③医術の心得
「挿管チューブ」と言っただけで右手に現れた挿管チューブ。突然の出来事すぎて澤田はびっくりしてしまい、これがどうして自分の手の中にあるのか全く意味が分からなかった。
もしかしたら、自分が発した医療器具が、自分の手の中に現れるといったシステムだろうか。だとしたらとてつもなく便利なシステムだが、試しにこんなことを言ってみた。
「メス!」
すると、すぐさま左手にメスが現れた。しかも澤田が知っている最新のメスだ。
「もしかして……俺が生前生きていた世界から取り寄せているのか?
もしかしたらあのジジイ、結構気が利くじゃねぇか! これは便利だぞ」
そう、澤田が転生する前のあのふわふわした空間、そこにいた、ひげを生やした老人は自らを「神」と名乗っていたが、彼が澤田に与えたスキル「医術」が、まさに今起きている状況をそれたらしめているのだった。事態は一刻を争う状況、澤田は早速行動を移した。
「そうと決まればさっそく救急措置を行う!
喉頭鏡、シリンジ、18ゲージの針、リンゲル液、SpO2モニター、レントゲン……こんなにたくさん、いけるか?」
そういうと、澤田の近くに次々と医療器具が、澤田が言った通り、一つの漏れもなく現れた。
「おおぉ、思った以上にすごいな……。レントゲンも呼び出せるとかチートすぎるだろ……。こんだけあれば不自由しないわ」
周りにいた人々も、驚いた様子でその状況を目に焼き付けた。部屋の中はざわついている。
「あの……澤田……さん?
あなたは本当に外科医なんですか? もしそうだとしたら、何か、手伝えることはあるでしょうか……」
その場にいた村人Aが澤田に話しかける。
「そうですね……。
何か、医療の心得がある人はいませんか? 一人では、少し大変な手術になるかもしれません」
「そんな! 医療の心得なんてとんでもない……そもそも医を学ぶことなど!」
その場にいた人々は風船の空気が漏れるかのように暗く沈んでいった。
「そうですか…… では、みなさん今すぐにここから出て行ってください。患者は一刻を争う事態であり、感染すると危険です」
「感染? なんですかそれは……」
村人の返答に、澤田は驚いた顔でこの村の医療のレベルを悟った。
「いいから、出て行ってください!」
「! はい……」