表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才外科医、異世界に降り立ちぬ  作者: Dr.てんのすけ
7/9

⑦外科医と勇者

 ある日の夕暮れ、ネッター宅でのことであった。


「ドクター・サワダ。話がある」


 女勇者ハリソンが澤田にそう尋ねる。突然のことだったので少し驚きながらも澤田の視線がハリソンへと向く。ちょうど、ネッター宅の書類をまとめていたところだったのだ。澤田の手が止まる。対しハリソンの眼差しは、本気で澤田の目を向いているようだ。


「おう、どうした、すっかり元気になって」

「――本当にそうだ。心から礼を言う。あの傷の処置はサワダ、君じゃないと絶対にできないことだった。

……そこでドクター・サワダ、君を見込んで、頼みがあるんだ」

「? どうしたんだ突然改まって」


 ハリソンは、ちょうどその日のトレーニングの終わりを迎えていたので、疲れを少し見せつつもどことなく緊張した面持ちであった。対照的に、緊張した雰囲気のハリソンとは違い、澤田はいつも通りのリラックスした表情を見せる。医者の余裕というか、澤田自身の大人の余裕というか――彼の外見はこの世界では二十台前半という設定ではあるが。


「ドクター・サワダ。私と一緒に魔王討伐に協力してくれないか!」

「ま魔王!?」


 落ち着いていた澤田の表情が一変した。突然のハリソンからの言葉に動揺を隠しきれず、大きな声をあげてしまったのだ。


「そう、魔王だ。

そして、私は勇者だ。」

「ゆ勇者!?」


 額の辺りにビックリマークが見える漫画のような反応を見せ、澤田は持っていた書類を床に落としてしまう。

 その書類とは、この世界の成り立ち――魔物がどのように人間を支配し、今のこの世界に至ったのかが詳しく書かれた書物であった。


「そう、私は勇者ハリソン。この世界を託され、人間界に残された希望――レジェデンドの四人のうちの一人だ」

「レ、レジェデンド」

「そう、レジェデンド。ドクター・サワダ、レジェデンドは知っているか?」


 ハリソンが澤田を見ながらそう言う。


「し、知らないよ。なんだそれ、研修医のことか? あ、それはレジデントか」

「何を訳の分からないこと言ってるんだ。やれやれ、本当に何も知らないんだな。ネッターから聞いたぞ。ドクター・サワダはヨビコー島のローニン族とやらの末裔らしいな」

「げっ、なんでそのことを」


 まずいという表情をする澤田。ハリソンは既にネッターと密に関わっており、なんでも話す仲となっていた。さすがガールズ、その日のうちに起こった出来事や聞いた話は全て共有していた。


「いいか、レジェデンドというのはかつて人間を統治し、魔族をその手で葬った伝説の一族の血をもった存在のことだ。つまりは勇者の末裔。現在この世界にはその存在は4人しか残されていない」

「勇者の末裔……! ハリソンが……!」

「そう、そして私はこれから、魔王の討伐へと向かう」


 彼女が女勇者であると告げられた外科医・澤田雪則。異世界に来て早速始まった、RPGのような展開。不謹慎かもしれないが澤田はワクワクしていた。まさか生前の自分の記憶が、こんなところで役に立つことになろうとは、日々手術で多忙な彼は夢にも思ってもいなかった。

 そしてハリソンは、勇者討伐に向かう途中であった。あの大傷は、おそらくその道程で負ったものだろう。そしてその勇者を、通りすがりだった自分が救った。そしてこれは偶然なんかでは無く、なるべくしてなったことなのかもしれない。自分が勇者をこの手で救うために、この死後の世界に連れてこられたのかもしれないのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ