閑話休題、ガウェイン・ルーカス・サー・ウェインについて
ガウェイン・ルーカス・サー・ウェインは、若手だが5才から子役としてデビューしており、その端正な美貌と甘い声、性格も優しく、温厚でファンが多い。
その上、演技も上手く、家は名家のウェイン侯爵家の嫡男で跡取りでもある。
父のガウェインは、本人は至って真っ直ぐで、嘘が嫌い、都会より田舎がいいと言っていたのだが、いつの間にか政治家になり、舌戦が面白いと楽しんでいる。
しかし、ガウェインは都会的な人間とは無縁で、パパラッチが追いかけても、田舎の若者スタイルで登場し、
「今日は羊を放しに行くんだ。ごめんね。また」
とか、
「これからウサギ狩りだよ。後で、さばいてくれるんならいてくれる?それと僕の苦手な血のソーセージ食べてくれる人‼」
と言う感じで至ってごく普通の青年。
それなのに、映画やテレビドラマの中では、優雅で洗練された当たり役とも言われたランスロットを熱演し、上品な王子の役も難なくこなす。
そして、ファンを大切にして、サインは当然だったりする。
その上映画で共演する俳優とも仲が良く、その上、サインをねだるのだと言う。
一度、ある俳優が、
「何で、サインを二つも欲しがるんだい?」
と聞くと、
「一つは、僕の部屋に飾って、貴方と共演した事に感謝と、また共演したいとお願いもあるんです。そしてもう一つは、僕の可愛いアンジュに」
「アンジュ?恋人かな?」
「いえ、叔父なんです。同じ年なので仲が良くて、良くアンジュの方からも沢山プレゼントを贈って貰うので、アンジュが前に見た映画で、貴方がとても重要な役をされていたシーンに感動していたんですよ。それで」
ニッコリと返す。
その当人は、実はさほど有名な俳優ではなく、端役が多かったのだが、その言葉を聞いてすぐに、あるドラマの主役をサポートする補佐役として出ることができた。
本人は信じられず、そのドラマのプロデューサーに聞いた所、
「あの映画の君の演技に感動したんだ。この役は、君しかいないと思ったんだよ。よろしく‼」
と返され、パパラッチが彼を追いかけるようになると、
「ガウェインとその天使のお陰だよ‼特に、天使にキスを贈りたいね‼」
と返し、ガウェインは、
「いえ、彼の真摯な演技が認められたんだと思います。僕は、僕とアンジュは彼のファンなんです」
と答えた。
そう言うことが多く、ガウェインは芸歴を重ねても人に丁寧に対応し、微笑みかける。
そして、日本人のファンには堪らないのが、日本語がペラペラであること。
イントネーションはのんびりとした、田舎の方言か、京言葉に近い、しかも通訳無しでしゃべれるのである。
『あ、うん。僕はアンジュにね?いけんよ〜?もっと標準語お喋りや〜って言われるけど、教えてくれるアンジュが方言だもん。いけんよね~?それに、方言の方が優しいよ。皆と一緒。やから、やめんよ~』
と、にっこり笑う、そのギャップが余計にファンにはたまらないのだが、
『アンジュって恋人ですか~?』
に、よろけた振りをして、
『えぇぇ?違うよ違うよ~。僕の家族の優しい天使。可愛いんだよ。アンジュ~?見てる~?』
テレビ画面からニッコリと笑う甥に、穐斗は、
『お母さん……アンジュ……やだ』
『いいじゃないの』
『フユー‼大好きだよ~‼今度、蚤の市行こうね~‼』
『キャァァァ‼蚤の市、蚤の市‼行きたいわぁぁ‼』
『伯父さん、伯母さん‼遊びに行くね~‼』
と言うテレビの声と同時に、ガラッと障子が開き、
『……あぁぁ……緊張した、疲れた、おばちゃん。ごめんなさい。御茶下さい……』
くたびれファッションのウェインはぐったりする。
『そんなに疲れるなら、やめたらいいのに……』
『折角来て下さってるのに、サービスと言うよりもお礼……』
『はいウェイン、御茶と蒸しパン』
晴海の声に、
『わぁぁ~‼ありがとう。おばちゃん‼頂きます‼』
『うまそうに食べるノォ?旨いもん食べとるやろに』
『いや、おじちゃん。イングランドはヨーロッパの中でも、食文化は余り発展してないから。日本みたいに、ご飯とみそ汁、納豆、漬け物、煮付けに魚の塩焼きとか、それが当たり前って言うのが、フィッシュアンドチップス‼』
『フィッシュは魚やろ?』
『いや、おじちゃん知っとるよな?白身魚のフライとお菓子のポテトじゃなくて、厚切りのジャガイモをあげてるほくほくの……あれが、ロンドンの当たり前のおつまみ程度の食事だよ。それが昼として、朝はオートミールって言って甘い麦がゆ。夜は豪勢になるけど、味付けが日本のような感じじゃなくて……日本は素朴だけど昆布やいりこ、大根や椎茸干して、それを戻しただしとかも料理に使うでしょ?で、その時に応じて造る。でも、シチューとかスープにサラダに小さい肉の塊を、チマチマ切っていく……あれが辛いんだ~‼肉筋っぽくて美味しくないし‼こっちの料理の方が絶対にミシュラン星つけてって頼みたいよ‼あぁ、蒸しパン美味しい‼』
幸せそうに食べる。
『あ、穐斗‼ホラ!穐斗のファンだったあの映画の主演の……』
『えぇぇ‼貰えたの‼いいの?いいの?』
『ついでに、映画で実際に使用したマントと杖と、眼鏡も貰った』
『えぇぇぇ‼』
『で、あの、同じクラスの女の子役の子に、共演の機会があったから、テディベア贈ったら、代わりにはい』
荷物の中から差し出す。
『こ、これってチェス?』
『そう。登場人物のサインつき。アンジュにって』
『わぁぁぁ‼ありがとう‼』
後日、ウェインからサインをくれた人々に、日本の光景の絵はがきにお礼状を贈ったのだった。
時は巡り、
『蛍?これは?』
『サイン‼ウェインが贈ってくれたの‼えっとね、ホラ!あの俳優さん‼』
「……家宝やな」
祐也は呟いたのだった。




