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第23話、9人乗りの大型車の乗り心地はとてもいいようです。

 祐也ゆうやは高校時代に学校の帰りに自動車学校に通い、早々に免許をとっていたが、穐斗あきとは早生まれで、その上、高校時代は実家から母に車で送って貰い帰っていたのと、自動車学校が実家と反対にあった為、取らずに大学に進学した。

 ついでに、大学の空き時間にでも取ろうと思っていたのだが、座学は全て終了したが、運転が全く駄目で担当教官が、


「わしも十数年教えてきたが、お前程運転に適さん人間は知らんぞ……やめとけ」


と匙を投げられた。


「せ、先生……僕、家が山なので免許がないと動けないんです……」


と必死に訴え、数限りなくギリギリまで補習をして、ようやく免許をとれたのだが、一度、祐也が車を貸し助手席に乗った所、一キロも進ませず交代した。


「えー?何で?」

「左右のミラー‼ついでに方向指示器‼意味もない所で、クラクションはいらない‼」

「えー?そうなの?どうしよう。僕、明後日レンタカー借りて、実家に帰るつもりだったんだけど……」

「この時期に?」


 5月の終わり、6月の初めである。


「うん、ほたるまつり。ほたる狩りするんよ。それに、廃校になった小学校のグラウンドで、地域の伝統芸能の発表とか、地域の桶うどんとか、ちらし寿司に山菜おこわに……どうしよう‼帰れんかったら、頼んどったチケットパァや‼わーん!折角母さんに言うて、頼んどったのに~‼」


 半泣きの穐斗に、丁度、土日が空いていた祐也が、どうせならと先輩たちを誘い5人で向かった。

 で、昼過ぎから夜まで、田舎のお祭りや、地域の人と話したりを楽しんだ5人は、日が陰っていき、チラチラと小さな命のきらめきが瞬く頃に、


「ねえ‼祐也‼それに、先輩‼ここはそんなにほたるがおらんのよ。でも、ここから、行きと逆に入っていった所に、目の前でほたるがぎょうさん見える穴場があるんで~‼行こ‼そこはなぁ、じいちゃんがばあちゃんにプロポーズしたんやって‼」

「そんなに見えるのか?」


日向ひなたの問いかけに、珍しく被っていた帽子を持ち、


「これで採れるもん‼あ、母さん‼」

「あんたら、ここでおるんかね?」


風遊ふゆが顔を覗かせる。


「あそこにほたる、見に行こ思て」

「じゃぁ、一旦、荷物と車、家に持ってお行き。一緒にいったげるけんな。ついといでや。あぁ、何やったら、小さい車じゃ大変やろ?こっちにのりや」


と、醍醐だいごがではと、乗せて貰い移動した。

 元々醍醐は家が商売をしているので、話上手聞き上手、その上、風遊はおおらかな為、気が合い、意気投合したらしい。

 その為、一度家に移動し、祐也の車をおいてその場所に行くと、


「ちょ、ちょっと待ってぇぇ‼これって星?降ってくる‼」


ただすがキョロキョロと見回し、風遊が道の向こうの森を示す。


「ほたるの雄は、昼間は森で休んどんよ。で、日が落ちたら、森から川に降りてくる。ここは、山の間やし、川を渡る橋の傍。その上、草が適度に生い茂っとるやろう?ほら、みとぉみや」


 空からキラキラと降りてきた命の星が、チラリチラリと光を放つ。

 ちなみに、ゲンジボタルの光は日本の東と西で光り方が違い、長さも違う。


「ン?」


 日向は手を伸ばし、何かをつかんだ。


「ひ、ひなちゃぁぁん?」

「いや、光が弱い気がして……これは……」

「平家蛍や。源氏は……」


 息子の帽子を取り、ひょいっと動かして引っ掛かったものを両手に包み見せる。


「ほら、スゥちゃん。みとおみ。これが源氏蛍や。平家より大きかろう?」

「あ、本当‼それに、光が強い」

「そう。大きいけんね。この光で、川におる恋人を誘うんや。ほら、回りじゅう、現実の世界とは思えんぐらい、美しいと思わん?」


 糺は目をキラキラさせる。


「思います‼この光景……文章に書ききれない……どんな美辞麗句を飾っても、言葉が色褪せてしまう……。空には本当の星がキラキラとしてて、回りには、降ってきた星のような瞬く光が舞い踊る……これが、本当の世界……はぁぁ……この世界が現実なんて……」

「この世界はなくなるかもしれん……危うさも秘めとるんよ。年々川の水が汚れて、綺麗な水が好きなほたるには環境が悪ぅなっとる。その上山も荒れて、絶滅はまだせぇへんけど、失われる可能性もあるんよ」


 風遊は手の中のほたるを離し、微笑む。


「スゥちゃんは物書きやろ?やったら、この美しさを紙の上に……文章にして残してあげてや。本当の世界で残すんはこの地域の人間や。努力するわ」

「は、はい‼」

「やったら、もう少し観たら帰ろうや」


と、初めて穐斗の家に泊まった日の事である。




 ほたるを回りで見た場所とは逆に走っていくと、山と山の間の谷を抜け、駅に到着した。


「あきちゃぁぁん‼祐ちゃん‼」


 手を振っているのは、糺。

 その横で少し寒そうに立っているのが日向と醍醐。

 そして、足を組んで座っているのが……。


「もうちょっとしたら、最終電車。きいつけてお帰りや」


穐斗は冷たく告げる。

 運転席から降りた祐也が、


「先輩。荷物は後ろに。で、座席は……何勝手にはいりよんで‼」


強引に乗り込もうと、扉を開けた穐斗の姉の夏樹なつきだが、


 ワン‼

 ワンワン‼

 クルルルル……‼


と言う3頭の犬に腰を抜かす。


「ギャァァ‼な、何よ‼これ‼」

「あぁぁ‼久しぶり~‼弁慶べんけいちゃん‼義経よしつねちゃん‼」


 糺はセッター、ポインターの大型犬を、恐れもせずに抱きつく。


 キュゥゥ?

 構ってくれないの?


と言いたげに鳴いた子犬を見つけ、


「おぉ‼ミニチュアシュナウザー‼しかもブラックタンとかじゃない‼うわぁぁ……」


呆然とと言うよりもうっとりとみいっている日向に、


「先輩。鶴姫つるひめです。甘えん坊なんで、中で存分に‼」


祐也は抱かせ中に押し込み、


「醍醐先輩も、弁慶好きですよねぇ」

「綺麗な犬ですよねぇ。本当に、賢い犬は大好きですよー」

「じゃぁ、帰りましょう。じいちゃんたちも待ってますよ」




夏樹を残し、車は帰っていったのだった。

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