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第40話、京都の方はとても優しくはんなりしていますが、道理に合わない事はゆるしまへん。

 醍醐の母の櫻子さくらこは、3人の息子の中で一番末っ子の醍醐だいごに瓜二つの上品で昔は祭(賀茂の祭)の斎王代さいおうだいに選ばれた京都でいうべっぴんさんである。

 斎王代は一般募集が主流だが、それでも、大きなお祭りであり選ばれるのは京都でも、べっぴんさんの女性が多い。

 斎王代は、京都でも格式の高い下鴨神社しもがもじんじゃこと賀茂御祖神社かもみおやじんじゃにあるみたらしがわで、今でも隠されているが身を清める神事が行われ、上賀茂神社こと賀茂別雷神社かもわけいかづちのかみのじんじゃまで歩く賀茂祭かもまつりの神事を行う斎王さいおう……昔は代々天皇家の皇女がこの位についていた。

 その斎王の代理で斎王代と言うのである。


 伊勢神宮も同様で斎宮さいぐうが都から出向き、天皇が代わるまでの間神事を行った。

 源氏物語の光源氏の恋人の一人、六条御息所ろくじょうのみやすんどころの娘で、後に、光源氏が後見人になって後宮に入る秋好中宮あきこのむちゅうぐうも物語上とはいえ、斎宮となった。


という話は置いておき、櫻子はまだまだ伝統を残すといい、早朝から弟子と共に作り上げる菓子を大切にする、口下手ではあるが夫の嵐山らんざんに一目惚れし、嫁になった。

 松尾大社まつのおたいしゃは水が有名であり、その水を頂き、それで清め、菓子を作るのが嵐山の一日の始まりである。

 早朝からの仕事に邪魔をしてはいけないと気を使いつつ、心配になり、夜遅くとは思いつつ電話を掛ける。


「夜遅うにすんまへんなぁ……」

「あぁ、松尾まつのおの櫻子はん。どないしたん?」


 電話に出たのは、櫻子と同年代の、娘を嫁に出すのが嬉しいと喜んでいた奥さんである。


「ほんまにすんまへん。実はなぁ、そちらさんのことをわるぅ言うつもりも、あらしまへんのやけど……あての上の子らの同級生の子がなぁ、心配や言うて、電話をくれたんどす。その友人言うんが、あの大原おおはらはんのぼんの……」


 実は大原嵯峨おおはらさがの実家は有数の名家だったりする。


「あぁ、嵯峨さがはん。元気にされとるんやろか?」

「あては、上の子らに聞いとるさかいに元気そうや言うとりましたわ……あぁ、そうじゃのうて、お嬢はんの事や」

「あてとこの?」

「それがなぁ……これは、そちらさんとこが羨ましゅうてとは違うさかいに……でも、あてとこのこらは……」


 ためらうそぶり……これが櫻子の手である……に、


「櫻子はん?そげな事は思とりまへんがな。櫻子はんはほんにあの『松尾』を、嵐山はんを支え、ぼんらを育てはった」

「そやったら……実はなぁ、大原の嵯峨はんが、今、あの大学で悪いことしとらんぼんたちを弁護する言うて……あのサークルはあての醍醐がおるさかいに。後輩のボンが……悪いことしとらしまへんのに、退学やなんや言うて……」

「あぁ、ありまひたなぁ。醍醐はんの大学でしたんか?」

「そうや。醍醐は本当はこっちの大学にもとおっとったんや、けど、家のご先祖さんについて調べたい言うて、あっちにいったんよ。一応東京の大学にもうかっとったんやけど、東京はなぁ……」


 京都の人は、東京の大学よりも京都大学を希望するそうである。


「あ、話を戻しまひょ。それがなぁ?嵯峨はんが弁護につくことになったボンがなぁ。何か怯えとって醍醐が心配してなぁ……嵯峨はんを呼んだんやて、何かあったら相談しとき言うて。そんなら、ボンが小さい頃の事を話してなぁ……実はそのぼん、今の家は本当はおかあはんのおにいはんの家で養子やて。でなぁ、実の両親はこんまい頃に別れて、おとうはんに引き取られたんや。おとうはんは外交官で外国を転々としてたんやけど、すぐに子供んおる人と再婚してなぁ……。で、オーストラリアで住んどった時に、その義理の母親や、兄弟に苛められて、その上告げ口でおとうはんに殴られ、蹴られてやったんやと。日本におるおかあはんは、やっぱり心配やて手紙に電話も送っても、返事はない。どないしよう言うておにいはんに相談してなぁ、で、オーストラリアに行ったら、甥ぼんはおらん言うて、慌てて警察に駆け込んで探して貰たら、家にはおれん言うてヒッチハイク言うんかなぁ?色んな車に乗せてもろて、首都とは反対側の街で見つかったんやと」

「ちょ、ちょっと待ってぇや。そ、そげな……」


 必死に震える声で訴えようとする相手に、櫻子は、


「その事件は、こっちでは子供が未成年てことで、名前も顔も出んかったんやけど。父親と、義理の母親の名前がでんのはおかしゅうないか言うて、思たんを覚えとったんや……でなぁ、最近になってあの事件や。町やったら人が騒ぐ言うて、醍醐のもう一人の後輩のボンの田舎におったんや。そしたら、そのボンが泣きながら怯えとった言うて、話を聞いたら『もんてきい。あてには子供がお前しかおらん。そのお前が恥をかかせるな』とか言うて……でもな?オーストラリアに迎えに言ったおいはんが、裁判を起こして親権をおいはんに移して、おいはんの子供として養子になっとんやて。ほやのに連れ戻そうとする言うて……」

「……」


大きく息を吐き、続ける。


「その実の父親の名前聞いてもうたんよ……上の子らがそっちの家にいつも世話になっとるさかいに、何かに巻き込まれたらあかんいうて……お嬢はんの婚約者になるお人やった……」

「そげな‼お相手は……‼」

「幾ら外交官はんやて言うても、自分の血ぃ繋がった子供を、そげな風に扱うんは許したない思うんどす。あてのだんはんは朝の仕込みん後、話すつもりや……悪いけんど……この件が収まるまで、うちには……」

「ちょ、ちょっと……」

「回りには話しまへん。ほな……夜分に堪忍な……」


 電話を切り、電気を消した櫻子は、寝室に向かったのだった。

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