閑話休題、何故、人は恋に落ちるのか?永遠の謎です。
妖精たちの暴走を止めたガラハッドが、一旦連れ出せる義理の姉妹達と戻ってみると、祐也の腕の中で大きな目の穐斗がいた。
「あ、ガラハッドお兄さんだ~‼」
「おぉ‼穐斗じゃないかぁぁ。大きくなったなぁぁ。だっこさせてくれ‼」
「あの……お兄さん……」
モジモジとする穐斗の代わりに、祐也が、
「穐斗が女の子になったんです。それで……」
「はぁ?妖精がわしにはそんなに見えなかった……残念だったが、弟だった穐斗が妹なぁ……不思議なこともあるもんだ。それよりも、ここに一旦、この屋敷にいて、ある程度わしの言葉を理解できる妹達だけ連れてきた」
と、トラックから箱を下ろし、それを足掛かりにして乗ってくる女性たち、祐也を見るとビックリしたり怯えたりする女性もいるが、穐斗よりも年下……果ては5才程の子供までが乗ってくるのを見ると、
「……おじさん……」
「声をあげるなよ。祐也。落ち着いたところだ。一番落ち着いているマーガレット。穐斗の3才上の姉。本当の姉の方だ」
「……今日は。貴方……は、誰?」
凍りついた……壊れかけた脆い心を必死に守るようなアイスブルーの瞳の儚げな女性に、穐斗は、
「ぼ……私は、アンジュ。マーガレットの妹。捕まったの」
「……逃げられなかったの?」
「ううん、最近まで、逃げていたの。でも、体が弱くて寝ている間に連れ去られたのよ。助けに来てくれたの」
自分を包むように抱いてくれる相手を示す。
「マーガレットさん。アンジュのこ、恋人の祐也と言います。具合は?大丈夫ですか?」
「無事なら……ここにはいないと思うわ。何でこんな風になってしまったのか……」
「大丈夫‼マーガレット。アンジュも一緒だから」
穐斗は手を握った。
女性や幼い子供も合わせて10人程乗せ、最後に、紅が乗る。
トラックは丁寧に走り出す。
すると、紅は小さい少女に、
「私の名前は紅。red‼貴方のお名前は?」
「チェリーブロッサム‼」
「まぁ、可愛い‼私の国では、チェリーブロッサムの歌があるのよ?ゆうにいちゃん、通訳してね~‼」
と言うと、『さくらさくら』を歌い出す。
それを、祐也が、
「チェリーブロッサムを日本では『さくら』と言います。さくらは3月から4月にかけて咲きます。もう、日本では見渡すばかりに濃いピンクや、淡いピンク、白、それに珍しいのだと黄色。それは華やかに咲き誇ります。匂いもフワッと漂って、そんな花を見ながら、皆は春が来たと喜びます」
「喜ぶ?」
無表情の少女に、紅は、
「笑うことよ‼それに感動すること。皆は私と同じ」
「違うわ……」
「どうして?私は、英語が苦手で、皆と話す時にどうしようって思うもの。合ってなかったらどうしよう……って。まぁ、ゆうにいちゃん……私のお兄ちゃんに任せた‼って思うけどね‼」
「俺の兄弟は、皆そうやって『祐也、頼む‼』って、責任もてと言うか、英語覚えろ~‼と思うんだ」
「だって、自動通訳兄ちゃん‼」
紅の言葉に、
「ぷっ……」
吹き出したのは、マーガレット。
すると、次々とクスクス笑う。
「あ、笑った‼笑った方が楽しいわよ‼じゃぁ、お名前教えて!goo!」
と、紅が拳をつき出すと、その姿も面白いと笑う。
「あれー?私、ジャパニーズ・コメディアンじゃないのになぁ。ま、いっかぁ‼」
と言う言葉にまで……。
「皆、そうやって一緒に笑おうね‼泣いても良いよ。大変だったね。それに、幸せになろうね‼」
紅の言葉に、皆が顔を見合わせ、ボロボロと泣き出したり、姉妹を抱き締めあった。
「……生きること……少しでもその力を……」
祐也は呟き、穐斗を抱き締めたのだった。
戻ってみると、モルガーナとヴィヴィアンと、モルドレッドが立っていた。
いや、正式に言うと、モルドレッドはボコボコにのされており、その横で、祐也と紅の兄の一平が、片手をあげて、
『よっ!祐也、紅、穐斗。悪かった。遅かったわ~俺』
『あ、兄貴‼』
『兄ちゃん‼何で?』
『ん?一条……同じクラスのな?が、大学やめるって言うから、聞いたら、で……これ』
あはは~‼
からっと笑う兄に、
『間は⁉何で、モルドレッドと?』
『ん?ヘタッピ俳優、日本に来てな?穐斗の病室侵入やって。二度目や言うて、松尾に『ゴミはゴミ箱や、これはイングランドに棄ててきてくれはらしまへんか?』て言うもんだから、引っ掴んで連れてきた』
『お疲れ様、兄貴』
不憫に思うと、
『何でや?松尾に金出してもろたし、ついでに、簡単な英語を風遊さんが箇条書きしてくれてな?その通り読んだら、ヴィヴィアンに会ったんで』
『はぁ‼』
「なぁ?ヴィヴィアン?」
「英語は全く喋れないけれど、紅に似てたのよ……」
苦笑する。
「それに、華奢なのにかっこいいと思うのよね」
「はぁぁ‼」
祐也と穐斗は二人を見る。
クールで知的美人の実力派女優と、本人いわく脳みそ筋肉族、行き当たりばったり、しかしすべて終わりは問題ないと言う、ガラハッドを日本人にしたような、祐也の兄‼
「いいの?ヴィヴィ……妹だから言うけど、バカだよ?」
「と言うか、キザとか飾ってるとかよりも、普通がいいのかもね。だって、私にあった時も『よっ!なぁなぁ、ここ、ここ。連れてって‼これ捕獲』って、片言で言われて、レッドが私の名前を言うのに『へぇー、ヴィヴィ?俺、一平!よろしく』よ?」
『はぁ?兄貴‼ヴィヴィアン知らないのか?』
聞くと、あっさりと、
『このバカが、何か『アーサーレジェンド』とかいってたが、役柄より本人。片言でも俺の話を丁寧に聞いてくれる。そう言うのが本人を見るんや。まぁ、綺麗やなーとは思たけど、女優さんとは思わんかったな』
『じゃぁ、何て思ったのよ?』
紅の言葉に、
『へー、妹の持っとる人形みたいな目やな~』
「目が特に綺麗って言われたわ。日本人は目を見て人を判断する。綺麗な目をしていたらいい人だって‼」
頬をポッとさせるヴィヴィアンに、祐也と紅は余計なことを言わずに、見守ろうと思ったのだった。
しばらくして、テレビで、
「ヴィヴィアン・マーキュリー、日本人の一般男性と電撃結婚‼」
「「瞳が綺麗」と言われた事が恋に落ちたきっかけと語る!」
と世間を賑わせたのだが、それは別の話。




