第41話、イングランドに到着しました。
空港に到着する。
降り立った二人は、軽く伸びをする。
ファーストクラスとは言え、長距離飛行はかなり負担になる。
「はぁ、荷物検査も終わったし……迎えは……」
「彼ですよ」
祐也は示す。
柱にもたれ掛かり、黒縁の大きなレンズの眼鏡と少々古いコートとデニムの田舎の青年が、軽く手を振る。
(以下英語)
「やぁ、よく来たね。祐也、日向」
「ウェイン?本当に?」
日向に尋ねられ、
「あぁ、うん。これが普段だよ。じゃぁ行こうか。長距離だから、大丈夫?」
「あぁ。運転はウェインが?」
「あぁ、古いけど、広いからね。こっちこっち」
歩きながら話しをする。
「大丈夫だった?二人とも」
「あぁ。ありがとう。あ、そうだ。穐斗から手紙と、後で見せるものがあるんだ」
「あぁ、運転中はダメだよね。でも、色々話してよ」
車は普通の地味な物で、乗り込む。
「でも、本当にようこそ。会えて嬉しいよ」
「俺も……でも、この格好のウェインを、一瞬でウェインだって言った、祐也にはビックリだ」
日向に、祐也は、
「いえ、穐斗に雰囲気似てます。それに、眼鏡も同じだったので」
「あぁ、この眼鏡はお揃いなんだ。ほら、この国の新しい魔法冒険小説の……」
「あぁ、あのシリーズですね」
「そうそう。最初の第一版のこちらの本を贈ったんだよ。実は。そうしたら穐斗が喜んでね。で、ちょっとコネを使って色々とサインを戴いたよ」
そりゃぁ、くれるだろう。
二人は思う。
このウェインに頼まれたら、そこそこの……。
「で、風遊姉さんは、あの『指輪物語』のファンだから、色々と」
「いいのか‼そんなの使って、嫌がられたりは?」
後ろの席で、日向は心配そうにいうと、
「いや、実は、姉さんはこっちにいた時に、色々とバイトをしながら留学していて、ある俳優の運転手や、手紙の仕分けのバイトをしていた時に、祖父に出会ってしまってね……あの祖父は女性関係は問題ありだけど友人は多くて……で、生まれた穐斗の名前のアンジュは、その方がつけてくれたんだよ」
「はぁ……それは知りませんでした」
「会わせるんじゃなかったと悔やんでいて、手紙を書けばと言ってて、今文通してるね」
「風遊さんも何げに凄い」
日向の言葉に、助手席の祐也が、
「本当は後での方がいいと思うのだけど、今、話をしておきたいんだ。穐斗が病気なんだ」
「病気?」
「あぁ、『性分化疾患』でも、アンドロゲン不応症、先天性副腎皮質過形成、卵精巣性性分化疾患、クラインフェルター症候群、ターナー症候群……どれも違うんだ」
祐也の言葉を添えるように、
「先程言った病気は、ほとんど母親が保因者であると言われている。けれど風遊さんは健康で、それでも弱っていく穐斗を思って、ずっと泣いているんだ」
「知っていたら、教えて欲しい。ウェインか、もしくはお母さんである、穐斗のお姉さんのモルガーナさんの知っていることを‼」
「御願いだ」
しばらく黙りこみ……口を開く。
「実は……母方の……穐斗の父親の一族に言い伝えがある。嘘だと思っていたんだが……」
「言い伝え?」
「……アーサー王伝説の最後に、アーサー王が死ぬ時にモルガン・ル・フェイが迎えに来て亡骸を連れていったと言われているけれど、アーサー王は死んでいなくて、妖精の国で生きている。そのアーサーと妖精との間に子供が生まれ、その子供がこちらの世界に戻ってきた……その子孫が母方の血筋だと言われていたんだ。何の冗談だと思っていたけれど、代々生まれるのは女の子が多く、男が生まれると女の子の名前をつけるのは、妖精の世界に連れ去られるからだと聞いている」
日向が必死で打ち込んでいたが、
『すまん‼祐也‼聞きながら打ち込み話すのも無理だ‼』
と日本語で訴えた為、パソコンを受け取り打ち込んでいく。
「はぁ、祐也は凄いね」
「まぁ、特技だよ。でも、連れ去られたことは……」
「祖父がしばらく行方不明になった事があると聞いたよ。でも、そんなに長い間ではなかったけれど……言いたくないけど、それから奇行が増えてきて、曽祖父母が困っていると聞いたけど……」
「……あの人は人間としては非常識で、神話に出てくるパンやディオニュソス、北欧神話だったらロキのような存在に近い気がする……」
呟きつつ、書き込みを続ける。
「あ、そうだ、インターネットだけど、一応日本の海外向けのに入っては来たんだけれど、高額なんだ。無線LANとか短期間のとか入れるものかな?」
「あぁ、それなら、世界中で定額の短期プロバイダがあるよ。紹介するよ」
「それは良かった。じゃぁ、この内容を送ってもいいと思う。はい、先輩」
『助かった‼』
言いながら街を抜け、のどかな田舎の風景と共に、同年代の青年の会話が続いたのだった。




