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第49話、眠る穐斗と、心配しつつ街を引き払う手続きをする元大学生たちです。

 病院にかつぎ込まれた穐斗あきとだが、主治医も困惑する程、全く原因不明だった。


「原因も解りません。昏睡状態です。ですが脳死でもありません。一般に植物人間と言われる状態でもない」

「じゃぁ、じゃぁ……‼」

「言えるのは、眠ってます……と言うことです。何かのきっかけで、目を覚ますかもしれませんが、このまま眠ったままという場合も……」

「そんな‼」


 泣き伏す寸前の風遊ふゆを支えつつ、醍醐だいごは、


「解りました。穐斗は食事は取れるんでしょうか?」

「声に反応しませんので、点滴で栄養をということになります。呼吸は浅いのですが、ゆっくりと安定はしていますので、酸素吸入は必要ないでしょう」

「解りました。では、こちらで入院ということで、お願いできますか?個室を用意して頂けたらと思います。それに、テレビで騒がれていますが、私の後輩で穐斗の友人の件で取材陣が来るかもしれませんが……」

「その点は厳しく。こちらは病に苦しむ人を助ける場所です。ご安心下さい」

「ありがとうございます」


頭を下げると、しばらくして病室に案内され、風遊も麒一郎きいちろう晴海はるみも驚く。

 一応個室と言っていたが、醍醐が手続きをすると言っていた間、ただすと共に穐斗に付いていた。

 案内された部屋というのが、どう見ても、ソファーベッドが二つ……普段はソファである。

 そしてテーブルに、一人がけのソファが二つ、バス、トイレに、部屋の中に別室があり……、


「あぁ、寝室と言うか、休憩できる部屋だと思います」


糺が扉をあげると、病室ほど大きくはないが、ベッドがある。


「こ、こんなに大きい部屋‼お金がかかる……」


 麒一郎は告げる。


「いつまでに目が覚めると言うのも分からんのに、部屋にお金使うより、穐斗に‼」

「それじゃぁ看病する、風遊やお父さん、お母さんが疲れます。私もスゥ先輩も交代で過ごすと思いますし、一番高い部屋ではなくて、一応居心地のいい部屋を。東南の角部屋で、朝の光が入って、穐斗の大事な多肉植物も持ってきて、飾ってあげましょう」

「でも……」

「お金は心配しないで、家族で穐斗に……ね?」


 トントンとノックの音がして、


「はい?」

「すみません‼穐斗が入院した聞いて‼祐也ゆうやの兄の一平いっぺいと母のせとかです‼」

「あぁ、一平くん。祐くんのお兄さんで、同い年です」


糺が近づき、扉を開ける。


「突然ですみません‼いつもいつも、祐也がお世話になってます」


 入ってきた親子は頭を下げる。


「本当は、もっと前に挨拶をと思ってたんですが、その前にあんなことに……色々すみませんでした」


 祐也より細いが、きりっとした眉の青年と温厚なと言うよりどんとこい‼という感じの母親だが、心配そうに、


「あきちゃんはどないでしょう?あぁ、本当になに考えとんか……うちの祐也も被害者やけど、あきちゃんも周りに振り回されて……」

「せとかさん……」


何度か顔を会わせている風遊が、近付く。


「だんだん……」

「何いよるん。風遊ちゃんはうちの妹や。それよりも大丈夫?」

「……あ、穐斗が……」


 泣き出した風遊を抱き締めるせとか。


「大丈夫や。大丈夫。あきちゃんは元気になる。うちも、そんなに遠くないけんね?何かあったらくる」

「祐也くんのお母さんに、先輩もこっちにどうぞ」

「あぁ、松尾まつのお。大変やったなぁ……」

「いえ、それよりも、聞いてます?」


 先輩に声をかける。


「ん?あいつが祐也をっていう件やろ?俺とお袋と妹二人でギタギタのメッタギリ‼で一致や。うちの兄弟、俺は柔道空手、妹らは薙刀なぎなたや剣道、空手に柔道、弓道やっとるし。妹は『エェ的や』って、あのおっさんの写っとる写真の新聞を、練習用のに貼り付けて弓道の練習しよるわ」

「はぁ……そうなんですか」

「それがなぁ。うちの妹二人、彼氏ができん言うんで。一応高校生やのに言うて、親父が一回聞いたんや。そしたらなぁ、『ゆうにいちゃんよりかっこいい男がおらん‼』『告白してきて付き合った同級生はおるけど、まだガキや。同じ高校生や言うても、昔のゆうにいちゃんみたいに優しない‼』やって。何か心配やと思わんか?」

「……」


 醍醐は、ここの家はどんだけ暑苦しいんだ……それよりも、あの祐也は逆に暑苦しそうでいて温厚でおおらかなのは、あのお父さん……実の父ではなく、現在の父である……に似たのだろうと何とか納得する。


「えーと、いえ、祐也くんがイングランドに、ガウェイン・ルーサーウェインの」

「俺は、祐也が『映画、穐斗と見にいってきたんよ。相当凄かったで‼アーサー王役の俳優をくっとったわ‼俺と同い年とは思えんかった』いうたけんな、お袋と見に行ったら『うちの祐也の方が可愛い』言うとった。で、妹らもこないだの会見の時に祐也が電話で出たのを聞いた時に、祐也やと思わんかって、クラスメイトに『お兄ちゃんやないん?』て聞かれたら『アベユウヤなんか日本にはおるやん』言うて。ガウェインのことも『かっこえぇなぁ思うけど、遠い俳優よりゆうにいちゃんや‼』言うてたわ」

「……」


 暑苦しいと言うか、強烈なブラコン兄弟や……と醍醐は思った。

 自分の家よりも、この兄弟のほうが暑苦しい。


 と、


「おーい、醍ちゃん。にしき来たで」

「はじめまして。皆さん」


洗練されたスーツ姿の女性。


「えっ?」


 呆気に取られる一平の横で、糺が、


「あ、錦さん。こんにちは。大学に退学届と、街の家を引き払うのお願いできますか?」


と告げたのだった。

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