか、じゃ、次」


こうしてどんどん生徒が減っていった。


「先生・・」


そこで杉裏が声をかけた。


「ああ、きみたち、来てたんだね。着替えて準備してね」


日置がそう言うと「なんでこの子らはいいんですか」と別の生徒が訊いた。


「この子たち、合格したから」

「え・・」

「昨日、500回やったんだよ」

「ほんまなん・・?」


と杉裏に訊いた。


「うん、ほんま」

「正確に言うと、500回以上だよ」

「そ・・そうですか・・」


そして一人、また一人と減っていった。

残ったのは、外間、井ノ下、蒲内だけだった。


「あんたら、なにしに来たんや」


小島が三人に迫った。


「私らかて、卓球部に戻る権利はあるはずや」


外間が言い返した。


「どうしたの?」


日置が小島に訊いた。


「この子ら、元卓球部やったんです」

「へぇ」

「でも、すぐに辞めたんです」

「きみたちさ、戻るって本気?」


日置は外間に訊ねた。


「本気です!」


外間はもはや、日置目当てというより、小島たちが特別扱いされていることに拘った。


「な、あんたらも、そやろ」


外間が井ノ下と蒲内に訊いた。


「う・・うん、そらもう」

「私は戻りたいわあ~」


蒲内は日置を見つめて言った。


「あんたら、えらい調子のええこと言うやないか」


小島は黙っていなかった。


「小島さん」


日置が小島を呼んだ。


「なんですか」

「僕は、この子たちの入部を認めるよ」

「え・・なに言ってるんですか!」

「みんな帰っちゃったのに、この子たちは残った。しかも戻りたいと言った」

「だからなんなんですか!」

「当然、きみたちと同じメニューをこなしてもらうよ」


杉裏も岩水も唖然としていた。


「僕、言ったよね。僕の方針に逆らうんだったら、コーチは辞めるって」

「先生・・それって脅迫してるんですか」

「まさか。僕の条件をきみたちは納得したよね。だからそう言ってるだけだよ」


小島、岩水、杉裏と、外間、井ノ下は、互いを睨むように相手を見ていた。

けれども蒲内だけは、ニコニコして日置を見つめていた。

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