表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/101

第62話、新しい命が宿り、母親になりました。

 お互いの両親は、醍醐だいごの両親は隣町の旅館に、風遊ふゆの両親は家にと言っていたのだが、紫野むらさきのが別のホテルに予約を入れ、3人で泊まりに行った。

 ただすが、


「醍醐くん、私お邪魔?」

「そんなことないですよ。先輩。それに、先輩はここにいた方がいいと思います」

「良かったぁ……。でも、ひなちゃんいつ帰ってくるんだろ……」


俯く。


「どうしたん?」

「……あのね?さきさんが、言ってたの……私の実家が危ないって。うちの兄さんと父さんが、変なのに投資して、その借金のかたに私を……やって……」


 頰にポロポロと真珠がこぼれる。


「わ、私はずっと、実家でお嬢さん言うて表では言われとったけど、家のなかでは男尊女卑。さきさんと同い歳の兄さんなんて、『お前は役立たずや』『女なんて馬鹿だ』言うて……下の兄も顎で指図。父親なんて気に入らないことがあると殴る蹴るだったんよ。それに、本当は高校も出して貰えなくて、担任の先生が『何考えてるんですか‼子供に勉強の道を与えないんですか‼』って猛勉強して、特待生で……そうしたら『お前は、役に立たん。そこのほうき以下や』言うてね……」


 醍醐も息を呑む。


「高校卒業する頃に、見合いが多くなった……進学したかった。それに、小説を書きたかった。それなのにそれを全部親は聞いてくれない。兄弟も受験用の参考書を捨てたり、受験票も……お母さんは『あんたは女の子なんだから、子供なんだから、お父さんやお兄ちゃんの言うことを聞きなさい』って……」


 しゃくりあげる。


「ひなちゃんには、一杯一杯迷惑をかけてる。私のせいで実家には戻れなくなって、でも……帰りたくないんよ……ひなちゃんと一緒におりたい。喧嘩してもわがまま言って怒らせても、でも、ひなちゃんは『ごめんな?俺が悪かった』って……頭を撫でてくれて。『俺にはスゥが必要や』って……だから……」

「帰らんでええんよ」


 風遊は糺の目を優しくぬぐう。


「スゥちゃんはうちの娘……それか妹なんよ?うちにおり。そんなとこに帰らんでええんよ。うちがあるやん。な?」

「でも……」

「大丈夫」

「はい……でも、ちょっと最近熱っぽい、風邪ひいたかなぁ……」


 首を傾げる糺に、風遊は念の為と穐斗の主治医に頼み、診て貰ったのだった。




 で、熱心に本を読みながら、スマホが鳴った為、


『はい、日向ひなただけど?祐也ゆうやの具合はどうなんだ?』


と英語で返した日向に、


「ふえぇぇぇ~‼ひなちゃんが、忘れたぁぁ~‼」

「わ、わぁぁ‼スゥ‼スゥのことは忘れてない‼ごめん‼調べものに集中していたのと、実は祐也が……」

「え?祐也くん?」

「そっちのテレビに出てないかな?ヴィヴィアン・マーキュリーの慈善イベントの事件」

「ちょっと待って~‼醍くんテレビつけて~‼」


 テレビをつけると、豪華な車から出てきたウェインの後から出てきた顔を隠している人物に、突進する日本人男性。

 凍りついたのか動けないその人物に、叫びながら殴り付けるシーンが写し出された。


 テレビでは、


「この男性は日本の外交官僚であり、調べたところ、10年余り前にオーストラリアでヒッチハイクをして旅をしていた少年の父親で、その前妻の容疑者と共に少年に虐待をし、日本にいた実の母親や親族に助けを求められないようにしていたそうです」

「で、実母の方の証言です……」


「はい、はい……結婚してから最初は私が暴力を……外国生活が長い上に、アザだらけで助けを求められず、離婚して、息子を連れて帰ろうとしたら取り上げられて……何度も連絡しました。手紙も‼ネットも‼でも、全部切られて……それで兄にお願いしたんです‼ごめんなさい‼……(ピー音)。それに、あの人のご両親には、子供ができたと報告すると堕ろせと、今から病院にいけと脅されました‼本当です‼」


「で、実母から相談を受けた伯父に当たる方が、迎えに行き、少年が行方不明とわかり捜索。裁判をして、二度と会うなと言うことに決まり、伯父と共に帰国。で、成長した息子の個人情報を盗み見して電話を掛けて脅迫したそうですね」

「その上、これでしょう?被害者である少年が可哀想ですね」

「それに、同じように虐待をしていた前妻の容疑者の『見ていて面白かったのでやった。自分の3人の子供たちも面白がっていた』と言うのも……信じられないですねぇ」

「それに……」


 画面が変わり、フラッシュがたかれる中、頭を下げているのはある有名な国会議員。

 たびたび男尊女卑発言や、セクハラ発言で問題をかもしていた人物である。


「いえ……そ、そのようなことは……は、はい、孫はおりません‼あの女は子供ができたと、脅した女です‼他の男の子供です‼関係ない‼わしには関係ない‼」




 その内容に、糺も醍醐も風遊も呆れ、祐也を心配する。


「祐也くんは?」

「殴られた時に口の中を切って、胸ぐらを捕まれた時に、爪で抉られ、よろけて倒れて頭を打った全治二週間」

「そうなんだ……」

「それより、どうしたんだ?スゥ。何かあったか?また向こうの家から……」


 心配そうな声に瞳が潤む。

 しかし、涙声ではあるが、


「ひなちゃん……パパになったよ。三人で一緒にほたる見に行こう?」

「えっ……ぱ、パパ……お、俺が?」


しばらく返答がなく、


「ひなちゃん……嫌?」

「ち、違う‼……う、嬉しいんだ……ありがとう、ありがとう‼スゥ。まっとってや。俺のふるさとはスゥと家族や……」


涙声で宣言をした日向に、糺も、


「うん。家は、家族のうちやもんね。待っとるよ」




 山は命を獲るだけでなく、命を産み出すのだと、糺は思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ