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第70話、祐也とアルテミスの直接対決です。

「こんにちは。穐斗あきとのお父さん。私は祐也ゆうやです。私は数日前に暴漢に襲われて、入院していたんです。今は静養にウェインに甘えてこちらに。お父さんは大変ですね。日本とこちらとを行き来して、パパラッチに追いかけられて、娘さんの嫁ぎ先に押し掛けて、また騒動を起こすんですか?大変ですねぇ?」

「そうだな。周囲がうるさい」

「違いますよ。周囲の……ご家族が大変だと言っているんです。迷惑ですよ。モルガーナさんや、ウェイン、穐斗、風遊ふゆさんに迷惑だと解らないんですか‼」


 祐也の声に、掴み掛かるのを今回はあっさりと避け、がら空きの腹部を殴り付け腕をつかんで投げ飛ばす。


「き、き、貴様ぁぁ‼」

「うるさいわ‼普通の人間か化けもんか、妖精かただのアホか知らんが、ええ加減にセェや、このアホンダラァ‼穐斗は苦しんどるってのに、一応父親やないんか‼」


 スラング混じりのオーストラリア英語で、怒鳴り付ける。


「穐斗……あぁ、アンジュ。妖精の元にいけば良かったものを」

「で、おっさんみたいになるんかや?あぁ?」

「あの世界は楽しいぞ?フフフ……」


 祐也の力と本人の重みで、したたかに腹部を殴られている筈が、動き始める。

 その動きは人の動きにしては妖しい……生きていないような……。

 しかし、再び掴みかかってくるのを振り払い、逃げると、


『何しよんよ‼このじじい‼おりゃぁぁ‼』


と、アルテミスの背後から回し蹴りと倒れた上で、背中に両手を組ませると、ベルトにつけていた紐で結ぶ。


『よっしゃぁ‼ゆうにいちゃん。大丈夫?』

『あ、あぁ』

『それよりもゆうにいちゃぁぁん、わぁぁん‼』


 くれないが抱きつき泣きじゃくる。


『ど、どうしたんだ‼』

『それが……祐也……』


 後ろから現れたウェインが、


『あの家……紅の弓道の弓とか一式、捨てたって』

『ちょっ!何で‼』

『ただの棒だと思っていたって。でも、殴られたら困るって』

『ちょっと待てよ‼あれは、紅の為だけに母方の祖父が作った逸品で‼価値がつけられないんだぞ‼どこに捨てたって⁉』


起き上がろうとした祐也だが、再び目まいを起こし、しゃがみこむ。


『大丈夫かい?休もう。一応、ゴミ箱とかを確認したが見つからなくて……』

『うわぁぁん‼私の大事な……』

『もしかしたら蚤の市とか……』


 ウェインはぽんっと叩く。


『行ってみる』


 コンコン……扉がノックされ、


「まぁ……ウェインのお祖父様、素敵なお姿ね。縛られるのが好きなのかしら?それよりも、紅?」

「ヴィヴィ……」


顔をくしゃくしゃにした少女を抱き締めたヴィヴィアンは、


「ねぇ?今日、私、趣味のテディベア収集で蚤の市を歩いていたら、珍しいものを見つけたの。近くにいた日本人の人に聞いたら、キュウドウと言う日本の武術の道具って言われたのよ。それにね?名前があって、『安部紅あべくれない』と書いてあるって言われたのよ。ビックリしちゃって、『これは、私の親友のものなのよ。お願いだから返してくれないかしら』って頼んだら、サインで譲ってくれたわ」


ウェインの通訳と、室内に入ってくる一式に、


『あぁ……汚れてるのと少し傷がついてるけど……うちのや……ヴィヴィ‼』


 確認をすると、ヴィヴィアンを抱き締める。


「ありがとう‼ありがとう‼これは、おじいちゃん作った宝物‼ありがとう‼」

「まぁ、ウェインのお祖父様は変だけど、紅のお祖父様はとてもクール‼」

「ヴィヴィに言われたら、おじいちゃん喜ぶよ‼」


 大事そうに一つ一つ確認する。


「あの家の人間が捨てたって、ヴィヴィ」

「大丈夫よ。一緒に写真とって、連絡先の電話番号も聞いたわ。キャ!何?」


 後手に縛られたアルテミスが、ありえない動きで紐をはずそうとする。


「誰か‼お祖父様を、どこかの部屋に‼」

「何だよ、兄貴」


 出てきたのはバサバサの髪で、周囲も眉を寄せる趣味の悪い格好……。


「レッド‼何をしに来た‼父さんは、お前にここに戻ってくるなと言った筈だぞ‼」

「お祖父様について来ただけさ。じゃなきゃこんな面白くもない家なんか……」

「面白くないのは、あんたがちゃんと世界を見ないからよ‼」


 たどたどしいものの、そう紅は言い切る。


「世界には富裕層だけじゃない貧困もある。これはお金‼でも、心にも満ち足りた愛情があり、与えて貰えない愛がある‼あんたは、愛情を一杯受けてる癖に、それを否定してる‼最低な人間よ‼」

「何だと‼ちびの癖に‼」

「同い年よ‼それでも、両親の暖かな愛情を受けて、お兄さんのウェインからも受けているのに、ひねくれたあんたが最低だわ‼お兄ちゃんに聞いたわ‼ミセス、モルガーナはウェインもあんたもちゃんと育てた‼それをひねくれたのは自分でしょ‼人のせいにするな‼努力しなさいよ‼」

「努力しても爵位は兄貴、俳優としても兄貴、領主としても兄貴……兄貴兄貴兄貴‼うんざりだ‼」


 叫ぶ。


「そんだけ怠けてた証拠じゃない。やんなさいよ……」

「何だって⁉」

「真面目にやれっての‼じゃなかったら、このイングランドから出ていけばいい‼うんざりだっていいながら、家のお金を持ち出して遊ぶしかできないんでしょ?それよりも世界中の難民の人が、どれ程辛い思いをしているか、災害に泣く人がいるか、見てくればいい‼出ていけ‼」

「うるっせー‼出ていってやるよ‼」


 飛び出していった少年に、ウェインは、


「ごめん。皆……」


と頭を下げたのだった。

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