夏よ。火に集う虫よ。
どうぞ。
夏の夜。蛾はそこかしこを飛び回り、最後はクルクル回りながら焚き火に突っ込んで自殺する。そんな風景を友人二人と一緒に眺めていた。
「なあ、本当にいいのかよ。まずくねえか?」
不安げな顔で俺の右側に立っているデブーーカンダーーが尋ねてきた。
「もうやっちまったんだ。後戻りなんて出来やしねえさ」
俺が口を開く前に俺の左隣ーーナツメーーが答えた。
「ああ、その通りだ。もう戻れやしないさ」
俺はカンダの質問に答えるように、自分で自分に言い聞かせるかのように呟いた。俺たち3人が囲んでいる赫赫とした炎をみつめながら。
焚き火はパチパチと音を立てながら燃えている。煙はそこまで多くなく、宵闇のぬるま湯みたいに肌にまとわりつく大気にアイスクリームのように溶けて消えていく。
「ちょっと火が弱くなったな」
燃料が無事空に還るにつれて勢いが弱くなってきた火を見て、俺はナツメに燃料を足すように指示を出した。
「……あいよ」
短い返事と共に彼は無造作に掴んだ紙束を火の中へと放り入れた。
ボウッ、と、炎の勢いが蘇る。
「はあ……学校でなんで言い訳すりゃあいいんだ……」
ナツメはぼやく。
「上手に焼けましたって言えば?」
いかにも無責任な感じでカンダは返事をした。
時刻は午後九時、夏休み最終日に俺たちは終わる気配のない宿題を火にくべていた。
蛾が、また一匹飛んできて火に飛び込んだ。
ありがとうございました。