13 白の体操服
各コートに割り当てられた試合には、順番があった。
トーナメント表に書かれてある、上部の方から進められることになっている。
各ブロックごとに台が割り当てられ、全部で16ブロック。
したがって、台も16台用意されていた。
その中で杉裏は8ブロックの第8コート。
岩水は13ブロックの13コート、といった具合だ。
先に試合をするのは13ブロックの中で、トップに書かれていた岩水対城中だ。
一年生大会ということもあり、全ての選手は抽選で決められ、シードは無かった。
つまり、強豪校云々は関係ないのだ。
杉裏たちは13コートへ急いだ。
岩水の相手はジャージを脱ぎ、既にコートの前で素振りをしていた。
「つ・・強そう・・」
岩水は相手を見て、ビビッていた。
「体操服・・私らだけや・・」
杉裏は全体を見回し、みな、ユニフォームを着ていることに唖然としていた。
「おい、杉裏」
小島が杉裏を呼んだ。
「なに・・」
「着てるもんで強さが決まるんか」
「・・・」
「気にしてもしゃあない」
「うん・・」
「ちょっと」
そこで桜西高校の選手の一人が、杉裏たちのところへやって来た。
「なに」
小島が答えた。
「審判のことやけど」
「審判?」
「どっちかが出さなアカンでしょ」
そう言って女子は手を出していた。
「え・・なにしてんの」
「ジャンケンやん」
「は?」
「負けた方が審判するんやんか」
審判といわれても、小島たちは全く知らなかった。
ルールブックを読んだとはいえ、用語の意味もわからず、覚えられるはずもなかったのだ。
「ごめん、私ら審判できひんわ」
「え・・そうなん・・?」
「すみません、やってくれませんか」
女子は「審判できない」といった小島の言葉を信じた。
というのも、杉裏と岩水は体操服を着ているのだ。
それだけで、経験がないと悟ったのだ。
「わかった」
女子はそう言って戻った。
「はよして下さい」
コートの真ん中、つまりネットの場所に立った桜西の選手が、岩水にコートに着くよう促した。
岩水は死にそうな顔をして、ラケットを手にした。
「美紀、頑張って!」
杉裏は自分の不安をかき消すように、岩水を励ました。
「岩水~しっかりやれ」
小島は岩水の背中を押した。
そして岩水はコートに着いた。
「ああ~ちょっときみ」
そこで桜西高校の監督が、岩水に声をかけた。
「その服の色、違反やけど」
「え・・」
そう、ボールと同色のユニフォームを着ることは、違反になるのだ。
「違反・・」
岩水は振り向いて杉裏たちを見た。
「あの・・」
そこで小島が駆け寄り、監督に言った。
「これしか持ってないんです」
「うーん、そう言われてもなあ」
「なんとか、やらせてもらえませんか」
「それに、ゼッケンも着けてないし」
そう、選手たちの背中には、校名と名前が書かれたゼッケンが着けられていた。
「それも・・ないんです」
「違反ばっかりか」
「すみません」
「そんなんで、よく出ようと思ったな」
監督はバカにしたように笑った。
小島はそう言われ、もっと勉強しておくべきだったと反省した。
「本部に訊いて来るわ」
監督が言った。
「おい、不戦勝の可能性があるけど、アップしとけよ」
監督は城中にそう言った。
「せっかく来たのに、不戦勝やなんて、酷いんとちゃいますか」
小島が監督を引き止めた。
「違反は違反や」
「そんな・・」
「というか、きみらの監督は?」
「私です」
「ふーん」
「どうしたのですか」
そこに、なかなかゲームが始まらないことを気にかけ、若い男性が声をかけてきた。
「この子、服も白だし、ゼッケンも着けてないし」
「ああ・・」
男性は岩水を見た。
「これ、不戦とちゃいますか」
「ねぇ、きみ」
男性が岩水に声をかけた。
「は、はい・・」
「知らなかったの?」
「はい・・すみません・・」
「そっか」
そこで男性は監督を見て「一年生大会ですし、大目に見てやってくださいませんか」と言った。
「なに大会であろうと、違反は違反やしな」
「そんな堅いこと言わずに。せっかくこうやって参加してるんですし」
「それで、うちが負けたら責任とってくれるんですか」
「桜西さんは、伝統がある学校じゃないですか。そう簡単に負けるはずがないでしょう」
「そう言われてもなあ・・」
「お願いします!」
小島は大きな声で頭を下げた。
「ほら、こう言ってますし」
「しゃあないな・・」
監督は渋々承諾した。
「きみ、お許しが出たんだから、精一杯頑張りなさい」
男性は岩水の肩をポンと叩いて、去って行った。
「あ、ありがとうございます」
岩水は礼を言って、改めてコートに着いた。
「3本練習」
審判がそう告げ、桜西の城中にボールを渡した。
試合前には、このように3本ラリーの練習が出来るのだ。
いきなりサーブを出された岩水は、当然ボールを見送ってしまった。
岩水は慌ててボールを拾いに行った。
「練習があるんや・・」
杉裏はポツリと呟いた。
台に戻った岩水は、城中にボールを投げた。
「え・・?」
城中は、当然サーブを送って来るものだと思っていたが、投げ返されたボールを造作もなくキャッチした。
城中は半笑いになりながら、サーブを送った。
岩水は空振りをし、またボールを拾いに行った。
そこで桜西の側から、笑い声が挙がっていた。
監督も、違反は杞憂だったとばかりに、バカにしたような表情を見せた。
やがて練習も終わり、「ジャンケンして」と審判が言った。
これは、サーブを選択するのか、コートを選択するのかのジャンケンだ。
岩水は言われるがままジャンケンをして負けた。
すると城中は「サーブ」と言った。
そして審判は岩水の顔を見た。
「な・・なんですか・・」
「コート、そこでええの?」
「え・・あ、はい・・」
そして「ラブオール」と審判が号令をかけた。
すると城中が「お願いします」と頭を下げて言った。
岩水も「お・・お願いします・・」と頭を下げた。
杉裏と小島は、今更ながら、必死になってルールブックを開く有様だった。




