第71話、穐斗のいるのはここです。
穐斗はゆっくり目を開けた。
パチパチとまばたきをし、キョロキョロと見回す。
見たことのない空間。
実家の田舎の暖かな部屋でもなく、独り暮らしの時の殺風景だが多肉植物と暮らしていた空間でもなく、時々泊まらせて貰った祐也の家でもない。
お父さん……醍醐の実家に泊まらせて貰った時の、懐かしさもない。
その上、姉のモルガーナの家族の屋敷でもない。
「ここ……どこだろう?」
体を起こし驚く。
軽く薄い、高級シルクのようなワンピース姿である。
色は純白……軽いが、軽すぎて着ている気がしない。
ちなみに本人はワンピースと言ったが、中は下着が重ねてあるパット入りのワンピースに、ヴィスチェを羽織っており、ワンピースの裾は膝を隠す程度である。
大きなベッドから降りると、柔らかそうな部屋ばきのスリッパがあり、足を入れる。
と、扉が開き、清楚な着物を着た少女が二人近づいてくる。
着物の模様は椿、艶蕗である。
椿はご存じだろうが、艶蕗は、菊科ツワブキ属の多年草で、石蕗とも書く。
春には、蕗に似た葉の、茎を取り、食べる春の山菜である。
普通のふきとの見分け方は、葉が艶のあるつるつるとした葉っぱであることと、初冬から黄色の可愛らしい花を咲かせる。
「女王さま。お目覚めでございますか?」
「ずっと眠ったままで心配しておりましたわ、西の王様も、若様も……」
椿の着物の子は、花飾りも椿で、華やかな女の子。
艶蕗の着物の子は、タンポポ色の花飾りの幼い印象の女の子。
穐斗は、
「えっと、僕は女王さまじゃなくてね?穐斗だよ?」
「いいえ、違いますわ。女王さまです」
「ようやくお帰りになられた次の妖精王になられる西の妖精王さまの若様の、女王さまですわ」
「は?女王って、僕は男で……」
「違いますわ、女性です‼」
言い張る二人の剣幕に、咄嗟に胸元を探る。
祐也に貰った指輪……。
しかし、そこにある筈の指輪がない。
「な、ないよ‼指輪……通したチェーンが……」
と椿が、
「あんな下賤なものは捨てさせて頂きましたわ」
「どうして‼返して‼返してよ‼あれは、あれは祐也に貰った大事な‼」
「人間に馴れ合うのはよくありませんわ。女王さま」
艶蕗は童顔のわりに、大人びた物言いをする。
「それにシルバーは、余り私たちによろしくありません。ですから、何とか外させて頂きました」
「返して‼」
「なりませんわ。女王さまは、若様のお妃になられるのです。他の男に貰ったものなど余計に汚らわしい……」
「汚れてなんてない‼祐也が気持ちを込めてくれたんだ‼返してよ‼返してくれないなら出ていって‼」
穐斗は叫ぶ。
「出ていって‼返して‼偽物とかもダメ‼祐也がくれたものじゃないと絶対にいや‼出てって‼」
「女王さま‼」
「僕は穐斗‼そんなの知らない‼出ていって‼」
「落ち着かれて下さいませ、女王さま……」
「違う‼僕は穐斗だよ‼……穐斗だもん……祐也……祐也のくれた指輪返してよ‼返してぇぇ」
わぁぁぁ……
泣きじゃくる穐斗に周囲は慌てるのだった。
椿はご存じだと思いますので、艶蕗を。
艶蕗は、石蕗とも書き、キク科ツワブキ属に属する常緑多年草。葉柄は食用になる。
艶のある大きな葉を持っており、毎年秋から冬に菊に似た黄色い花をまとめて咲かせる。その為「石蕗の花」は日本では初冬(立冬(11月8日頃)から大雪の前日(12月7日頃))までの季語となっている。
よく似た同じキク科の蕗は、夏まで緑の葉を伸ばしますが秋には枯れます。
という感じで、黄色の可愛らしい花です。
薬用としても用いられ、打撲ややけどに民間薬ですが使われるそうです。
ですがかなりアクが強いので、蕗はゆでる前に皮をむきますが、つわはゆでたあとに手を真っ黒にしつつむいた記憶があります。
山や、日本庭園によく濃い緑の葉をした葉っぱがあります。
 




