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サーよし!  作者: たらふく
11/307

11 松本の魔法




「サーブ・・なあ、美紀、サーブどうする・・?」


一年生大会を明日に控えた土曜の午後、杉裏は、かなり焦っていた。


「もう、入れることだけに集中しよ」


台の向こうで岩水が言った。

ボールを手のひらに乗せた杉裏は、「うん」と小さく頷き、ボールを上げてラケットを振った。

あてることは出来たものの、台の端にあたって跳ね返ったり、ネットにひっかけたりで、岩水のコートには入らない。


「杉ちゃん、落ち着こ」

「う・・うん・・」


杉裏は何度も繰り返しやってみたが、一向に入る兆しすらなかった。


「どうやったら入るんやろ・・」

「私がやってみる」


続けて岩水は「ボール投げて」と言った。

岩水はボールを受け取ると、杉裏と同じように手のひらに乗せ、ラケットを振った。

けれどもタイミングを外し、空振りだ。

何度やっても同じことの繰り返しだった。


「あかんわ・・」


岩水も肩を落とした。


「どうする・・」

「どうするいうたって・・」

「棄権する・・?」

「えっ・・」

「だってさ・・恥かくだけやん・・」

「でも棄権やなんて、彩華が許さへんで・・」


二人は小島に聞こえないように、小声で話した。


「ちょっとトイレ行って来る」


小島は手にしていたノートを置き、立ち上がってトイレへ行った。

そこで杉裏と岩水は、台の真ん中まで寄った。


「私・・むりやと思う・・」


杉裏が言った。


「私かて、むりやわ・・」

「サーブは入らんし、きっと相手のサーブも取られへんで・・」

「そやな・・」


「杉裏さん」


そこで、松本がネットの外から声をかけてきた。


「松本さん、どしたん?」

「ちょっと入ってもいい?」

「ええけど・・」


杉裏はそう言って、バレー部の方に目を向けた。

するとバレー部は、休憩をとっていた。


「ごめん、余計なお世話かもしれないけど、なんか困ってるように見えたんやけど・・」


ネットの中へ入った松本は、そう言った。


「え・・」

「サーブのことやけど・・」

「あ・・うん、そうやねん」

「私ね、卓球のことはわからんけどね、バレーもそうやけど、リズムっていうんかな。それが大事やと思うのよ」

「リズム・・?」

「例えばね、ボールを上げるのが1だったら、落ちて来てラケットにあてるのが2」

「え・・」

「やってみて」

「う・・うん・・」


そして杉裏は言われた通りしたが、タイミングを外し空振りをした。


「えっとね、口で言いながらやってみて」

「うん・・わかった」


杉裏はボールを上げて「いち」、落ちて来てラケットを振る時に「に」と言ったら、ラケットにあたった。

しかも、今までとは違う手応えを杉裏は感じていた。


「あっ!」


杉裏は思わず松本を見た。


「ほ、ほな、台でやってみる!」


杉裏は慌てて台に着き、向こう側には岩水が着いた。


「いち、に」


するとボールは、ポコンポコンと音を立て、なんとかルール通りのサーブが出来たのだ。

もちろん、スピードは無いに等しいくらいの頼りないものではあったが、これが杉裏にとって初めてサーブを入れた瞬間だった。


「や・・やった・・やったあ~~~!」


杉裏はあまりの嬉しさに飛び上がっていた。


「やったね」


松本は拍手をしていた。


「松本さん!ありがとう、ほんまにありがとう!」

「ちょっと、杉ちゃん、私もやるから見てて」


ボールを拾った岩水が構えた。

何度か失敗したが、岩水も松本のアドバイス通り続けると、やっと成功した。


「やった~~~!」


岩水も飛び上がって大喜びしていた。


「よかったね」


松本は岩水にも拍手を送っていた。


「ほな、そろそろ休憩終わるから行くね」

「松本さん、ありがとう!」


二人は声を揃えて礼を言った。

松本はニッコリ微笑みながら、ネットから出た。


「よーーし!やるで、美紀!」

「あったりまえやん!」


そして二人は何度も同じ要領で、繰り返し続けた。

全て成功とはいかないまでも、二人は徐々にコツを掴みつつあった。


「ちょっと待って、美紀」

「なに?」

「一球ずつで交代やと、不効率やわ」

「え・・」

「まず、私がボール拾いやるから、美紀が続けてやるねん」

「ああ、そうやな!」

「そやな・・10球ずつ行こか!」

「了解!」


こうして二人は効率よく、互いに交代していた。


「えっ・・」


そこに、トイレから帰ってきた小島が、二人を見て仰天していた。


「あんたら・・どしたんや・・」


それもそのはず、さっきまで失敗ばかりし、肩を落としてしたにもかかわらず、活き活きとした表情もさることながら、なんとサーブが出来ていたのだ。

杉裏と岩水は、小島が戻って来たことにさえ、気がついてなかった。


「なにがあったんや・・」


小島は無意識に、独り言を呟いた。


「次は私やで~」


杉裏は岩水からボールを受け取った。


「行け~杉ちゃん」


ポコンポコン


「入った~」

「よーーし、はい、もっかい!」


岩水はボールを投げた。


「ええか、次はちょっと速いで!」


調子に乗った杉裏は、ラケットを強めに振った。

すると偶然にも、倍の速さで成功した。


「おおお!杉ちゃん、すごいやん~」

「わあ~~出来た~~!」


二人は呑気に喜んでいたが、あくまでも、まだ素人。

速いといっても、まだまだスピードはなく、成功したのもただの偶然に過ぎないのだ。


「あんたら、何があったんや」


小島が杉裏の傍へ寄った。


「ああっ!監督!見てくれたでありますか!」

「見たけど、何があったん」

「松本さんが教えてくれたんです!」

「え・・バレー部の?」

「そうであります!」


小島はそこで松本に目をやった。

松本はボール拾いに懸命だった。


「どんな魔法を使ったんや・・」

「いち、に、であります!」

「ちょっと、意味わからんのやけど」


そこで杉裏と岩水は、松本に受けたアドバイスの内容を話した。


「なるほどなあ・・リズムか」


小島はいたく感心していた。


「よーーし!サーブ練習!」


バレー部監督の、堤が言った。

すると松本たち一年生も、上級生に交じってサーブを打ち始めた。


「そーーれ!そーーれ!」


三人はその様子を見ていた。

杉裏は松本がボールを上げるタイミングで「いち」と言い、下りて来て打つタイミングで「に」と言った。


「ずっと同じや・・」


そこで杉裏は、松本が一定のリズムでボールを打っていることに気がついた。


「ほんまや・・」


岩水も同じことを感じていた。


「種目が違っても同じなんや。特に球技ってことでは同じやし、リズムとかタイミングって一緒なんやな」


小島が言った。


「よーーし、続けるで~~」


杉裏と岩水は、再びサーブ練習を開始した。

そして、いよいよ一年生大会を迎える日が来たのである。

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