僕の名は。
まあ、何ということでしょう。
勇者もとい、僕の目の前には魔王がいるではありませんか。
この状況を一言で表すなら、
「絶対絶命」
です。
おやおや、僕はいつの間にか右手に何か持っているようだ。
魔王に向けている視線を利き手に動かしてみた。
ワ~オ、剣だ。
たぶん勇者の剣とかいうやつだよ。
だってそれっぽ形してるもん。
勇者が伝説っぽい剣をもって魔王の前に立つ。
物語のラストの展開じゃん。
今の僕の場合、序盤じゃん。
物語の序盤から僕の人生終盤じゃん。
終盤=終わり=DETH
これ、あかんやつ。
誰か助けて。
「どうした勇者よ?」
魔王が僕に語りかけてくる。
「全面的に降伏します。命だけは助けてください」
魔王vs勇者(僕)
どっちが勝つか?
魔王だね。
絶対魔王だね。
賭けてもいい。
死にたくない。
だから僕は速攻で剣を後方に力の限りブン投げて、魔王に土下座しながら命乞いをした。
「いやいや、殺したりなどせんよ」
魔王から、いや魔王様から予想外の一言が飛んできた。
「むしろ、助けてもらいたいのはこちらの方なのだ」
ん?何がどうなっているの?
勇者を殺さない?
そんでもって、助けてくれ?
どゆこと?
「理由は後で話そう。それよりもまずは互いに自己紹介をしようではないか」
今僕の頭の中はちょっとしたパニックです。
それでも何とか落ち着いてきた僕の脳は「自己紹介をしようではないか」という言葉を辛うじて聞き取れた。
「私の名前は魔王アーチ。アーチ・ルオ・カルーソーである」
初対面の相手とのコミュニケーションの第一歩「自己紹介」
一歩目が肝心、一歩目が肝心
僕は心の中でそう何度もつぶやいた。
「僕の名前は・・・」
僕は自分を落ち着けるために一呼吸おいて名乗った。
「僕の名前は花御堂天元明王丸義経公命武です」
何とか噛まずに言い切った。
「名前長っげ」
魔王アーチは見妙な顔をして僕をみていた。