第48話、京都のおとうはんとおかあはんは、ビックリです。その2
「で、どないしたんや」
漬物に手を伸ばした嵐山に、櫻子は、
「だんはん。あのなぁ?祐也はん、あの事件であきちゃんの実家にいかはったやろ?で、あてらの醍醐はんも……」
「そうやったなぁ」
「そうしたら、あきちゃんの遠縁のおいはんが、泣きながら荒れてはる祐也はんを見てしもて、どないしたんや言うて聞いたんやて。ほんなら、自分は今の家は養子で、実は産んでくらはったおかあはんのおにいはんの家の子になっとんやて。裁判で」
「裁判?」
剣呑な話やと眉を寄せる。
祐也が、何か大変な目に遭ったのかと心配になったのである。
と、妻の口からは想像を絶する生い立ちが語られる。
普段は平然とした嵐山が、
「……何やて?」
「あの、ご贔屓はんのお嬢はんのだんはんになるいう男が、祐也はんの実の父親で、前妻はんとそのお子はんと、祐也はん虐待しはったんどす。それで、日本におるおかあはんにも連絡ができひん、このままやと死んでまういうて、オーストラリアでっか?あそこを車に乗せてもろて逃げたんどす……だんはん。10年程前に、テレビで大騒ぎになってましたやろ?あの子が祐也はんで、親権者を今のおとうはんに、養子になったんどす。そやのに、今回の事件で、どこからか電話番号を手に入れて、脅しはったんや‼『恥や。戻ってこい』言うて。怯えてはって、それもあって昨日、英国にいかはったって。あの大原の嵯峨はんがこらあかん言うて、あきちゃんの親戚で安全なとこにいうて」
「……櫻」
「何でっしゃろ?だんはん」
「何で、被害者のぼんが泣かなあかんのや……」
と、電話がなり、箸を置いた櫻子がとる。
「もしもし……あぁ、シィはんでっか?どないしたんや?え?え?あ、あきちゃんが倒れはったやて‼」
その声に嵐山は立ちあがり、駆け寄る。
「どないしたんや?」
「だ、だんはん‼」
電話を受け取り、
「シィ。どないしたんや」
「おとうはん‼あきちゃんが‼大病や‼スゥちゃんに聞いたんやけど、何か難病を患っとる言うて、それがなぁ?あきちゃんのおかあはん、風遊はんやおとうはんらはい色んな病院に行っても、母系の疾患や言うばっかりで、原因不明やったんやて。でも、風遊はんは自分も検査を受けるけど、疾患に関わるもんはあらへんのや。やけど、あきちゃんを何とかしたい言うて……そんで祐也はんは、身を隠すんと、あきちゃんのてておやの血筋にそういう病はないかて調べに行ったんや。やのに、今、倒れてもうて‼大きい町の病院に連れていく言うて‼」
「……何処の、病院や?」
「えっ?……なぁ、醍ちゃん。病院てどこ?……うん、あ、おとうはん。空港がある街から、隣の町の病院で、名前書いてくれるか?えーと……」
嵐山は書き込むと、立ち上がる。
「だ、だんはん?」
「外に塩撒いてくる。その間に仕度しい。孫の見舞いに、結納とあるんや」
「だ、だんはん‼」
「きれぇなべべを持っていかんとな」
出ていった夫を見送り、電話に、櫻子は囁いたのだった。
「あてとだんはんが行きますさかいに、あきちゃんを、えぇな?」
「あ、あては居残りや。さきが塩撒け言うて、いってもうたで。あきちゃんのおっちゃんと今からや」
「盛大にな?だんはん……おとうはんが塩まく言うてたわ」
塩をどんぶり鉢山盛りにして出てきた老舗菓子舗『松尾』の店主、松尾嵐山は、京都でも名のある和菓子の店舗でも特に、テレビ拒否、取材拒否で有名である。
しかし、
「あの‼息子さんの通っている大学の問題ですが……」
「はぁ?あての息子の縁談が纏まったいう話やないんか」
「えっ?跡取りの?」
「末息子や。これから結納に行くよって、帰ってくれまへんやろか?」
嵐山は無表情の為、地元の取材陣はヤバいと思っているが、生放送のテレビ番組等は、
「末息子さんというのは、その大学に在学されてますよね?」
「どんな人ですか?それに、問題のあった少年について……」
「あぁ?ぼんに悪いこと?あらへんわ‼それよりも、10年程前の、オーストラリアで保護されたていう日本人のボンの当時のてて親を探セェや‼」
「は?」
「オーストラリアで保護されたボンのてて親は、息子を当時の嫁と虐待してなぁ?こっちにおるおかあはんにも助けてくれていえへんかったそうやで?それで逃げ出したやて。おかあはんの家族が心配で行ってみたら行方不明やて。普通はてて親が探すんやないんか?親族が警察に駆け込んで、ボンを見つけてもろたていよったわ。で、裁判で、親権者を親族さんに移して、もう二度と会うな言うたのに、あんさんら……個人情報なんやと思とんや?その、てて親がボンに電話かけて『恥さらしや』言うて罵った言うたわ‼」
嵐山は、一歩前に出る。
「未成年の、あての息子の後輩の個人情報を、軽ぅあつこうとんのか?どや?」
「えと……」
「ほれになぁ?そのオーストラリアの事件のボンを、名前を出さんのはかめへん。ちいさいぼんや。けどなぁ?虐待や‼逃げ出して、オーストラリアを転々としよったボンを放置した上に、今んなって脅すて何や?そっちを調べてくれへんかいな?」
「あ、あの……」
「調べに行き‼ほれに、あての店は、そげな大事なことを伝えんテレビでどうこうなるような店やおまへん‼京の職人の誇りを汚さんといてくれんか‼」
バサバサと塩をつかみ撒き始める。
「あての息子の結納前に、縁起が悪いことや‼」
その頃、穐斗の実家では、同じように、政和と共に標野が塩を撒いた。
「あての甥ぼんが、生きるか死ぬかの瀬戸際で、必死になっとんのに、車止めたて何や‼」
「そうや‼何考えとんや、このボケ‼俺の甥になんかあったら、お前ら責任とれるんか‼いうてみいや‼ど阿呆‼いねや‼」
やはり親子は親子だった。




