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天才外科医、異世界に降り立ちぬ  作者: Dr.てんのすけ
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①まさかの医者が異世界に!

「バイタル、血圧百二十の九十、安定しています」

「了解、ではこれより、膵頭十二指腸切除術を始めます。メス」


 外科医、澤田雪則(さわだゆきのり)は天才である。麻酔科医のバイタル確認とともに、その術式をオペ室で述べると、早速始まったあざやかなメスさばき。そのメスの先端は、まさにオペ室でエチュードを奏でているかのよう。皮膚や結合組織を次々と切開し、一番最初に露出される臓器は、十二指腸である――。次々と切除される患部、軽やかにこなされる手術は、まさにゴッドハンドと呼ばれても過言ではないものである。オペ室の魔神とは、まさに彼のことだった。


 そんな澤田には患者の予約が殺到。オペは三ヶ月びっしりと予定が埋まっているのであった。


「よし、あとは縫合だけだ」


 難度が非常に高いとされる手術もまさに終盤にさしかかろうとしていたその時だった。


「うっ……!」


 澤田の胸部に異変が走る。

 オペ室の真ん中で、踊るように動いていた彼の腕が止まった。


「先生、いかがしましたか?」


 今までに感じたことの無い胸部の違和感――。と同時に、呼吸がどんどんと苦しくなってくる。顔には大量の汗をかき、手が震えてきた。意識は徐々に遠のいていき、目の前が真っ白になる。


「はぁ…… はぁ……」


 持っていた手術器具は床に落ち、かん高い金属音がオペ室に響き渡る。

 その音を追うように、ドンっ! と今度は澤田が顔面から床に倒れた。右頬は強打し、感じたことのない激痛が顔面を走る。


「先生! 大丈夫ですか?! 先生!」


 周りから聞こえてくる焦り声も、既に澤田には聞こえていなかった。

 

「はやく担架を持ってくるんだ! 教授が死んでしまう!」


 周囲にいた看護師、麻酔科医は、動揺した表情を見せるも、手術に入っていた第一助手が冷静に対応にあたろうとする。澤田の頸部を触れて、脈が無いことを確認。


「心臓マッサージを始める!!」


 状況は完全に緊迫していた。助手は澤田の胸を上に向け、規則正しいリズムで澤田の胸部を押す。周囲の医療スタッフたちも、すぐさま澤田に末梢静脈路(点滴ライン)を確保したり、電気ショックの準備をするなど、急ぎ救命活動を行った。


 しかし、あえなく数分後に死亡。天才のあっけない幕切れであった。医療の進歩した現代でも、救えない命はある。いくら天才の澤田でもそのことは重々承知であった。


---


「……聞こえるか?」

「……」

「……おーい、聞こえるかのぅ?!」

「……はっ?!」


 目を覚ますと、そこは見たことも無い小さな空間だった。白く、ふわふわした感覚が澤田を襲う。目の前には髭を生やしたふざけたジジイ。ジジイの右手には杖。夢の中のような、現実かも分からない幸せな世界。きっと夢を見ているのだろうか、しかし、この感覚はいつもベッドの上で見るあの感覚とは少し違う。やはり自分で意識を感じられることは夢とは相違した感覚であった。


「お主、あっけなかったのぅ。人はいつ死ぬか、わからんものだのぅ!」

「誰だじーさん? ここはどこだ?

 俺、確か手術してたはずじゃ……」

「ほーっほっほ! そう、お主は手術中に倒れたのヂャ。なぁに、心配することはない。お主の患者さんは他のスタッフが残りをやってくれての、無事に手術は成功したワイ」

「……! 思い出した、そういえば手術中に心臓が苦しくなって……」


 ちょうど何分前という感覚の出来事が、鮮明に思い出されてくる。呼吸が苦しくなって、あっというまに意識を失ったあの経験を。


「ほーっほっほ。実はお主は、肥大型心筋症だったのヂャ。突然心不全発作を起こすなど、よくあることヂャぞ。知っておろう」

「肥大型……心筋症」


 その病名は澤田が一番よくわかっていた。健康診断で、心臓に<心雑音>が聴取されるため、要精査と言われてはいたものの、忙しくてそれどころではなかった。


「そう、お主は死んだのヂャ」


 突然の死の宣告、というか、報告。いや、それよりも澤田は、目の前の老人の特徴的な語尾が気になっていた。


「はぁ? 死んだ? ばかやろー、俺はこうやって生きてるぞ」

「ほほほ。聞いたことないか? 【死後の世界】をな」

「し、死後の世界!」


 驚いたが本当にあった。医学的なことしか信用していない澤田には、非常に驚くべきことであった。


「そしてワシはこの世界の神。貴様をこのまま殺すには勿体ない。とある仕事をしてもらおうと思っての」

「仕事? ふざけんな、だったら元の世界に戻せ!」


 まだ死んだという実感がわかない澤田の語尾が荒くなる。


「ほーっほっほ! ここに来る者は皆そういうんヂャがの、死んでしまったものを生き返すことなど出来ぬ。死して元の世界に戻ったものは人類史上一人もおらぬノダ。そんなことお主が一番よくわかっておろう?」


 そういうと、老人は持っていた杖の先で床を突いた。


「なぁに、心配するでない。今からお主には転生をして、あることをしてもらう」

「ホァ?! 転生!?」

「そうヂャ。実は地球とは違うとある世界ではかくかくしかじかでな……」

「なんだよそれ! こ、これってもしかして、よくある異世界転生ってやつか!」


 いくら勉強とオペしかしてこなかった澤田でも、そのくらいは分かったようだ。


「ほーっほっほ! そうヂャ。

 そいでの、転生する際には何かユニークスキルを一つプレゼントするのヂャが……貴様にはこのユニークスキルをやろう」


 ユニークスキル:医術 を獲得しました


「それでは頑張ってくるのだぞー」

「え、ジジイ、ちょっとま」


 話がトントン拍子で進む。光が一気に身体中から溢れ出す!

 澤田は、少し若い見た目を手に入れ、異世界に転生した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] バルプロ酸は 静脈投与できる薬が日本ではありません。セルシンかミダゾラムあたりにしておくと自然だと思います。
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