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閑話休題、紫野は、実は視力が悪く、コンタクトレンズです。

 紫野むらさきのは、妖精と言ったたぐいは良くわからないものの、八百万やおよろずの神さんはいるというのは、いると信じているが、


『……人間はんて言うより、ほんまに妖精はんみたいなお人やな……』


と呟いた。

 表情が薄いと言うよりも欠けている感じである。


「初めまして。松尾紫野まつのおむらさきの言います」

風遊ふゆさんと結婚する醍醐だいごのお兄さんです」


 日向ひなたの声に、


「『松尾まつのお』って言うと、京都の松尾大社と和菓子のお店の名前と一緒ね‼」

「良くご存じで。私は次の跡取りなんですよ。まだまだ修行中ですが」


ヴィヴィアンの言葉に答える。


「日本のテディベアのイベントに何回か行ったことがあるの。で、友人に何回か連れていって貰ったわ。本当に予約と常連さん以外はお断りだって。でも、解るわ……冷たいんじゃなくて、手が回らないんでしょうね。あれだけ繊細で美しいだけじゃなくて口に入れてフワッと消えていくんですもの。和菓子は本当に見て口にして、あぁと感動するものだと思うわ」

「テディベアのイベント……」


 醍醐が、風遊はテディベアオタクと言っていたが、母が実家から持ってきた『熊のぬいぐるみ』に、目が変わっていた。


「ヴィヴィアンさんも、テディベア好きなんですか?あきちゃんのお母さんの風遊さんも好きですよ」

「風遊?えっ?風遊・清水しみず?待って‼この人‼」


 スマホを見せる。

 ちなみにそこには、野暮ったい姿の穐斗あきとと、地味な格好のヴィヴィアンが3人で写真を撮っている。


「そうそう。この人。私の弟と結婚するんです。ちなみにその横のちっさいこが、そこのあきちゃん」

「何ですってぇぇ‼ウェイン……私がファンだって言ってたのに、黙ってたわね⁉後で全部聞き出すんだから‼」

『テディベアオタクって凄まじいなぁ……』


 ぼそっと呟くと、


「何か言いました?」

「いえいえ、実はこの間、結納……身内だけで婚約のお祝いをした時に、私たちの母が風遊さんがテディベアが大好きだと聞いて、そういえばと実家に行ったんですよ。で、幾つか持って『実家では置きっぱなしだったので、可愛がって下さい』って贈ったら、何か……『シュコ』とか言う会社の首が取れる香水入れのとか『イエスノーベア』とか言うのがあったっていってましたよ」

「何ですって‼」

「で、母が、実家にまだあるから、一緒に行きましょうって言ったら、あきちゃん元気になったら即‼って言ってましたね。弟が、あぁぁぁ‼テディベアに負けた‼って嘆いてました」

「な、なな、何て羨ましい‼テディベアを婚約のお祝いに下さるお母様‼素敵‼しかも、シュコーの‼もう会社がなくて、ヴィンテージしかない、幻の‼博物館か蚤の市でごく稀に売られているけれど……一つ600ポンドはするのに‼」


声をあげるヴィヴィアンに、あの映画の妖艶さはなく、年相応と言うか、オタク……である。


「ヴィヴィアン。田舎だけど、今度、ぼ……私のお家来る?母さんの部屋。テディベア一杯いるよ?多分、お父さん入れない位」

『醍ちゃん、入れんのかいな』


 突っ込む。


『うん‼120体までは数えたけど、部屋中テディベアだらけ。壁にも棚作って、ざーっと並べてて、日に当たったらテディベアが可哀相って、遮光カーテンと湿気とり。匂いも強い匂いは駄目って。で、モエモエしてる』

『モエモエ?』

『僕の小さい頃の着ぐるみロンパースを着せてね?ウサギさんとか、モーモーさんとかひつじさんに、とらさんにはちさん、てんとう虫さんにくまさん……で、僕の小さい頃の写真と並べてたり……で、名前をつけるんだけど、いつもだっこして「うちのこや~( 〃▽〃)可愛い‼穐斗の次でごめんね~‼」って』

『……』


 親馬鹿で、オタクや……。


 しかし、内情を知っているので、悪くは言わない。

 ちゃんと息子が一番という所が、風遊らしい。

 だが少々頭が痛いのと、乾燥で目が辛い……と。


「……大丈夫ですか?」


細く、鈴のように響く声が聞こえた。


「あ、あぁ、すみません。目が悪いのでコンタクトレンズなんですよ。乾いたようです」

「コンタクトレンズ……?」

「あぁ、ひなと同じ、眼鏡をかけると大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」


 微笑む。

 目を大きく開けて、見上げる女性……マーガレットに、


「どうしました?」

「お、怒られるか、無視されるか……思ったのです……む、向こうでは、そうだったので……」


目を伏せるマーガレットに近づき、よしよしと頭を撫でる。


「気まぐれな酷い人間もいるけれど、ここにいる人は皆いい人ですよ。マーガレット、貴方もいい人です。大丈夫。貴方は皆と仲良くできる。家族だし友人だから。安心するといいですよ」

「あ、ありがとう……ございます……あ、ごめんなさい……」


 頬を伝う涙に、紫野は、


「泣けるときに泣くのがいいんです。泣かないのは、想いがないからって言っていましたね」

「想いがない……?」

「日本には言葉に魂が宿るんです。だから、日本語で『思い』と『重い』は同じ言葉で『オモイ』と言うんです。苦しかったり悲しかったりする『思い』は、心に雪のように降り積もって、それが『重い』と感じると涙に変わって出し尽くす。もしくは腹をたてて、怒りに変わる時もある。マーガレットは、泣きなさい。一杯一杯泣いて、泣いて……涙が止まったら笑う。それが一番だと、私は思うよ?」

「……一人……いや」

「だったら、いてあげる。一杯泣いて笑いなさい」


見た目は美少女、でも、小動物系なマーガレットになつかれる紫野であった。

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