閑話休題、紫野さんはマーガレットを連れて帰るそうです。
テレビの中で啖呵を切った息子に、一旦京都に戻っていた櫻子は手を叩いた。
「よう言いました‼流石、あてとだんはんの子だす‼あ。でも、困りましたわぁ……」
「どうしたんや?」
「だんはん‼どないしまひょ‼あて、英語苦手ですのや。……さきはんに可愛い嫁‼話せなんで泣きはらしましたら……あぁ……」
「その前に……さきが、結婚するていわなんだら、どうするんや?」
嵐山の一言に、
「あてとだんはんの子だす‼幾ら、話すんが億劫だの言い訳しても、逃げは許しまへんえ?じゃぁ、マーガレットはんに似合うべべを……」
フンフンと嬉しそうな妻に、
「……まぁ、かめへんやろ。あても英語苦手や……習いにいこか……」
伝統文化よりも、子供優先の夫婦である。
「貴方の家と言われましたが、貴方は⁉」
次々と、繰り返される質問に、紫野は遠い目をする。
いつもは何倍もしゃべる、双子の弟はどこに行った。
こういう時にいないのか……しゃべるの億劫なのに……。
視線を動かすと、祐也が穐斗の肩を抱いて近づく。
「すみません。詳しい話は私から。私は祐也・安部。先日の事件の被害者です。この方は私の大学時代の先輩のお兄さんで、紫野・松尾。京都の老舗菓子舗『まつのお』の跡取りです。本当は、紫野さんは事件の後に、どうなったのかと心配してきてくれたのです」
「先日の……と言うと、あの事件ですね?」
「そうです。私は日本での事件の被害者でもあり、友人のガウェインに招待され短期留学で来ました。こちらの荘園の生活などを勉強していたのです。それと……親友の穐斗・清水の原因不明の病の事です」
「そう言えば、その少年は……」
祐也は躊躇い告げる。
「日本から、連絡がありました。Changelingで行方不明になったと。私たちは、度々アルテミス卿が穐斗を追い回していたので、おかしいと思い、ウェインとガラハッド卿、そして後二人でアルテミス卿の屋敷に乗り込みました。すると、信じられないでしょうが、この季節なのに屋敷には花が満開、そして、fairyが飛び回り、アルテミス卿と、美しい女性たちを侍らせていた男がいました」
「fairy?」
失笑する人々に、穐斗が手を差し伸べる。
そこにはクークーと眠るブロンズ姫。
3センチもない程の小さな妖精は、薄い透ける羽根と、花びらで作ったワンピースを着ている。
「こ、これは‼」
「友好的なfairyです。他のは襲いかかりました。そして、そこには穐斗がいて、対峙していました。『僕は貴方を父とは思わない‼けれど、姉妹をChangelingや、そのまま妖精に渡すと言うのはどう言うことだ』と。アルテミス卿は快楽と遊興の為に、自分が何人もの女性に生ませた子供を妖精に売っていたのです。その売られた子供は妖精の世界で成長し、人と妖精の違いに苦しみ、心を病んでいったそうです。穐斗は、自分の双子の妹も売られていたことに愕然として、自分が身代わりになるから姉妹を返せと‼」
紫野に促され、隠れていた少女が、
「私はマーガレット。日本の名前は夏樹……」
「はぁ‼日本のタレント、MEG……」
「違う‼もっとド派手で」
「こんなに清楚じゃない‼」
「あれは、Changelingの妖精でした。こちらが本当のマーガレットです。本名は夏樹。他に10人程いました。でも、『もっといるはずだ‼返せ‼』と……それで、必死に止めたのですが……残りの姉妹をメーデーの日に戻すことを約束して……男は穐斗を……」
「そちらの女性は?」
「穐斗の双子の妹のアンジュです」
クリクリと大きな瞳の明るい金茶色の美少女が、よたよたとよろめく。
「大丈夫か?」
ひょいっと抱き上げる祐也にしがみつく姿に、騎士と姫君を連想するものもあり……。
「そ、そちらのアンジュさんは……」
「日本の、お母さんの元に連れて帰ります。マーガレットさんもです。他の姉妹は、こちらのガラハッド卿の奥方の姉妹です。こちらでお願いすることになると思います。それよりも、お願いがあります」
祐也は周囲を見回す。
「妖精がアルテミス卿と交渉したと言うのは……もう一つの側面があると言っていました。妖精の世界でも異変が起きているのだと。こちらの世界での歪みがあちらにも影響を与え、子供が生まれない、妖精が増えない減っていく……そうなっているようです」
「どういう事です?」
「調べました。『十分の一の税』ご存じでしょうか?」
「……?」
首を傾げるパパラッチに、大袈裟にため息をつき、
「日本人の私が知っているのに……昔、領主に税金を納めた後、心ばかりの穀物を教会に届ける……その事です。不勉強ではありませんか?で、昔の本やある日記に記載されていました。アイルランドではChangelingは美しい女性が多く、連れ去られた女性は妖精の子供の乳母、もしくは妖精の妻にされたと。で、ウェールズ地方では、子供が取り換えられ、それは体の弱った妖精、トロールが。ある時、アルテミス卿の先祖にアイルランドの女性を妻に迎えた人がいました。その人は当初約束の期日よりも大幅に遅れてだった為、ヤキモキしていたとか。すると、女性はビクビクと怯えていたそうです」
「怯えていた?」
「えぇ。elf、fairyと言った存在に……しばらくして、男の子が生まれた時に、その子供はChangelingに。当主は泣き伏す奥方に聞くと、自分がChangelingで連れ去られ、でも『夫になる人がいる。その人以外には結婚しない』と妖精との結婚を拒んだこと、すると、解放された代わりに『男の子が生まれたら。貰いに行く』と言われていたと……。で、あれこれ手をつくし取り戻した時には、息子は成長しelfの妻とハーフelfの子供がいて……それから男児が生まれたら、女の子として育てる事となったようです」
祐也は、続ける。
「先程の『十分の一の税』ですが、伝説の中には妖精の世界にもあり、毎年、地獄に妖精の子供たちを送らなければならないそうです。自分の子供を地獄に送りたくない親が人間の子とChangelingして、送ることもあったと記載されていました。しかし、不思議なんですよね。妖精と言うのはかなり昔から信じられていた存在で、ガリア戦記でローマ軍がイングランドに侵攻して、ドルイド信仰等も妖精などと同じだったはずなのに……その後入ってきたキリスト教の地獄にと言うのも……それに、アーサー王伝説も穐斗が……」
友人の名前に詰まったのか俯く。
ウェインが進み出て、
「すみません。祖父の家の事ですが、祖父との間に子供を持った方の問題にもなります。ですので、今は、戻っているこの二人を含め10人程……そして、メーデーの頃に残りの叔母たちが戻ってきます。私は祖父の愚行を許しませんし、厳しく断罪するつもりです。そして、父の息子として恥じぬ生き方を。ですが、まずご存じの通り、心を病んでいった叔母たちが休める環境を望みます。そして誠実な皆さんにお願いします。私や家族は、弟と袂を別ちました。もし今後、彼が何かを起こしたとしても、私達は御答えしませんし、関わりがありません。私たちは、祖父の行った愚行で苦しむ叔母を守る為に戦うつもりです。私はガウェイン。そして、ランスロットを演ずる者として生きます‼そして、生きることで忘れないことを……」
ウェインの宣言は世界中に広まり、ウェインの人気が上昇し、前作の再公開、次作の公開を待ち望むファンが増えたのだった。




