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第37話、大原さんも動き始めます。その前に。

「ちょっと私は、祐也ゆうやくんのご両親に伝えておこうと思います。かなり怯えて、怖がっていたと、一条いちじょうさんも繰り返されてましたし……夜分ですから、町に出てホテルにでも」

「お泊まりや。大原おおはらさん。客間って言うもんはないけど、こっちに部屋があらあい。あぁ、お名前は嵯峨さがさんやったかなぁ。きれえな名前や」

「すみません。夜分にお邪魔した上に……」

「かまんかまん」

「じゃぁ、まずは電話を掛けてきます」


 晴海はるみが、暖かいと言う奥の間に案内し戻ってくると、醍醐だいごが正座をしている。


「あの、お願いいたします。風遊ふゆさんと結婚させて下さい‼この家のもんにさせて下さい‼」


 頭を下げた醍醐に、麒一郎きいちろうは、


「いや、醍醐はすでにうちの子やけどなぁ……」

「そうやねぇ」


横に座った晴海ものんきである。


「違います‼この家に婿養子に入って、清水しみずの人間として生きたいんです‼穐斗あきとは、私の息子として‼お父さんやお母さんと、この家でおりたいんです‼」

「キャー‼これは残しとかな‼おかあはんが喜ぶで‼」


 喜んでいる双子の頭を、戻ってきた嵯峨が殴る。


「一生の言葉を汚すな‼ぼけ‼」


 ちなみに、風遊は醍醐の少し後ろで頭を下げ、穐斗はホリゴタツの布団を掛けて貰い、ただす弁慶べんけい義経よしつね鶴姫つるひめが看病している。


 麒一郎は、


「前も言うたけど、ここは限界集落や。そん言葉通り、じいさん婆さんしかおらんなって、最後にはのうなってしまう。わしですらこの集落の中でも若い坊主扱いや。わしの親父やお袋の世代が大半や。他は皆、外に出ていった」

「……」

「昔は子供がようけおって、集落は家族も同然で、行き来も多いし隣組言うて、数軒ごとに集まって、いろんなんに手助けしよった。あぁ、だれそれんとこ法事や、結婚式や、ご不幸や言うてな……女衆が集まって、あれこれ言いながら料理を作りよったわ。ほやけん、台所の外に水場があるんは、中で料理をしよったら、汚れたもんを外で洗う。もしくは、そこの畑でとってきたもんを洗って、料理に使う。で、階段上がって男衆や、家族がおる障子や襖を取り去ってひろぉなった家で祝言や、葬式をしよったんよ。昔は、鍵なんかかけんで出掛けとっても、もんてきたら、誰かがそこの三和土たたきの上に取ってきたもんを置いて帰っとったもんよ。今はそれもできん。この下の道が山から海への抜け道や言うてな、裏道やて……」


言い含めるように告げる。


「穐斗を、風遊を大事にしてくれる言うんは本当に、本当に嬉しい。特に風遊は、最悪な人間に振り回されて……向こうの男を殺したいと思とったわ。あの男に比べたら、醍醐のしっかりした所や、それに言うたらいかんとは言われとったけど、醍醐のご両親から時々気持ちや言うてな。お菓子が届くんや」

「えっ?」


 聞いていなかったらしい醍醐に、双子の兄が、


「やって、叔父はんからおいしかった言うてな、手紙が届くんよ。それになぁ、この地域のちょっとした風景の話とかなぁ。昔はこうやったとか……そう思たら、表現してみとうなろがな」

「そう。醍醐がホタルの美しさに、何度も何度も繰り返し綺麗やった。こんな綺麗な景色は京都にはあらしまへんって言うからなぁ、おとうはんもむきになって、やろか‼やしなぁ」

「えぇぇ?じゃぁ、最近のおとうはんの、写真を送れって言うんは……」

「あきちゃんと風遊はんだけやのうて、見てみたい言うとったわ。今度、結納の時に来るとは思うけどな~言うて、特におかあはんは、ワクワクしとったわ。あれでいておきゃんやさかいに」


醍醐は両親の偉大さを思う。


「やけどなぁ?醍醐よ……わしらももう60になる。あと10年してみい、車の運転は毎回畑の行き来と病院に行くだけにならぁい。どこかしこに悪ぅなって、足腰も弱なって、お前はどうするんぞ?醍醐は30やぞ?こがいな田舎で何するんや。それやったら、婿にじゃのうて、風遊と穐斗をつれて、実家に戻ったらええ。わしらはかまんかまん」

「嫌です‼」


 醍醐は言い切る。


「私にとって、お父さんとお母さんは、実家の両親と変わりません‼それよりも、お父さんだって選べたでしょう?田舎を捨てて町に出て……」

「わしのおいさんがそうや。長男やけど戦争に行ってなぁ……怪我してもんて来た。で、昔は『生めよ育てよ』で、兄弟はぎょうさんおって、20才違いの弟もおったんよ。でもなぁ、そうそう当時は土地も分ける言うても、今のように二束三文やないし、でも、小さい弟らには手に職をつけてやりたい言うて、養子にいっとった弟がもんて来た言うて、町に出てなぁ。商売始めた。旅館や京都のお座敷まではいかんけど、町の国鉄の駅と観光地の間になぁ」


 醍醐は驚く。


「当時は車もない時代や。国鉄の駅が町の出入り口や。その近くで商売したら当たって、田舎におる兄弟を呼んでな。下の弟らには大学行かせたり、職を持たせていうてやりよったわ。やけどなぁ。兄弟に仕事を譲ってをやりよったら、自分とこ言うたら娘4人で跡継ぎが言うて、婿を迎えたんやけど、風遊が生まれてちょっとしてかのぉ。おいさんが逝ったんやけど、借金しか残っとらんかったやと」

「……」

「まぁ、これは極端やけど、借金を残された方は堪らんわな。それに、その借金を頼んだ相手って言うのが知り合いやったら、余計に恥ずかしいて帰ってこれんやろが。可哀想やなとは思うわ。今でもその借金を返しきったんかは知らんけどな」


 首をすくめる。


「わしは勇気がなかった。それだけよ」

「違います‼お父さんは勇気がないんじゃなくて、その人らに帰ってきてもかまんいうて、田舎をふるさとを残しとんでしょう‼風遊さんが言うとったんです。家を飛び出して外国を転々としとっても、帰りたいなぁって思たんはここやって……ほたるまつりも、帰っといで、見においで言うて開くんと一緒です‼私は田舎を守りたいんです‼そして、いつでも帰ってこいって……そう言いたいんです‼辛くても、悲しくても、私には風遊も穐斗もお父さんもお母さんもおる‼今日は疲れたなぁ、また明日や言うて生きたいんです‼」


 醍醐は風遊の手を握り、


「お願いいたします‼年が若くて、頼りないぶんは必死に努力します‼ですから……」


頭を下げる醍醐に、麒一郎は、


「……わしらはかまんけん。まずは、風遊と穐斗を大事にしてや。それだけよ」

「ありがとうございます‼大事に、大切にします‼」


この映像は、兄たちによりスマホの映像の生中継で、醍醐の実家に送られたのだった。

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