負けられない戦い
コーラルを襲ったライオンと戦うことになりました、、成熟したオスに勝てるのでしょうか、
オレの足は、何が起きているのかを頭が確認する前に駆け出していた。
あの人間が、オレ以外のライオンと向き合っているのが見えたのだ。しかも、あの人間は棒切れを握ったまま震えることしかできていない。
ライオンはじりじりと人間に寄っている。
助けなければ。
間に合ってくれ、そう思って茂みから飛び出したオレは、思いっきり人間の体に当て身をした。
枯れ枝のような人間の細い体は、太い木の幹にぶつかり、うめき声を上げて動かない。
食われるよりマシだろう。痛い思いをさせたのは後で謝ればいい。
だけど、まずは目の前の敵を倒さないことにはどうにもならない。
「邪魔をするか、坊主」
ぐるぐると唸り、血走った目で俺を睨む目の前のライオンに怖さを感じないといえば嘘だ。
「お前は…そうか、貴様が魔女の飼い猫か」
ライオンはフン、と馬鹿にしたように笑った。
「俺は猫じゃない、ライオンだ!」
「人に飼われ、牙も爪も本当の使い方を知らないものをライオンとは言わない」
オレが人と会話出来るのは、人に育てられたからだ。
オレの母親は、オレを産んでからすぐに空の向こうへ旅立ってしまった。
残された俺を通りがかった魔女のオババが育ててくれた。
そのオババも、もう空の向こうへ行ってしまった。
だからそれまでオババの家で暮らしてきたオレは、オレ以外の本物のライオンを見たことがない。
しかも何倍も大きい大人のライオンを見たのは初めてだった。
圧倒的な迫力に、俺の額から一筋の冷たい汗が流れた。
「そ、そこのウサギを食えばいいだろ。なにも人間なんかくわなくたって」
「そんな小さなウサギ一羽でワシの腹を満たせると思うか?」
思わないけど、あの人間だけは食べて欲しくない。
「この人間はオレのだ!食べるなら別の人間にしてくれ」
「お前の?坊主、教えてやろう。こういう場合は年長者に獲物を譲るものだ」
「…断る」
じりじりと間合いを詰めてくる。
オレは相手の目をじっと見て、気圧されないように四肢に力を込めた。
「ならばお前を噛み殺してからその人間をいただくしかないな」
ニヤリと笑ったライオンの口の端から鋭い牙が見えた。
多くの動物を仕留めた鋭い牙と、爪だ。
それから俺のそれとは桁違いの力強さを見せつけるたてがみ。
正直、勝てる気がしない。
「怯えているのか、坊主」
「違う!」
だけどオレはあの人間を守りたい。絶対に負けるわけにはいかない。
じりじりと目に見えない何かが俺の心に圧力をかけてくる。俺はそれをふりはらおうと、頭を振った。
「震えているではないか。だが、怖いのは今だけだ。すぐに楽にしてやる」
そのライオンはぐっと足を踏ん張り、跳躍してきた。だけどそれを避けるわけにはいかない。俺の背後にはあの人間がいる。
あの人間に、お前を一歩たりとも近づけるものか。
オレは後ろ足を踏ん張り、爪を立てた前足を振り上げた。
そして、飛びかかってきたライオンの顔をめがけて思いっきり振り下ろした。
ーーー
「ん…痛た…」
私は一体どうしたのでしょう。
背中に思い痛みを感じて顔を上げると、そこには力なく横たわる一頭のライオンの姿がありました。
「まさか…」
私は慌てて横たわるライオンに駆け寄りました。
たてがみは短く、また、以前巻いた包帯や傷もみつけることはできませんでした。
「よかった、気がついたのか!」
「あなたは……」
背後から嬉しそうな声がして振り向くと、目を輝かせたライオンが茂みから現れました。
まだ幼さを残すそのライオンの足には、私が巻いた包帯がありました。
「これは、一体…」
目の前に横たわるライオンと、安堵の表情を浮かべる小柄なライオン。
二頭のライオンを見て、そして思い出しました。
罠を説いているときに、この血まみれで横たわるライオンに襲われたということを。
あの時の恐怖が今更ながら思い出され、全身が凍え、力が抜けていくのを感じました。
その場にへたり込んでしまった私を慰めるように、ライオンは傍に歩み寄り、鼻をよせてきました。
触れるか触れないかの距離で感じるその温もりに、私は次第に落ち着きを取り戻していくことができました。
落ち着くと、ライオンが傷だらけなのに気がつきました。
鋭い爪でえぐらたのか、前足や顔にも無数の引っかき傷のようなものがみえたのです。
「すぐに手当を」
私はいつも持ち歩いている道具で彼を手当しました。
「あなたが、私を?」
「あぁ、おまえを守ることが出来てよかった」
私を襲った獰猛なライオンとは違う、このライオンが優しい瞳をほっとしたように細めたのがわかりました。
けれどどうしたことでしょうか。
ライオンは途端に表情をくもらせ、俯いてしまったのです。
「オレはお前に痛い思いをさせた挙句、気絶させてしまった。すまない、怒っているか?」
「いえ……」
「そうか。よかった」
小さな声で答え、首を振るとホッとしたようなライオンの声がして、私の胸はますます苦しくなりました。
私を助けるためにしたことなのに、なんで怒りを覚えられるでしょう。
自身は傷だらけになって、それでも私を心配をしてくれている。
私は、それまで触れたことのない、間近にあるライオンの顔に触れてみました。
その顔を両手で包み、それから鼻筋を指でたどると、くすぐったいというように首を振るライオン。
けれども私は構わず今度は首をなでました。
その周りの生えかけのたてがみにゆびをからませると、ふかふかの毛が優しくて、いつまでも触れていたい。
そんな気持ちにさせられて、つい…。
「ふにゃあ…気持ちいい…もっと、もっとぉ………じゃねぇ、いつまで触っているんだ!」
抵抗しないのをいいことに、あちこちを撫で回してしまいました。
少し名残惜しかったですが、言われた通りに毛皮から指を離しました。
手を離すと、ライオンはそそくさと私から距離をとってしまいた。
残念。
無事勝てたようで何よりです。
そもそもライオンがいるのは草原で、森じゃないというツッコミは…なしでお願いします笑
というのは冗談で、ライオンはオババに拾われて森で暮らしていました。
コーラルを襲ったライオンはお腹が空いて森まで入ってきちゃったって設定です。




