第72話、穐斗は、自分が何故ここにいるか、考えました。
「出ていって‼大嫌い‼」
追い出した穐斗は扉を閉め鍵をかけると、てててっと走っていき、隣室との間の鍵をかけ、そして、近くの小さい飾り棚を必死で押す。
「えー?何で‼何でぇぇ?おもーい!」
少しだけでも引っ掛かる程度まで押すと、正面の扉には化粧鏡がついていて、一瞬立ち止まる。
「えっ?僕……だよね?何で?穐斗だよ?何で?」
鏡にはふわふわとした金色の髪と青い瞳の少女がたっている。
頬に手を当てるが、鏡の中で同じ仕草をする……。
と、
トントントン‼
と、すぐ横の扉が叩かれ、
「女王さま‼開けて下さいませ‼」
「皆、隣の部屋から‼」
「はい!」
その声に慌てて、必死に今度はその棚を引っ張り、鎮座させると、ベランダの扉の鍵を閉め、カーテンを引いていく。
「女王さま‼」
「うるさい‼僕は、女王さまじゃない‼来るな‼祐也……ゆーやがくれた指輪かえせぇぇ‼」
「女王さま‼落ち着いて下さいませ‼お願いですから扉を開けて……」
「嫌だ‼嫌だもん‼来るな‼バカァァ‼」
穐斗は珍しくかんしゃくを起こす。
本気で怒っていた。
大切な愛おしいものを奪われた怒りは、すぐには晴れない。
「入ってきたら……」
壁に飾られていた、武器が見えた。
アーサー王伝説を調べていたので、一緒に調べていたのだが、日本刀で、一般的な日本刀と共に脇差も下ろす。
「に、日本刀と脇差、か、飾りでも、抜けなくても、これだけ重かったら殴ったら怪我するよね‼僕……自分を殴るから‼近づいたら、入ってきたら、絶対に殴るからね‼」
ベランダからも、正面の扉からも、隣室の扉からも一番中央のベッドに近づいたが、すぐに、
「ベッドの下から出てきたら、もぐら叩きの計‼」
と叫び、
「天井からも降りてきたら、サンドバックがわりに、脇差しで刺してやる~‼ぼくはやるもん‼祐也に教えて貰ったからね‼」
と宣言するのだった。
そして、今現在の状況を、穐斗は理解していない。
祐也は遠く離れたイングランドで、穐斗の父アルテミスと対峙しているが、穐斗は……あの写真撮影の後、少し周囲が気を抜いていた瞬間に『Changeling(取り替え子)』となり、体の弱かった妖精の子はコンコンと眠り続け、穐斗は日本にいる妖精……精霊や妖怪とも言われる可能性がある……に連れ去られ、眠っていたのである。
誰もいない……大好きな祐也は遠い。
そして、家族とも引き離されている。
自分は……。
「まずは……体力温存と、祐也の指輪帰ってくるまで居座る……。逃げ出しても、僕はとろくさいからすぐ捕まっちゃう……籠城戦だね……」
体操座りをして、武器を二本、柄を握ったまま足に挟む。
祐也なら多分、この部屋にあるありったけのものを出して武器にするだろうが、穐斗には解らない。
庇って貰うしかできなかったのだ。
今回は、解らないが、何か危険率が高いと判断する。
だから何とかするのだ。
抵抗して、抗議して……そして……。
「祐也に会いたい……」
呟いたのだった。




