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第33話、旅立ちです。

 醍醐だいごの怒りはかなりひどく、兄達を叩きのめそうとしていたのだが、それ以上に怖かったのは、祐也ゆうやだった。

 醍醐が寸前で塞いだものの、穐斗あきとが言いかけようとした言葉を感じ取った祐也は、ある程度話せる醍醐と日向ひなたが通訳を拒否するほど、英語、仏語、中国語の広東カントン語、北京語、四川語で怒鳴り付けたのだった。

 一応、ドイツ語、英語に流暢な風遊ふゆと穐斗の耳は二人で塞いでおいた。


 罵るその言葉が半分以上解らない青年達に、祐也は、


「最低でも中国語と言うのは日本語で言う標準語で、北京語に近いですが、少し違うんですよ。広東語は海ぞい。四川語は成都せいと、パンダの住む四川省の言葉です。この世界中で最も喋られているのが中国語ですよ?知りませんでしたっけ?日本の横浜に中華街、神戸に南京町、アメリカ合衆国にChinatown。世界中で喋られてますが?東南アジアも、中国語を話す人が多いんですよ?それに、中華人民共和国は簡体字かんたいじ、台湾にある大韓民国は繁體字はんたいじです。京都は観光都市ですし、知っていて当然ですよねぇ?」

「……」


 双子は言葉をなくす。

 大柄な、知能的なものは醍醐と日向が受持ち、体力バカだとばかり思っていた青年の知識の深さに。


 にっと笑うと、


「あぁ、体力バカ、脳みそまで筋肉とでも思いましたか?俺、中学校の時まで、大学のある実家に戻るまで、カナダ、香港、オーストラリアに長期滞在。短期はイングランドに台湾、アメリカ合衆国もいたんですよ。生まれた時も一応カナダ国籍です」

「……はぁ、そ、そげな……」

「で、今回は、お兄さん方を見送ったら、ひな先輩とイングランドに行くつもりです。通訳兼ガイドとして」

「そう言えばTOEICお前……」

「満点です」


 双子は目を丸くする。

 満点……。


「日本の英語は難しく考えすぎですね。で、お兄さん方?先輩や母さん、穐斗を泣かすようでしたら?社会的にも、それに伝統ごと『松尾まつのお』潰しましょうか?お父さんや代々の御当主が必死になって守ってきたのれんを、御二人の代で下ろす……辛いでしょうねぇ?」

「おとうはんやおかあはんは嘆くでしょうねぇ……勿論。あては『松尾』よりも、風遊と穐斗をとりますけどな」

「それは大変だ……投資家としては……」


 ニヤリ……


日向が笑う。


「え、ちょ、ちょっと待ってくれへんか……あの……」


 祐也は二人に顔を近づけると告げる。


「穐斗と母さん悲しませたら、体力戦でも、頭脳戦でも何でも使ってブッ倒します。ちなみに10年程前にTVでやってませんでしたか?両親に虐待されていた小学生が、オーストラリアの家を追い出されたのでヒッチハイクして、首都の反対側で発見されたって、あれ、俺ですよ?親って言っても父親は血の繋がりはありましたが、継母と血の繋がりのない兄弟にいびられて、日本の母方の親戚にも連絡を取らせて貰えんかったんです。で、家におっても死ぬ思て、牧場の手伝いやら、体力仕事しながら生きてたんです。そうやって生きますか?」


 双子はゾッとする。

 お坊っちゃん育ちの二人に出来る訳はない。


「す、すみませんでした」

「堪忍や……」

「まぁ、こういうことですし、穐斗?」

「う、うう、うえぇぇぇ」


 しがみつき、


「やだぁぁ‼僕も行く~‼一緒がいい‼」

「母さんと先輩とおり。それにな?しんどい時に動いたらいかんで?ええ子にしとったら、買うてくるわ、母さんがいよったやろ?メリーソート社のチーキー」


 よしよし……


頭を撫でる。


「田舎についても調べてみたいし、荘園やなぁ……ウェインに頼んでみないかん……」

「そろそろ、時間だ。祐也。安いチケットの便の空港滞在時間は短い。行くぞ」

「そうですね。じゃぁいってこうわい」


 二人は手を振り去っていった。


「な、何か……同性愛っぽい?」

「いや、ホモや‼」


 双子の片方に、背後から蹴りをいれる醍醐。


「下品なことは言わんといてくれませんか?穐斗と祐也くんは、あんさんらの考えとるようなえげつない関係やあらしまへん‼そんなこと言うようやったら、風遊さんに穐斗。送ったら3人で帰りましょう」

「ちょっと待ったぁぁ‼」

「この空港から、車で二時間以上‼たのんます‼おとなしゅうしとるさかいに‼」


 わいわいと騒ぐ兄弟を尻目に、食い入るように飛行機を見つめていた穐斗は、飛び立ったのを泣きながら見送ったのだった。

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