第25話、穐斗の父と従兄弟の登場です。
祐也は安全運転派である。
大きな道や高速道路ではそれなりの距離で走る。
それなりと言うのは、この地域では40キロと書いてあったら大体60キロ程度で走る。
それは、大きな道と言っても、大きな街から町に移動する国道でも、所々登坂道路がある片側一車線の道路が多く、40キロで走っていたら逆に渋滞を招く。
カーブが多いので、地域の人間は、
『それさえ気い付けとったら、かまへんやろう』
となる。
しかし、穐斗の実家は県道でも、交互に行き交う川沿いの山を削って道を作った道で、カーブは多く、大きな車ではクラクションと、行き交う車に注意である。
ネットで何かを調べていた日向は、不意に後ろを見る。
ライトが点灯し気になったのである。
「何だ?ベンツ?しかもあれは、特別仕様の限定だぞ?」
「エェェ‼父や‼」
のそのそと小さい身体を生かし、後ろに移動した穐斗はますます嫌そうに、
「姉ちゃん乗せとる‼それに、祐也位大きいけん……モルドレッドやろか?嫌やなぁ……川ん落ちたらエエのに、いねや~‼」
ウキィ‼
かんしゃくを起こす。
「なぁ、穐斗。あの車よりはよ着けるか?鬱陶しいなぁ、あれ。後ろからあおるのやめてくれや、腹立つわ‼あのおっさん‼」
夜にサングラス、しかも高級な葉巻を手に運転する男に、祐也も嫌悪感を表す。
前に戻った穐斗は示す。
「あぁ、この車なら、この上からまっすぐ行ける道があらぁい。急カーブやし、あれ曲がれんわ。ここ右上がりや」
「ん?あれ、この道は……」
「うん。左んは元々グラウンドで、今は空き地よ。祭りの時には駐車場。その横の道を上がっていってや」
そのまま言われた通り進むと、一度では上がりきれず、数回バックしつつついてくる車。
「このカーブのすぐんとこに、左に折れてぇや。そこは姉ちゃん、知らん道よ」
「解った」
言われた通り曲がり、すぐに左の草影の道に入る。
「で、下。下ったら、あん車から隠れるけんな。そのまんま、まっすぐ進んでや」
「あぁ」
周囲にはライトはなく、周囲を確認しつつ道を進むと、雑木林のなかと思われたのが開かれ、
「あれぇ?あきちゃんのお家の真下に来ちゃった?」
「うん。ここは、手前の町の方の畑に仕事に行くおっちゃん達の抜け道よ。下を行くよりもはやいんよ」
と、車を家の方向に進ませ、
「到着‼穐斗。先輩らがもんてきたんと、弁慶らを連れて、言うてこいや。まっちゃんおっちゃんに荷物運んでもろた方が良かろ?」
「うん。いってこうわい。行くで。弁慶。義経、それに姫~‼」
駅に向かう間に、甘えん坊の鶴姫をなつかせた穐斗は鶴姫をだっこして歩いていく。
すると、車の音に気がついたのか、出てくるのは政和と風遊。
「風遊母さん。出てこんといて‼行くけん」
祐也は声をかけ、代わりに来た政和に、
「まっちゃんおっちゃん。穐斗の父ちゃんが来るで。急いではいろや」
「なんやってぇ‼よし‼えっと、スゥちゃんやったかの?荷物持つで」
と、一応隠居に荷物を運び、穐斗が持ってきた、滅多に使わないと言う鍵をかけて、母屋に入る。
「ようもんてきたなぁ。醍醐に日向に、スゥちゃん‼」
前に急にではあったものの泊まり、そして、夏休みにも祐也はほぼここに住み込み、時々遊びに来ていた3人は、麒一郎と晴海に盛大に出迎えられる。
そして、
「こんばんは。急にごめんなさい。おじいちゃんおばあちゃん。風遊さん」
「ご迷惑をおかけします」
「本当に、夜分に……」
「何言うとんで。孫が会いに来たようなもんや。はよおはいり。寒かったやろ」
と、3人を招く。
「食事中だったんですか~‼すみません。それに、穐斗くんも祐也くんもごめんね?」
と済まなそうになる醍醐に、
「かまんかまん。それよりも。3人もおたべんさいや。ぼたん鍋やけど」
「エェェ‼ぼたん鍋‼食べたことないです~‼美味しそう‼」
糺の笑顔に、麒一郎が、
「町のもんには癖がある言うて、嫌がるもんもおるんやけんどな」
「でも、俺は、逆に桜肉を食べてますし……」
日向の言葉に、
「桜‼馬肉かぁ。どっちがおいしいやろなぁ」
風遊に箸と器を渡され、肉を口にした醍醐は、
「そんなに癖ないですよ~?逆に歯応えがあって、噛むと味が出る……私は好きですね」
「お前、好き嫌いないもんな……ん?あ、これはおいしい‼桜とも違う‼」
日向も満足そうである。
と、扉が開き、
「こんばんは」
アクセントの強い、外国人特有のイントネーション。
ビクッ、
風遊が震え、政和が、風遊を隣の醍醐に押し付けると、
「夜もおそうなって、客でもないのに、よう勝手に入ってくんなぁ?あんた」
「おや、政和さん。こんばんは。貴方も客ですか?」
障子越しに怪しい日本語を話す男。
政和は障子を押さえ込んだまま、
「俺は、この家の遠縁で、隣のもんや。あんたとは違うわ。帰れや‼」
「私はぁ、この家の者ですよ。何せ、ここの娘の風遊と……ノォォ‼」
と言う声と共に、ドスン‼と言う音が響き、
「お父さん‼何してるのよ‼そこは室よ?」
と言う夏樹の声が響く。
英語で、罵る声が聞こえる。
「何て言ってんだ?」
政和の問いかけに、醍醐が、
「クッソォ‼こんなところに穴が‼冗談じゃない‼この私の高級な服が汚れてしまったじゃないか‼これだから、身分のない奴らは……ですね。後は、耳が汚れるので言いません~」
「……」
麒一郎はスッと奥に入っていくと、猟銃と弾を持って戻ってくる。
「わぁぁ‼おっちゃん‼それはいかんで‼おっちゃんが罪になる~‼」
「のけ‼」
「あかん‼」
への字に折れた猟銃に弾を込めようとした麒一郎から、祐也が銃を奪う。
「じいちゃん‼いかん‼まっちゃんおっちゃんの言う通りや‼じいちゃんが悪者になる‼俺と同じやで‼」
「祐坊‼やがな⁉」
と、今度は台所から、夏樹と長身の男が二人姿を見せる。
「何しに来たんで‼」
叫んだ風遊に、英語で何かを話す若い方の男。
赤髪で、緑の目の、
「おや。世界で一番下手な俳優7年連続受賞の、モルドレッド……何でしたっけ?」
「醍醐。覚えても意味はない。確か、お兄さんのガウェイン・ルーサーウェインは、新人男優賞や主演男優賞、他にも賞を貰っている有名なイングランドの俳優で、19才。確か5才から俳優デビューしていて、有名な長編ドラマにも、連続ものの映画にも出ている。美貌でも知られていて、金髪に碧眼。弟は色が暗い色で、兄に比べて……で、その上、演技もろくにできない上に、わがまま放題でドタキャン続きで干されている。代わりにガウェインが謝罪に謝罪だそうだ。賢兄愚弟の典型だな」
「へぇ。お兄さんは知ってますよ。あの有名なアーサー王伝説のドラマで、苦悩するランスロット演じてましたね」
「あぁ。あれは名作だな。アーサー王役を完全に食ってしまっていた。あれで助演男優賞だろう?」
日向の一言に、
「えぇ?あのガウェイン・ルーサーウェインと従兄弟なのか‼穐斗」
銃を長身を生かし、上に隠した祐也に、周囲はぶっと吹き出した。
「祐坊~‼違うわ。ウェイン坊は、穐斗の甥や」
「はぁ‼あの美形の叔父……穐斗。良かったな。お前は風遊母さんに似て、並んでも見劣りせん。可愛いぞ‼」
「誉めとらせんが~‼わーん‼祐也がぁ‼」
「冗談冗談。悪かった」
よしよしと宥める。
『おい、貴様‼』
英語で叫ぶ年下のモルドレッドを睨み付け、
『黙れ‼年上に向かって、何て口の聞き方だ‼無礼で下品な‼自分の身分がどうとか言う前に、人を敬え‼このクソガキが‼』
と怒鳴り付ける。
『それにな?おっさん?自分の身分うんぬん言う前に、子供や甥に礼儀教えろよ‼それに自分自身が、品がねぇおっさんだろうが‼知ってるか?イングランドでは言わないが、あんたってアレクだよな』
『アレクサンダー王と言うことかな?』
『ハッ!知らないのか?オーストラリアでの俗語でアレク。バカって言う意味だ。あんた、アルテミスって名前やめて、アレクにしろよ‼で、夜も遅いのに、人んちに靴のまま上がり込むな‼帰れ‼』
障子を開けると、3人を次々ひっぱりだし、玄関を閉める。
『人の家に勝手に入るのは不法侵入だ‼今度やったら訴える‼』
「あぁ、MEGさん。これ、スマホとタブレットで撮影して、弁護士に送りましたので」
日向はにっこり笑う。
「良かったですね。テレビにも送っておきましたので、モルドレッド、貴方も益々人気が落ちるんじゃないんですか?」
その言葉に3人は帰っていったのだった。
しかし、この映像は世界配信され、モルドレッドの不法侵入に、兄のガウェインが頭を抱えたのは言うまでもなかったのだった。
登場人物ですが、
ガウェイン・ルーサーウェイン……本名はガウェイン・ルーベンス・サー・ウェイン。19才。サーは、sirで、男爵以上の爵位を持つと言う意味です。実家は侯爵家で、本人も将来は継ぎますが、現在は子爵領を治める領主様です。と言っても、小さい領地で、のどかな昔のイングランドの田舎で、定期的に猟をして、兎を狩ったりしています。性格は温厚、誰にでも優しく、両親自慢の息子です。穐斗のことも、叔父と言うより兄弟に近い感じです。金髪に碧眼。母親に良く似た美男子。
モルドレッド・カーサーウェイン……モルドレッド・カーク・サー・ウェイン。
次男。17才。元々は栗色で、そばかすの浮いた少年。できた兄と比較される上に金髪ではないので髪を染めたり、脱色したりしています。小さい頃からわがままで、両親の頭痛の種。祖父には可愛がられていると言う設定です。
アルテミス……穐斗の父。名字は考えてません。まだ。年は60位ですよね?女好きです。今でも恋人両手に余るほどいます。認知していない子供もいたりして、80過ぎの両親が嘆いています。




