新年早々、野球終われ
「あけましておめでとー」
駅前にて、晴れ着姿で彼氏と待ち合わせ。
ちょっとしたデートができるなんて、良いことだ。それなのに、彼はいつもみたいに愛想のない返事。
「おう……」
「冷たいなぁ、広嶋君!新年が始まったんだよ!元気に行こうよ!」
「もう4日も過ぎてんだろ?ミムラはまだ正月気分かよ」
「うん!!年末年始はいいよね!!休みばっかり!」
作者は仕事柄、年末年始は凄く嫌です!!
「俺は好きじゃねぇーよ」
「なんで?」
「特別だからってよ、色んな番組、色んな企画やりやがって」
「それが楽しいじゃん!」
「俺はつまらん。野球だって、やってねぇしよ」
広嶋健吾は野球好きである。この年末年始というか、冬の時期はあまり好きじゃない。野球があんまりないからである。
「日曜日に夢見る少年野球に殴りこんで、非情な現実を叩き込む事もできねぇ」
「サイテーだよ、広嶋くん。子供の未来は大事にだよ!」
「野球ばかりじゃいけないという事を俺は教えているつもりだ」
不定期ではあるが。色んな少年野球チームに助っ人コーチとして、遊んでいるとは話を聞いている。別の仕事を持っているけれど、大好きな野球と関わっている時の彼は、結構良い顔をするんだ。こっちにも向けて欲しいくらいだ。
「とりあえず、神社でおみくじしよー!」
「お前は大吉しか引かないだろ?」
「それでもゲン担ぎ!大吉出たら嬉しいじゃん!ね?」
「……馬鹿だな、お前。分かってることなんか、つまんねぇーぞ」
電車でプラプラと移動。
ちょっとお喋りには悪いかもしれないが、
「あ、川原で凧揚げしてるね。のんちゃんもあたしと一緒に今年したんだよー」
「川原で遊ぶ奴がいると、野球もできやしねぇ。グラウンドも開いてないしな」
「お昼、何が食べたい?」
「……お前の手料理じゃなければいい」
「御節は食べた?あたしは食べ過ぎちゃったくらいなんだけど……」
「あ、寿司にしね?寿司が食いたいな。俺、ラーメンとかうどんとか。温かい物ばっかりでさ」
「じゃあ、お寿司!うん!」
「!……おっ。人的補償がようやく決まったか?」
「はい?」
「いや、野球の話しだ。やれねぇとはいえ、こーいう駆け引きを見るのも面白いんだよ」
「……………」
あたしの事、あんまり意識してくれない!!野球ばっかりっ!
新年早々、野球終われ!
もう!!2人でデートだって言うのに!!
目的の駅に到着し、ちょいぷんすか気味に降りるミムラであったが。
「わっ!?」
完全にドジって、ホーム付近で転びそうになる。
そーいうところをうんざりした表情になりながらも、彼は掴んでくれて
「動きにくい靴履くな。俺はそーいうところより、お前の心配をしている」
「……むぅ……ありがと」
プラマイ0にしてくれる。
駅から歩いて15分ってところであるが、
「タクシー乗ってこうぜ」
「心配しすぎ!」
「お前の歩きに合わせるのが大変なんだよ。どこで転ぶかわかりゃしない」
「もー」
無視し続けると思えば。少しでも心配したら、自分が納得するぐらいまで過保護。
どーかこーいう彼のまま。あたしを見て欲しい。
ピッ
「やった!大吉!いえーい!広嶋くん見てー!」
「お前は見慣れてるだろうが。去年も引いてたろ」
金運◎。健康運◎。恋愛運○。
『少し恋愛運が悪い大吉。お気に入りの子に猛アタックできるけれど、その子には大事な事があって進展し辛いよ。もっと近づくなら、その子のことを良く知ろう!』
超具体的なアドバイス。言われりゃ速攻、沖ミムラです!
「広嶋君!あたしと一緒に野球をしない!!」
たぶん、大事な事って野球だよね!?
あたしの知らない彼女とか居ないよね!?いたらショックだよ!
「…………お前、あと。7人は人数を用意しろ。面白くなんねぇーだろ」
「!!は、ハーレムでも作る気なの!?広嶋君!!」
ドゴオオォォッ
金運×。健康運◎。恋愛運◎。
『人の心で弄び過ぎて、痛い目に合うでしょう。なるべく、人には優しく接しましょう』
「なんで俺は殴られるんだ……」
今年のおみくじでも、俺達は平常運転のようだ。